破産法による相殺権の制限

破産法は、一方において破産債権者の相殺への担保的期待を保護するため、相殺に関する民法の規定を修正して相殺権の拡張をはかるとともに他方において、相殺権の濫用などによって債権者間の平等的比例的満足の原則が不当に害されることのないよう、一定の場合には相殺を許さないこととしています。これが相殺権の制限であり、破産法一○四条各号はその要件を具体的に列挙していますが、その一つの場合として破産債権者力破産宣告の後破産財団に対して債務を負担したるときがあげられており、破産債権者は、破産債権を自働債権とし、破産宣告後に負担した債務を受働債権として相殺することは許されないとされています。

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譲渡担保物件の換価処分による剰余金については、債権者はこれを清算金として債務者に返還する義務を負うものですが、相殺との関係では、そのような剰余金の返還債務を債権者が負担するのはどの時点においてであるかが問題となります。つまり、現実の換値処分により剰余金の在否および額が定まった時点で返還債務を負担することになるのか、あるいは、譲渡担保契約締結の時点において停止条件付の債務を負担したとみるべきかが問題であって、仮に前者だとすると、債務者が破産宣告を受けたのちに譲渡担保物件を換価処分したときには、剰余金の返還債務は破産宣告後に負担した債務ということになり、別口の破産債権を自働債権としてこれと相殺することは許されない、ということになりそうです。判例でも、商法四○三条一項によって破産法一○四条が準用されている会社整理の場合についてですが、このような観点から、譲渡担保の被担保債権とは別口の手形金債権を自働債権とし、会社整理開始決定後に譲渡担保物件を換値処分して清算した結果生じた剰余金の返還債務を受働債権として相殺することは許されないとの立場を明らかにしています。このような法意からいうと整理開始後債務を負担したときとは、その負担の原因または原因発生時期のいかんには関係がなく、債務を現実に負担するに至った時期が整理開始後である場合を意味し、たとえ停止条件付債務を内容とする契約が整理開始前に締結された場合であっても該契約締結によって債務を負担したものということはできず、条件が成就することによってはじめて債務を負担するにいたるものと解すべきです。
この理論構成については学説からの批判が多く、破産法一○四条一号の法意を平等的比例弁済の原用に求めることはもちろん誤まりとはいえませんが、それだけでは足りないのであって、同号はむしろ、破産債権者が破産財団の換価のために管財人から財団所属の財産を買受けた場合の代金債務や否認権行使による返還義務などのごとく、破産手続の構造上、現実に財団に対して履行されなければ意味のないような債務、したがってまた、破産債権者に破産債権との相殺への合理的期待利益などあろうはずがないような債務を予想していると考えられるのです。ところが停止案件付債務を内容とする契約がすでに破産宣告前に締結されていたときには、破産債権者の側に条件成就によって現実に負担することとなる債務との相殺へのなんらかの期侍利益の存在を否定することはできないであろうし、また一方、破産法は条件付債務を受働債権とする相殺を認めているのであるからその点からも、条件付債務の条件が破産宣告後に成就した場合はすべて破産法一○四条一号の管務を負担したるときに該当する、ということはできないはずです。ただ、同じく停止条件付債務といっても、譲渡担保物件の換価処分、清算後の剰余金の返還債務のように、現実に換価処分をして清算することにより停止条件が成就しないかぎり、その額が確定しないような債務については、条件成就によって額が確定したときにはじめて債務を負担したといわざるをえないかのごとくですが、条件付債務との相殺の時期については破産法上別段の制限はないのであるために、条件成就後に相殺してもよいはずであり、したがって条件が成就しなければ額が確定しないような条件付債務だからといって、その条件成就のときにはじめて債務を負担したものと解されないわけではなく、条件付債務の負担を内容とする契約締結のときに債務を負担したものと解することも論理的には十分に可能であると思われるのです。そうなると、この判例が前述のごとき理由で剰余金返還債務との相殺は許されないとしたのは疑問だといわざるをえません。
以上のように、破産宣告後の換価処分、清算による剰余金の返還債務については、論理的には、破産宣告後に負担した債務とみることも、破産宣告前に負担した停止条件付債務とみることも可能であるとすると、これを受働債権とする相殺が許されるかどうかは、むしろこの債務の性質から実質的に判断するよりほかないこととなります。学説も多くは、このような観点から判例の結論を支持するもののようです。つまり、清算型の譲渡拒否においては、目的物件中の被担保債権額を超過する部分はもともと設定者の責任財産に属するものでありながら、それが物理的に一体のものであるため、破産宣告後においても、その全部を債権者の換価処分に委ねるよりほかはありませんが、法的にはこの超過部分の換価処分は、担保権者がいわば管財人の職務の事務管理として行なっているともみられるのであるために、超過部分の換価金、つまり剰余金の返還義務は、管財人に対し現実に履行されなければなりません。また、担保権者としては、別口債権を確実に保全しようと思えば、設定者との契約で別口債権を被担保債権に含ませたり、これを仮担保に改めるという途があること、一般に譲渡担保のごとき変則担保に法定担保と比べてあまり過大な効力を認めるのは妥当でないことなどから、担保権者の相殺への期待の保護に傾きすぎることは公平の理念に反することにもなるので、相殺を許さないのが妥当だ、ということになります。ただ、その基準となる時点については必ずしも諸説は一致せず、判例と同様に換価処分、清算によって剰余金額が確定する時点が破産宣告の後であるときは相殺は許されないとするもので、それでは換価処分がいつ可能かという偶然的要素に左右され易い点で適当でなく、換価処分のため担保権者が目的物の引渡を受けたときを基準とすべきだとして、相殺の許される範囲をより広く認めるものさらには、処分清算が破産宣告前に行なわれた場合でも、宣告後は相殺の可能性を原則として否定し、宣告前一年前に処分されていた場合にかぎり、二号但書により別個の債権との相殺を承認すぺきであるとして、相殺の許される範囲を非常に狭く解するものとに分かれています。

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