支払停止と回り手形債権

根抵当権は、その根抵当権の担保すべき債権の元本が確定するまでは、その根抵当権の被担保債権の範囲として定めた範囲内の債権であれば、全て担保されることになります。そのことは、債務者の振り出した手形が、債務者以外の者からその根抵当権者に、割引や譲渡担保の目的で譲渡されている場合でも同様です。しかし、これを自由に認めると、根抵当権の債務者が倒産しても、根抵当権の極度額に余力のある根抵当権者は、その余力を利用して、無担保な他の債権者の持っている手形をその者から安く引き取って、その枠の中に入れて、根抵当権の債権としてしまうことも可能になってしまいます。もちろんそのような行為は、他の債権者や根抵当権設定者の利益を害する結果になりますが、しかし、たとえその債務者が破産しても、それが債務者の行為によるものでないので、破産管財人はこれを否認することはできません。そこで、根抵当権者がこのような根抵当権の利用をすることのできないように、法は特に根抵当権の債務者について、支払の停止、破産、更生、和議、会社整理、特別清算などの申立があったり、あるいは根抵当権の目的不動産について競売や税の差押えがあると、たとえその根低当権について何ら確定事由が発生していなくても、以後に根抵当権者が取得した回り手形は総て担保されないことにしています。もちろんこれは回り手形債権だけなのであるために、同じ手形債権でも根抵当権の債務者から、根抵当権者が直接振り出し交付を受けた手形債権とか、直接裏書譲渡を受けた手形についての遡求権というようなものは、たとえ支払停止などがあった後に取得したものであっても、これは回り手形債権ではないので、根抵当権の確定前の取得であり、被担保債権の範囲に含まれるかぎり担保されることになります。回り手形債権とは、要するに根抵当権の債務者が振出、裏書、引受、保証している手形を、その債務者以外の者から根抵当権者が、裏書、交付などの方法によって取得したという手形のことで、主に手形割引と譲渡担保として取得する例が多くなっています。

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根抵当権は、もともと不特定の債権を担保することを目的として設定されているものであるために、将来の債権まで担保されます。しかし、永久に将来の債権を担保するというのでは、担保権者としても優先弁済権を行使する機会が生じず、一定時点でその債権の清算をしようとしても、それができません。そこで法は、一定の事由が生じたとき、その根抵当権によって担保する債権を特定し、その後に発生した元本債権は、たとえ極度額に余力があり、しかも被担保債権の範囲として定めた内容の債権であっても、それはその根抵当権では担保しないこととしたのです。その確定事由には、根抵当権者と設定者があらかじめ契約してあった確定期日の到来のほか設定者から確定請求のあった場合、債務者や根抵当権者の死亡、合併などによって確定する場合もありますが、主に取引の終了と目的不動産について差押えがあった場合というのが多いようです。また、法は特に根抵当権の債務者か設定者に破産宣告があったときも、その根抵当権が確定することにしています。このうち根抵当権の債務者について破産宣告があったことを原因として根抵当権が確定することにしているのは、以後は債務者と根抵当権者間の取引によっては、新らたな債権は発生せず、回り手形など債務者との取引によらない債権も担保させる合理性がないからです。次に、根抵当権の設定者について破産宣告があったことを原因として根抵当権を確定させることにしているのは、破産手続において破産財団が負担する債務がいつまでも確定しないと、破産財団の清算が出来ないからなのです。このように、それぞれ別の目的はあるにしても、要するにいずれの場合もその根抵当権は、その確定的に根抵当権者が持つ債権で、その根抵当権の被担保債権の範囲として登記されている範囲に含まれる元本債権と、その元本債権から生ずる将来の利息、損害金債権だけを担保する根抵当権ということになるのです。もっとも確定的の債権といっても、それはそれまでに金銭債権として発生していることまで必要だということではありません。たとえば、割引手形の買戻請求権とか、手形裏書人に対する遡求権といった債権や、支払承諾取引において保証人が代位弁済したとき発生する保証依頼人に対する求償権といった債権は、それが確定時においては未発生であったとしても、その手形割引をしたときとか支払承諾をしたときが、根抵当権の確定前であれば、その後に買戻請求権や遡求権、求償権が発生しても、根抵当権によって担保されます。それは確定時においてその債権はすでに特定されているからです。また、その債権は確定的に弁済期が到来していることを要しないこともいうまでもありません。
根抵当権と普通抵当権との相違点の一つに共同担保の取扱いが違う点があります。普通抵当の場合には、共同担保の登記をするか否かにかかわらず、同一の債権を二個以上の不動産で担保しているときは、共同担保の取扱を受けることになるのに対して、根抵当の場合は、特に共同担保の登記をしていないと、たとえ同一の債権を二個以上の不動産で担保していても、共同担保の取扱いを受けないことになるのです。そして、その根抵当権は異積式の根抵当権として取扱われます。根抵当権が共同担保の取扱を受けるということは、共同担保の取扱物が競売になったとき、各物件の負担割合はそれぞれ目的物の価額の割合で負担し、極度額まで優先弁済権が認められることになります。例えば100万円の極度額の根抵当権を、A物件(価額100万円)とB物件(価額300万円)を共同担保にして設定した場合には、この根抵当権者はA・B物件を競売すると、A物件から25万円、B物件から75万円の合計100万円だけ優先弁済権が行使できるのです。それが、A物件にもB物件にも共同担保の登記をしてないと、この根抵当権者はA物件から100万円、B物件から100万円と合計200万円の優先弁済権が認められることになります。一般的にはこのような累積式のほうが根抵当権者のほうに有利ですが、一概にはいえません。しかし、いずれにしても共同担保になっているときは、同一金額を各物件の価額の割合で分担することになるために、共同担保になっている各物件が共同して負担する金額が同一でないと、この計算はできないことになります。例えば前例のA物件の極度額が120万円でB物件の極度額が200万円であったり、A物件の被担保債権が200万円あるのに、B物件の被担保債権が80万円しかないといったのでは、物件の価額によってそれを割り付けることが計算上非常に面倒であり、複雑となります。そこで法は、共同担保にしたときは、各物件に登記されている根抵当権は必ず、極度額と被担保債権の範囲、債務者は同一でなくてはならないとか、根抵当権者も同一人でなければならないという制約をしていると同時に、同じ趣旨から、共同担保になっているときは、そのうちの一個の不動産についてでも、前記のような確定事由が生じると、確定事由の生じていない物件についての根抵当権も、全部一緒に総て確定することにしているのです。あるこれは共同担保の一部の物件についてだけ根抵当権が確定すると、前記の按分が困難になるからです。それが累積式の根抵当権ということになっていると、一部の物件の所有者が破産しても、その物件の根抵当権だけ確定することになりますが、他の物件の根抵当権はそれによっては確定しません。ただ、その債務者について破産宣告があった場合には、たとえ共同担保になっていなくとも、その債務者を根抵当権の債務者としている総ての根抵当権は同時に確定してしまうことになります。

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