相殺権の制限

債権者が債務者の支払停止の事実を知りながら、債権を取得または債務を負担し、これを受働債権としてなす破産宣告前の相殺は、後に破産宣告がなされれば、意思表示の時に遡って無効となります。破産債権者と債務者間で行う破産法一〇四条に該当する相殺の合意は無効です。破産法は、集断的清算処理手続であるために、一面で破産財団の動態に係る相殺権の行使に関しては、その要件を一般的に緩和する処理をとり、他方では、総破産債権者との利益の調整をはかる意味で、相殺の制限、禁止を企図しました。しかも法は、その制限、禁止の類型を四つに区分し、これらの相殺を許されぬものとしました。

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破産宣告後の債務負担による相殺、この相殺の禁止の理由としては、もともと、破産宣告時において債権が相殺適状になかったことになるために、九八条の相殺権の行使の要件が初めから該当しないとの見解あるいは、財団に法主体性を認める見解では、法主体が異なるために相殺は当然できないとする考慮に加え、ここでの基本的な禁止理由は、こうした宣告後の相殺を許すと、当破産債権者のみが対当額につき全面的に満足を受けることになり、集団的清算手続としての債権者間の公平に反すると考えられることです。しかも、その具体例として、例えば破産債権者が破産財団所属の財産を買い受けたことにより生じる代金債務、破産宣告後、破産財団に対して負担した不当利得の返還債務、破産管財人の否認権の行使により発生した返還債務、破産財団所属の財産を競落したことによる支払債務と自己の配当債権との相殺の場合などが好個の例になります。ただし、破産債権者が賃借人であるときには、破産宣告時の当期および次期の賃料支払債務については相殺は可能であり、また、地代および小作料の場合も同様に、二期分を限度として相殺は許されます。
危機時の債務負担による相殺、破産債権者が、支払の停止または破産の申立てがあることを知って、破産者に債務負担した場合は但書を除いて、相殺は禁止されます。これは、昭和四二年法律八八号により新設されたものであり、それまでは現行法一号・三号・四号が、それぞれ、一号・二号・三号を形成していたものです。本号は、債権の実価は、債務者の経済的破綻の危機状態により下落するのが常道であるために、宣告前の危機時に於ける債務負担による相殺も禁じたものです。しかも、これらの例として、破産債権者が支払停止後に破産者からその所有商品を買い入れた場合の代金債務、破産者の当座預金口座が支払停止後も、そのままになっているところへ、破産者の取引先から当座への振込があったため生じた破産債権者による銀行の預金返還債務との相殺などは許されぬものとされています。
破産宣告後の債権取得による相殺、破産者の債務者が破産宣告後、他人の破産債権を取得した場合には、相殺は禁止されます。破産宣告後の債権譲受けによる相殺を禁止し、破産財団の減少を防止する為です。もともと譲受人たる債権者は、確定手続に参加して比例的配当に甘んじなければならない地位を、自働債権の取得とその相殺により、それ以上の満足を受けることになり、結果的に、破産財団の滅少に連るため、これを禁じたものです。
危機時の破産債権取得による相殺、破産者の債務者が、支払の停止または破産申立てがあったことを知って破産債権を取得した場合の相殺の禁止であり、破産宣告後の債権取得による相殺の場合の時期を、支払の停止、破産申立の時まで遡らせ、その悪意を要件としたものであり、禁止の理由は破産宣告後の債権取得による相殺の場合と同じく、被産財団の滅少の防止、ひいては債権者の公平な満足の要請です。ただし、本号の債権取得は、他人の債権譲受けのみならず、みずから、金銭を貸与して債権取得をする場合なども含まれ、この点で宣告後、破産者との関係で債権を自ら取得することができないのと異なり、危機時においての自働債権の取得が可能であるから、ここまで拡大しして禁止すべきものとしました。
そして、破産法上認められる相殺の禁止の類型の内、危機時における債務負担ないし債権取得の場合は、相殺適状にあるかぎり、破産宣告前に於ても相殺可能であり、その効力が問題となります。しかし、このような相殺は、相殺制限、禁止規定の強行法的性格からみて、後に破産宣告があれば、相殺の意思表示の時に遡って無効になると解すぺきです。

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