売主の取戻権

取戻権とは、本来破産債権の引当とされるぺきではない財産を、破産財団から取り返す権利であって、一般私法上当該財産が破産者に属さないと主張しうる要件が備わっているときに認められるべきものです。しかし破産法は特に取引の安全を確保し、利害関係人の公平をはかることを目的として、一般私法上当該財産の取返を主張しうる要件が備わっているか否かを問わずに取戻を許す場合を認めています。そしてその一つが、運送中の売渡物品についての売主の取戻権です。

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破産法八九条一項本文によると、売主が売買の目的たる物品を買主に対して発送した場合に、買主がいまだ代金の金額を弁済せず、かつ到達地においてその物品を受け取らない間に破産の宣告を受けたときは、売主はその物品を取り戻すことができます。交通、通信が未発達な時代においては、互いに遠隔の地にある者同士が売買をする場合、売主は買主の信用状態を知り得ず、そのために、売渡物品の発送後に買主が破産して代金の支払を受けられなくなるという危険が大きく、そこでそのような危検から売主を保護するためにイギリス法上、途中差止権というものが認められるようになり、それがその後大陸法において発展しました。日本での破産法八九条の認める取戻権もこれを採り入れたものです。商法五八二条によると、荷送人は、運送品が到達地に着いて、荷受人がその引渡を請求するまでは、運送人に対して、運送の中止、運送品の返還その他の処分を請求することができます。したがって荷送人たる売主は、買主の財産状態の悪化を知ったならば、直ちに運送の中止を請求して、運送品が買主の手に渡らないようにすることができます。しかし、これは荷送人と運送人との間で運送契約上運送を差し止めるというだけのことで、売主と買主との売買契約上の法律関係は、これによって影響を受けません。それゆえ、もし荷送人たる売主が運送の中止を請求したにもかかわらず運送品が買主の手に渡ってしまえば売主としては債務の履行を完了したことになり、その後に買主に対して破産宣告があると、代金債権は破産債権としてしか行使できず、不測の損害をこうむることになります。そこでその点の売主の立場を保護するというのが、この規定の果たす役割ということができます。
このような趣旨で認められる売主の取戻権が成立するには、次の要件の備わることが必要です。互いに遠隔の地にある者同士の売買であること。したがって同地取引あるいは現物取引の場合は、この取戻権は語められない。代金を買主がいまだ完済していないこと。破産宣告のなされたのが、買主が到達地で売渡物品を受け取る前であること。ことに到達地で受け取ることが必要であって、運送途中で受け取った場合には、取戻権が語められます。なお、以上の要件が備わっていれば、破産宣告後に売渡物品が管財人の手に入ったとしても、売主はその取戻を請求できます。ただしこの点で、売主は物品が買主の手に入る前に、取戻の意思表示をしなければならないとする考え方もあります。

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