代償的取戻権

取戻権の制度が、破産者に属しない財産が破産財団中に現存する場合に、その取戻を認め、もって真実の権利者の保護をはかるものであることは前問で述べたとおりです。ところが、取戻権の目的となるべき財産が第三者に譲渡され、破産財団中に存在しない場合には、取戻権の行使をする余地がありません、この場合に一般原則にしたがい、破産宣告前破産者が財産を譲渡したときには、真実の権利者は破産者に対して有する不当利得返還請求権等の債権を破産債権として行使し管財人が譲渡したときには財団債権として行使することとすると真実の権利者にとって余りにも不公平、不利益です。そこで、真実の権利者に取戻権を行使したのと同じような保護を与え、その救済をはかることを目的として設けられたのが代償的取戻権の規定です。

スポンサーリンク

お金を借りる!

代償的取戻権は、破産者か破産宣告前取戻権の目的たる財産を譲渡したる場合、もしくは破産管財人か取戻権の目的たる財産を譲渡したる場合に認められます。代償的取戻権が認められるためには、取戻権の目的たる財産が譲渡された場合でなければなりません。取戻権は破産法八七条による一般の取戻権のほかに、八九条および九○条による特別の取戻権がありますが、そのいずれの取戻権の目的物が譲渡された場合でも代償的取戻権は認められます。譲渡の時期は、破産宣告前でも宣告後でもかまいません。
代償的取戻権の内容は、第一に破産者または管財人が譲渡の相手方から反対給付を受けていない場合に、その反対給付の請求権を自己に移転することを請求することにあります。その結果、代償的取戻権者は譲渡の相手方から直接反対給付を受けることができます。この場合に代償的取戻権者は対抗要件を備えなければなりませんが、その方法は指名債権譲渡の方法によると解されます。第二に破産管財人が反対給付を受領済の場合は、破産管財人が反対給付として受けた財産の給付を請求することができます。しかし、財産の給付を請求するためには、その財産が特定性を有する必要があります。特定性を失った場合は、取戻権者は不当利得返還請求権もしくは損害賠償請求権を財団債権として行使をするよりほかありません。なお、破産者が破産宣告前に反対給付を受領し、破産宣告後反対給付として受けた財産が破産財団中に特定性を有して現存しているばあいに、その財産につき代償的取戻権を行使することができるか否かは間題です。しかし、代償的取戻権の行使は認められないと解されます。すでに破産宣告前に破産者に対し給付がされて破産者の資産に組み込まれているために、破産者の債権者は、破産宣告当時これが債権の引当に供せられることを期待信頼しているうえ、破産法九一条二項が破産管財人か反対給付を受けたるときと規定していることからすると、破産者が反対給付を受けた場合を除外する趣旨と解されるからです。したがって、この場合は取戻権者は破産者に対する不当利得返還請求権もしくは損害賠償請求権を破産債権として行使することとなります。
代償的取戻権を行使してもなお損害があるときに、破産者または管財人に債務不履行もしくは不法行為が成立するときは、代償的取戻権者は、その損害につき破産債権もしくは財団債権として行使できます。例えば破産者もしくは破産管財人が取戻権の目的物を時価より安価で処分した場合は、代金請求権を代償的取戻権により自己に移転することを請求するとともに、時価との差額を請求する場合等です。
取戻権の目的物が第三者に譲渡された場合に、第三者に善意取得が成立するときは取戻権者は、第三者に対して目的物の返還を講求することはできませんが、第三者に善意取得が成立しない場合は、目的物の返還を請求しうることはいうまでもありません。この場合に、取戻権者は目的物の返還請求と、代償的取戻権を選択的に行使しうると解されます。このように解しても、第三者および破産管財人のいずれにとっても特別に不利益はなく、取戻権者が代債的取戻権の行使によって、満足しようと考えている場合にも、常に必ず目的物の返還請求をしなければならないとする必要はないからです。

お金を借りる!

破産債権と財団債権の概念/ 別除権者の有する破産債権/ 企業破産と給料、退職金/ 多数債務者に対する破産債権/ 債務者の破産と保証人の地位/ 破産財団の意義と範囲/ 破産宣告の効果/ 賃貸借契約と破産/ 取締役の地位と破産/ 他人の生命の保険契約/ 破産管財人と保険会社/ 財団債権/ 財団債権の範囲/ 財団債権の弁済/ 財団債権の行使/ 取戻権/ 代償的取戻権/ 仮登記担保/ 仮登記担保権の破産手続上の地位/ 譲渡担保/ 譲渡担保の担保権者の破産/ 所有権留保/ 売主の取戻権/ 支払停止と回り手形債権/ 動産の特別先取特権/ 商事留置権/ 相殺に供される債権の種類/ 相殺権の制限/ 破産法による相殺権の制限/ 手形の買戻請求と預金債権の相殺/ 当座振込と貸金債権との相殺/ 相殺権の濫用/