立保証のための期間

保全命令に対する異議訴訟において、債権者が追加保証をたてることを条件として保全命令を認可する判決をする場合、保証をたてるべき期間を定める必要があるでしょうか。民訴法七四五条二項は、民訴法七四一条とは別に、仮差押命令に対し異議申立てがあった場合、異議裁判所において、当該仮差押命令の全部または一部を認可するにあたり、その事由な意見をもって定むる保証の供与を仮差押債権者に命じうる旨定めています。この規定は、民訴法七五六条により、仮処分決定に対する異議の場合にも準用されます。このように、異議訴訟において、追加して供与を命じられる保証を追加保証と呼んでいます。この追加保証も、違法仮差押による債務者の被ることあるべき損害の賠償を担保することが唯一の目的である点で、七四一条の保証とその本質は同じです。民訴法七四四条による異議訴訟は保全処分申請の当否とともに保全命令の当否を裁判するものです。

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追加保証をたてることを条件として原決定を認可する判決があった場合、この条件が、保全命令の認可に係るのか、あるいはその執行に係るのかについては、次のように見解が分かれています。
原決定認可条件説では、民訴決七四四条の異議は、同条二項が債務者において、原決定の取消または変更の理由を開示すべきことを要求していることからしても、裁判手続に関する規定であることが明らかであり、民訴法七四五条二項の規定が異議についての裁判を定めている以上、認可判決で命じられた保証は、決定でなされた保全命令の認可に係るものであるとする見解です。この説によれば、保証をたてることを条件として認可するということは、一応取り消しますが、追加保証をたてればさかのぼって認可するというのか、一応認可するが、追加保証をたてなければ取り消すというのか、多少問題がありますが、いったん失効した裁判の復活を認めるというのは不当であるため、後者の越旨に解せざるをえません。
執行条件説では、追加保証は、執行の条件である原決定の保証の内容の変更であるため、保証を条件とする原決定の場合とまったく同様の効力を有する、という見解です。この見解のもとでは、追加保証をたてることは、原決定が執行されていないとぎは、執行開始の案件であり、その執行がなし終わっているときは、原決定が事情変更による取消申立てによって取り消されることがないための案件である、ということになります。なお、認可というのは、原決定の繰返しであるため、原決定と同じように執行力があり、執行期間も新たに進行します。原決定の執行がなされていないときとは、原決定につき執行停止がなされていた場合、または、原決定を取り消した第一審判決を取り消して追加保証を案件とする原決定認可の控訴審判決があった場合などがこれにあたります。
認可条件説では、追加保註をたてないことが認可の解除条件となっており、条件付取消を含んでいるために、権利関係をいつまでも浮動状態にしておくことのないようにするため、主文中で追加保証をたてるぺき期間を明示することが必要です。執行条件説では、追加保証をたてることが執行開始の条件であるときは、執行期間の制約があるので保証提供期間を定めることは必要でもなければ相当でもありません。保証をたてることが原決定が事情変更による取消申立てによって取り消されることがないための条件であるときは、保証提供の期間を定めれば、該期間は保証をたてなくとも事情変更にならないというだけの意味しかないことになります。
追加保証をたてるべき期間を定めたとき期間経過後の立保証の可否は認可条件説では、期間経過すれば保全命令は失効してしまうので、不可能ですが、執行条件説では、原決定の執行がなし終わっているときは、事情変更による取消申立事件の口頭弁論終結までにかぎり、可能です。
追加保証を条件とする原決定認可の判決には仮執行の宣言を付する必要があるかどうかでは、認可条件説では条件付取消の趣旨を含む以上、仮執行宣言を付すべきです。執行条件説では、執行開始の条件としての追加保証をたてるべき旨命じた部分は、保全訴訟の判決の執行力の特質上仮執行宣言を付さなくとも言渡しと同時に効力をもつものと解せられるため、仮執行の宣言の必要をみません。ただし、追加保証につき、条件を変更したことになる限度で原決定を取り消したために、民訴法七五六条ノ二により、仮執行の宣言を付すべき言を示唆する東京高判昭和三○年二月一七日があります。
認可条件説では、債務者は、この判決と所定期間内に債権者による追加保証の提供がない旨の保証供託裁判所の証明書を執行機関に提出することによって、執行の取消を求めることができます。執行条件説では、原決定による執行が開始されたが未了であるときは、債務者は、この判決正本を執行機関に提出することにより、執行の停止を求めることができます。原決定による執行が終わっているときは方法がありません。
認可条件説は、民訴法七四四条二項、七四五条二項の規定を総合的に素直に解釈し、追加保証を命じた裁判の趣旨に適応した法律状態を最も速やかに現出せしめる理論として評価できますが、次のような欠陥をもっています。
認可条件説では、この判決言渡しののち、債権者は追加保証をたてなくとも所定期間内ならば、原決定を執行できることにならざるをえません。これは不当です。
保証を条件とする保全命令を決定でする場合は、立保証は一般には執行開始の案件とされています。認可条件説は、これとの均衡がとれません。
執行条件説は、法文の規定にややそぐわない嫌いがないではありませんが、認可条件説のような欠陥を有しません。しかし、不作為を命じる仮処分決定を追加保証を条件に認可した場合については、執行条件説を採ることは困難です。保証をたてることを条件として発せられた不作為を命じる仮処分では、立保証は、仮処分の効力発生要件であるため、その発令にあたり、立保証の期間を定めるのが相当です。債権者が期間を徒過したときは、立保証の条件が不成就に確定し、仮処分命令自体失効します。したがって、期間経過後の保証もその効果を発揮する余地はありません。もっとも、仮処分のなかに立保証の期間を定めなくとも、立保証につき執行期間の準用があり、命令の存立自体が保証にかかっているため、立保証のないかぎり命令自体無に等しいことになる、との見解もあり、このような仮処分決定については、仮処分債務者がそれに違反しないかぎり、本来の意味における執行はありえず、その執行停止がなされた場合でも、一般に、その効力の停止の意に解されています。そうだとすると、かかる仮処分の認可判決における追加保証につき、執行条件説を採るのは相当でなく、認可条件説を採るのが相当です。

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