譲渡担保の担保権者の破産

担保動産の占有を設定者のもとにとどめている譲渡担保権者が破産した場合について論じる者がないところからみても、債務者が破産管財人に弁済をすれば、譲渡担保が消滅するのは自明のことと一般に認められていると解されます。しかし動産について現実の引渡を受けていた譲渡担保権者が破産した場合については、破産法八八条に、破産宣告前破産者に財産を譲渡したる者は担保の目的を以てしたることを理由として其の財産を取戻すことを得す。と定められています。その趣旨は、担保の目的で財産権を譲渡した場合にも、財産権の移転があり、公示方法をそなえている以上、担保物は外観上譲受人たる破産者の財産となり、その信用の基礎となるものであるために、破産債権者の利益のため取戻権を排除したもので、したがって、担保設定者は、破産者に対して目的物返還義務不履行による損害賠償請求権によって被担保債務と相殺し、なお残余があれば一般の破産債権者として配当に加わることができるにすぎないと解されています。これによると、弁済をしても担保物件の返還を受けることができないために、質権を設定した場合に比べて、設定者は著しく不利な立場に立つことになって、はなはだ両者の釣合いがとれません。そこで、判例は、有価証券の短期清算取引を委託した者が、証券会社に証拠金代用として白紙委任状付株券を交付し、清算取引結了後受託した証券会社が破産宣告を受けたので、債務を弁済したうえ株券の返還を請求した事案について、原審が、当事者間に譲渡担保が設定されたと認定したうえで本条を適用したのを破棄しています。この判例は、被担保債権が成立しない場合や消滅した場合には、担保の目的は不到達に終り財産権の譲渡はその原因を欠くことになって破産財団は不当利得をしたことになるから、破産宣告後双務契約が解除された場合と同様に、破産者が受けた給付が破産財団に現存しているときは相手方はその返還を請求し、現存しないときはその価額について財団債権者として権利行使ができる旨を判示します。これは、不当利得の法理という回り道をとっているものの、破産法八八条を骨抜きにしたものといわれており、破産財団に譲渡担保の目的たる動産が現存するかぎり、事実上設定者の取戻権を認めたことになります。学説も、戦前の通説に反して、設定者の取戻権を否定する破産法八八条の規定に対して批判的であって、判例と同旨の結論を導き出すために様々なな努力をしていました。例えば本条の適用を売渡担保に限定して譲渡担保は含まれないとする説や、国税徴収法二四条が譲渡担保財産から設定者が滞納した国税を徴収できる旨を定めたことによって本案は廃止されたと解する説などです。そして本条は、いずれは判例によってか、立法によって廃止ないし制限される運命にあるといわれています。

