保全処分の保証額

保全処分の保証額はなにを基準にして定めるべきでしょうか。民訴法七四○条二項は、債権者において請求及び仮差押の理由を疎明すべきことを定め、七四一条二項は、右疎明が十分でないときでも、仮差押に因り債務者に生ず可き損害の為債権者か裁判所の自由なる意見を以て定むる保証をたてたときは裁判所は仮差押えを命じうることを定め、同条三項は、これと逆に疎明が十分であるときでも、裁判所は債権者に保証をたてさせて仮差押えを命じうることと定めており、以上の仮差押えに関する規定は仮処分の場合にも準用されます。この立保証は、保全処分による債務者の損害を担保するためのものです。通説、実務の大勢によれば、債務者は債権者に対する損害賠償請求権を被担保債権として、債権者の国に対する供託物取戻請求債権上に債権質を有することとなります。損害賠償請求債権は、保全処分が被保全権利または保全の必要性を欠く場合に生じるものですが、判列によれば不法行為にもとづくものであり、ただ、保全命令が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは原告敗訴の本案判決が確定した場合には、特段の事情がないかぎり債権者の過失を事実上推定すべきであるとされます。

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立保証の直接の目的がこのとおりである以上、債務者が被るであろう損害の額が保証額算定の最大の標準となります。損害の範囲について格別の制限はないため、不法行為の一般理論がすべて妥当します。通常は保全執行と因果関係のある損害ということになりますが、相当因果関係さえあれば保全命令自体による損害も担保され、また慰謝料や解放金供託、異議、取消等の手続費用などの損害ももちろん担保されます。しかし、発令段階でこの損害の予測算定を十分にすることは実際上至難のことといえます。例えば不動産処分禁止仮処分等きわめて典型的な保全処分においてすら理論上実際上種々の難問障害が多々あり、その余のたとえば非典型的な不作為を命じる仮処分などにおいてはほとんど予測算定のしようがない場合すらまれではありません。
疎明の程度に応じて、損害の発生ないし不法行為の成立の蓋然性、確率に差異が生じる以上、疎明の程度が立保証額の算定に一般的にきわめて大きな比重を占めるのは当然といえます。もちろん、どの程度の立証ないしこれによる心証をもって被保全権利および保全の必要性につき疎明があったとするのか、疎明が不十分であるのパト保全処分を発令するのはどのような場合か等の問題と関連し一口に疎明の程度といっても、各種保全処分の保全目的ないし類型、被保全権利の種類、緊急性ないし保全の必要性の程度、事案の背景ないし基礎的事実関係等々を総合勘案して、通常提出可能な疎明方法の質量と必要とされる心証程度に、当該疎明方法内容を対置させて経験的かつ実践的に把握するほかないものであり、理論的に数量化することも保証額に反映させる方程式を案出することもほとんど不可能なものです。
仮差押命令には必ず解放金が定められ、これが供託されたときはこれに仮差押えの効力が及びます。解放金は通常請求債権額と同額に定められますが、目的物価額がこれよりも低いときにはその価額により定められます。他方、仮処分命令にも解放金が定められることがあり、このような場合には、損害論とも関連しますが、解放金額を十分に考慮して保証額を算定すべきです。
損害担保という面からみるかぎり、国や大銀行のごとく十分な資力、信用がある債権者の場合、立保証は不要といえます。しかし、立保証は一時的にせよ一定の財貨を凍結させる一種の犠牲、負担を負わせ、これを克服してまで保全処分に訴えるのかどうかという面から、その意欲を計り、被保全権利および保全の必要性の実在することを多少なりとも推測し、ひいて保全処分の濫用、不当利用を防止する機能をも有しています。この意味では、資力が十分であることは直ちに立保証を不要ならしめないといえます。加えて、感情的なものでしょうが、その余の債権者や当該債務者が不公平不当と考えるおそれのある取扱いは最も避けるべきものと考えられます。逆に、債権者の資力、信用が乏しい場合、担保目的を強調するかぎり、十分な担保をたてさせるべきこととなります。しかし、経済的弱者の権利保全の途を事実上断ってしまうことが不当であることは多言を要しません。よって、事案を十分に吟味したうえで、おのずと限度はあるでしょうが、逆に適宜保証額を低くすることも許されると考えられます。通常の保証割合で算定すると絶対額がきわめて高額になる場合も同様に考えられます。実務の大勢も以上と同様の取扱いと思われます。
その他、共同保証の問題など検討すべき点が多々ありますが、要するに、立保証の直接の目的が損害担保にあるからといって、その額ももっぱら債務者の被るであろう損害額だけに着目して算定すべきであるという必要はなく、当該紛争の実態、背景、その円滑な進行解決、新たな紛争の防止など大所高所的観点をも加味して、必要な範囲で各事案に顕われた諸要素を全部考慮して算定してもなんらさしつかえないと考えられます。その意味で純理論だけでは律しきれないきわめて実践的なものと考えられます。

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