担保取戻し

保証をたてて保全命令を得たが、その執行をしないまま執行期間がすぎてしまった場合に、どのような手続きによって保証の目的物を取り戻すことができるでしょうか。保全命令を得るために、債権者がたてた現金または有価証券等の保証は、(1)保証提供者が担保の事由がやんだことを証明した場合、(2)担保権利者、債務者が担保取消に同意したことを証明した場合、(3)保全処分の本案訴訟が完結した後、担保権利者が、一定の催告期間内に担保権を実行しないため、担保取消に同意したとみなされる場合のいずれかに該当した場合に、保証提供者が裁判所に対し担保取消決定を求める申立てをなし、両決定を得てこれを取り戻すことがでぎるものとされています。保全命令を得るためまたは保全処分を執行するために債権者に提供させる保証は、理論的には、債権者の疎明が不十分なため、その疎明の代用としての意味を有するものと、仮処分の執行が結果的には違法、不当なものであったとき、これによって生じた損害を担保する意味を有するものの二者がありますが、実際上は後者の意味を有する保証が重要な役割を果たしており、債務者は提供された保証の目的物の上に担保権利者として質権者と同一の権利を有します。前述の(2)(3)の場合は、担保権利者が、自己の有する担保権を放棄した場合、または供託物に対する権利を放棄した場合であって、これが担保取消の事由となっています。これに対し(1)の担保の事由がやんだというのは、担保権発生の事由が消滅したこと、つまり保証のため提供された目的物によって担保される債権が絶対的に存在しないか、発生がありえない場合をいいます。設問の場合は、担保を提供したが、保全命令の執行期間内に執行をせず、期間を徒過してしまったために、債務者になんらの損害は発生していません。したがって(1)の担保の事由がやんだ場合に該当すします。

スポンサーリンク

お金を借りる!

設問のように執行期間を徒過した場合であるとか、あるいは担保提供後保全命令発令前に申請を取り下げたような場合は、担保取消事由に該当するため、理論上は担保取消決定手続を経なければなりません。ところが、このように債務者になんらの損害を与えていないことが明白な場合には、実務上は担保取消決定をしないで、より筒易な方法で供託書を下付する手続をとる場合があります。実務上これを担保取戻許可手続と称しています。この手続は、担保権利者になんらの損害も生じていないことが明白であれば、担保取消決定をしてこれに不服申立ての機会を与えて担保権利者を保護する必要はなく、裁判所の許可という簡易な手続によって担保提供者に供託書を交付すればよいという、実務上の要請から認められるに至ったものですが、法律上規定があるわけではないので、これを認めることにつき積極、消極の両説があります。消極説はもっぱら理論的側面から担保取消決定をするべきであるというのに対し、積極説は、理論的には消極説を肯定しながら、実務上の便宜と担保権利者に対する実害の不存在という面から説明するものです。現在の実務の大勢は積極説をとるものが多く、消極説の立場にたつものはごく少数です。しかし、担保取戻許可手続を認めるとしても、いかなる事由がある場合に認めるかとなると、必ずしもその取扱いは統一されているわけではありません。まず、疑いのないのは、保全命令の発令前に債権者がその申請を取り下げた場合で、この場合はそもそも発令がないために担保権利者に発生すべき損害自体がないので問題はありません。次に、保全命令が発令されても、発令されたことによる損害を認めない立場からは、執行行為の不存在、つまり、(1)保全命令正本を債権者に交付前、保全命令申請が取り下げられた場合、(2)保全命令正本を債権者に交付後、債権者が執行の申立てをする前に保全命令申請を取り下げた場合、(3)保全命令正本を債権者が受領し、執行申立てはしたが、執行に着手する前に保全命令申請および執行申立てを取り下げた場合、(4)債権者が執行申立てをしないまま執行期間を徒過した場合、等は執行行為の着手がないので担保権利者に実害は生じていないから担保取戻許可手続を認めることとなります。さらに、現実に執行には着手したが、執行の目的が達せられなかったいわゆる執行不能の場合、つまり、(1)債権仮差押命令が第三債務者に不送達となった場合、(2)不動産仮差押命令または不動産処分禁止の仮処分命令の登記嘱託が却下された場合、(3)不動産占有移転禁止仮処分、有体動産仮差押等、執行官に執行申立てをしてなすぺき執行が不能となった場合、(4)単純な作為、不作為を命じた仮処分命令が債務者に不送達となった場合、(5)債権仮差押事件で民訴法六○九条の催告をうけた第三債務者が債権の存在を否認した場合、等は、債権者の提供した保証によって担保される損害の発生はないものとされ、担保取戻許可手続を認めています。もっとも以上のような、執行行為の不存在、執行不能の場合も保全命令が債務者に告知されれば告知をうけたことによる損害を担保すべきであると解する説もあり、この説にたつときは、通常の担保取消決定手続を経ることとなります。

お金を借りる!

保全処分の保証額/ 立保証のための期間/ 担保取戻し/ 保証に対する債務者の権利行使/ 仮差押えの目的債権と給付訴訟/ 占有移転禁止仮処分/ 家屋の占有移転禁止の仮処分/ 仮処分違反の占有移転/ 処分禁止仮処分の効力/ 仮処分の競合/ 不作為を命じる仮処分/ 異議と取消申立て/ 異議訴訟での申請の変更/ 仮処分に対する異議/ 仮処分の帰すうと異議訴訟/ 起訴命令と保全処分命令の取消/ 事情変更による保全命令の取消/ 特別事情による仮処分の取消/ 断行仮処分と原状回復/ 保全執行の申立て/ 保全命令の執行期間/ 仮処分目的物の特別換価/ 不動産仮差押としての強制執行/ 移執行/ 仮差押えと強制執行/ 処分禁止仮処分と強制執行の競合/ 処分禁止仮処分と滞納処分/ 保全執行後の申請取下げ/ 保全執行の取消し/