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譲渡担保設定者が破産した場合に、譲渡担保権者が担保の目的たる動産を現に占有しているときは、直ちに担保権を実行して債権を回収することができます。これに対して、設定者のもとに担保物件の占有を停めた譲渡担保権者が、取戻権を有するかどうかについては、見解がわかれています。以前は実質的目的よりも法形式を重視して処理されることが多かったので、取戻権を肯定するのが通説でした。しかし、近年では質権、抵当権などと同じく別除権を有するにすぎないと解するのが、学説では多数を占めるようになりました。会社更生法に関する判例は、同様の場合につき、取戻権を否定しており、破産法が適用される場合にも同旨の判決がなされることが考えられます。もっとも破産手続では取戻権が認められなくても、別除権にもとづく担保権の実行手段として担保物件の引渡を求めて破産手続外でこれを処分して債権を回取することができます。この点は、会社更生手続が開始した場合とは大きな違いで、同手続では取戻権が認められないかぎり、更生担保権として更生計画に従って弁済を受けることができるのみで、担保権者が手続外で担保物件を処分して債権の回収をはかることはできません。なお、譲渡担保権者に取戻権が認められると、担保物件を取り戻したうえ、債権全額について破産財団から配当を受けることが可能となります。かような結果となるのがきわめて不当なことが、取戻権を否定する理由の一つとしてあげられています。譲渡担保権者が、法律に定めた方法によらないで担保物件を処分する権利を有する場合には、設定者の破産によってその権利を失うことはありません。特約にもとづいて任意売却、代物弁済などの方法により、債権を回収することができます。しかし最近の判例、学説の動向からみて、いずれの方法をとるにせよ、物件価額が債権額をこえるときは、その差額を清算しなければなりません。譲渡担保権者が、担保物件の処分を遅延するときは、破産手続の進行を妨げることになるために、破産管財人は、裁判所に申立て譲渡担保権者が処分をなすぺき期間を定めてもらうことができます。もし譲渡担保権者がその期間内に処分をしないときは、処分権を失い破産管財人は、民事訴訟法の規定によりその換価をすることができます。しかし、その手続は、譲渡担保権者が占有する動産を破産者所有のものとして差し押えて競売することになるので、差押には占有者の承諾が必要であり承諾が得られないときは実行できませんない。破産管財人としては、償務を弁済して担保物件を受け戻したうえで処分するほかとるべき方法がありません。譲渡担保権者が別除権を有するにすぎないとすれば、破産管財人は、民事訴訟法によって担保の目的たる動産を換価することができ、この場合に譲渡担保権者は、これを拒むことができず、この換価は、競売手続によって公正に行われるからです。譲渡担保権者は、この競売代金から優先弁済を受けることができますが、もしその受けるべき金額がまだ確定しないときは、破産管財人は、代金を寄託することを要し、別除権がその代金の上に存することになります。破産管財人は、監査委員の同意があるときでも、担保物件を任意売却することはできませんが、譲渡担保権者も同意するときは、これを否定する理由はありません。
担保権者の破産譲渡担保権者が破産した場合につき、設定者の取戻権を否定する規定がありますが、有価証券の譲渡担保について、判例が不当利得の返還の法理を適用するという回り道をして、設定者の弁済による取戻を認め、この規定を事実上骨抜にしていることは、動産の譲渡担保につき述べたとおりです。学読でも、この判例のとる結論には賛成するものが多く、担保の目的が有価証券であるか、不動産であるかで区別する理由もありません。それで担保権の実行が終了して設定者に交付すべき清算金もすでに交付済となっている場合を除いて、設定者が弁済をすれば、破産財団に担保不動産が現存しているかぎり、不動産の完全な所有権を間違いなく回復でき、不動産が現存しなければ、その価額について財団債権者として権利行使ができます。
不動産を目的とする譲渡担保の設定者が破産した場含において、第三者対抗要件を備えていない譲渡担保権者が担保権の実行ができないことと、登記済の譲渡担保権者が担保権を実行して破産手続外で債権を回収できることは明らかです。また、譲渡担保について仮登記がなされているにすぎないときは、譲渡担保債権者は、破産手続開始後でも、その本登記を請求できます。その場合には、後記の明渡を求める場合と同じく、担保不動産の価額が債権額を超過していれば、差額の清算と本登記は引換給付の関係に立つことになります。
不動産自体を処分することは、動産を処分する場合と違って、その明渡がない場合でもできないことはありません。しかし、明渡の有無により処分の難易は著しく異なり、処分価格にも影響します。かつて判例では、担保権者が処分のために担保設定者に対し担保物件からの退去およびその明渡を求めることを、清算金の交付を別に要件とすることなく認め、通説もこれを是認していました。ところが譲渡担保と同様に債権担保の目的で所有権移転の形式を借用する仮登記担保に関する判例理論が、譲渡担保にも押し及ばされて、判例は、債権者が、担保目的実現の手段として、債務者に対し担保不動産の引渡ないし明渡を請求する訴えを提起した場合に、債務者が清算金の支払と引換えにその履行をなすべき旨を主張したときは、特段の事情のある場合を除き、債権者の請求は、債務者への清算金の支払と引換えにのみ認容される旨を判示します。また、判例が、仮登記担保権の実行につき帰属清算を原則とし、本登記ないし不動産の引渡と引換えに清算金の交付を要すると解していることからみて、譲渡担保権者が、担保権を実行するために設定者に対して明渡を求める場合にも、これと引換えに破産管財人に対して清算金の支払をしなければなりません。譲渡担保権者が担保権の実行をしない場合に、破産管財人が、すでに担保権者に所有権移転登記がされている不動産を、民事訴訟法の規定により換価することは、国税徴収法二四条のような規定がない以上、不可能になります。したがって、破産管財人が換価するためには、債権者に弁済をして担保不動産を破産財団に受け戻さなければなりません。

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