手形の買戻請求と預金債権の相殺

割引手形の買戻請求権については、かつて、手形割引取引に関する事実たる慣習にもとづき手形割引契約の内容として存在する買戻請求の約定を原因として発生する権利であるとする見解もありましたが、現在の銀行取引においては、銀行取引約定書ひな型が広く採用されているため、その発生原因、要件もすべてこれによって明確にされるにいたっています。それによれば、割引手形の買戻請求権は、割引依頼人に所定の事由が生じた場合に銀行の通知催告なしに当然に発生するものと、銀行の請求によって発生するものとの二種にわかれており、当然発生事由としては、支払の停止または破産、和議開始等の申立、手形交換所の取引停止処分などの信用状態悪化の徴表となるような事由が列挙されています。そこで、割引依頼人が倒産したような場合には、これらの当然発生事由のいずれかに該当することになるので、ただちに割引手形の買戻請求権が発生し、銀行はこれを自働債権として割引依頼人の有する預金債権と相殺することができます。

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割引依頼人が倒産したのち、破産の申立がなされ、ついで破産宣告がなされるにいたると、相殺権の行使が一定の範囲で制限されることになる結果、そのような割引手形買戻請求権と預金債権との相殺についても、その許否が問題となる余地がでてきます。つまり破産法は、支払停止や破産申立など債務者が経済的に危機にあることの外部的徴表のあらわれた時期に悪意で破産債権を取得した者に、対当の名目額で財団に対する債務を充れさせるのは、債務者の不当な策謀を容認することになって公平に反するところから破産者の債務者が支払の停止または破産の申立があったことを知って破産債権を取得したときは、その破産債権をもって破産者に対する債務と相殺することは許されないと定めているので、支払停止または破産申立を知ったのちに銀行が手形買戻請求権を取得したのであれば、この制限により預金債権との相殺は許されないということになりそうです。しかし、銀行取引約定書における手形買戻請求権の発生要件の定め方が前述のとおりであるとすると、支払停止や破産申立自体は、銀行がそれを知るより前であるか、少なくとも同時ということになるために、破産法一○四条四号本文の場合にあたらず、相殺の制限には服さないべきです。のみならず、破産債権の取得が破産者の支払停止または破産申立があったことを知ったのちであっても、破産債権の取得がこの時点より前に生じたる原因にもとづく場合には、相殺を許しても公平に反するとはいえないため、相殺禁止から除外されているのであり、しかも、手形買戻請求権の場合、その発生原因は割引手形の買戻しに関する基本約定にあるために、買戻請求権の取得は、支払停止または破産申立があったことを知ったときより前に生じたる原因にもとづくものということができます。したがって、銀行はいずれにせよ、割引依頼人の倒産にもとづく手形の買戻し請求権を自働債権とし、その預金債権を受働債権として相殺することが許されるといえます。

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