取戻権

取戻権につき破産法八七条は破産の宣告は破産者に属せさる財産を破産財団より取戻す権利に影響を及ぼさる、と規定しています。元来破産は破産債権の弁済を目的とする手続であるために、破産財団は破産債権の弁済に引き当てられるべき財産すなわち破産者に属する財産をもって構成されるべきです。ところが、現実に破産管財人の管理に服する財産は、破産者に属する財産にかぎりません。破産者に属しない財産は、破産債権の弁済に引き当てられるべきいわれはないために、真実の権利者がその返還、引渡を求める権利を有することは当然です。取戻権の規定は当然のことを明らかにしたものです。
このように取戻権は、破産法によってはじめて創設された権利ではなく、実体法上の権利が根拠となる。したがって、いかなる場合に取戻権が認められるかは破産法が規定するものではなく、もっぱら実体法上破産宣告前破産者から財産を取り戻す権利を有するか否かにより決せられることとなります。
そこで取戻権の基礎となる権利は種々あり、そのうち最も典型的なものは所有権です。破産者が宣告前不法に財産を占有していたため宣告後管財人がその財産の占有管理を始めた場合に真実の所有者がその引渡を請求する場合や所有権留保約款付の割賦販売の代金完済前に破産宣告があったときに売主が返還を請求する場合等様々な場合が考えられます。また、所有権以外の権利も取戻権の基礎となります。地上権、永小作権等の用益物権は勿論、対抗要件を備える賃借権者が破産者によって占有を奪われたときは賃借権にもとづき取戻権を行使できます。しかし、破産者に属しない財産であっても、破産者が権限にもとづいて占有している場合には、真実の所有者がその取戻を請求できないことはいうまでもありません。破産宣告は当然に破産者の占有権限を消滅させるわけではないからです。このとおり破産者から財産の取戻を請求することができるのは、財産の帰属者であるために、単に破産者に対して自己に財産を帰属すべきことを請求しうるにすぎない場合には取戻権はありません。この場合には破産者に対して給付を請求しうるにすぎないのであるために破産債権となるのです。

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取戻権の基礎となる所有権その他の権利を有する場合にも、破産宣告当時その権利を第三者に対抗しえないときは、取戻権を主張できません。例えば不動産の買主が所有権移転登記を受ける前に、売主に破産宣告があったときは、買主は管財人から所有権にもとづいて目的物の引渡しを請求することはできません。なぜなら、管財人は破産者の一般承継人ではなく、破産財団の管理機関として破産者とは独立した第三者的地位を有するからです。
破産宣告後にも破産者が登記手続をする場合や判決等にもとづき権利者が単独で登記をする場合がありますが、いずれの場合もこれらの登記はその効力を生じません。前者については、破産者は破産宣告により破産財団に関して法律行為をすることができなくなることの当然の帰結です。ただし、これらの場合にも登記権利者が破産宣告の事実を知らないで登記をしたときは登記は効力を生じます。これは、破産宣告当時すでに登記の原因が生じている以上、登記が単なる公示方法にすぎないことを考慮して善意者を保護しようとする趣旨です。善意か否かは、破産宣告の公告の前後により、公告前は善意と、公告後は悪意との推定がなされます。しかし、破産宣告の公告前であっても、破産の登記がされた場合は悪意と推定すべきです。
破産宣告前に仮登記がなされていない場合、管財人に対する登記請求は認められません。破産宣告後の登記は破産債権者に対する関係では効力を生じないために、そのような登記の請求権を認める必要はなく、登記請求を認めることは対抗要件を有しない者に対しても取戻権を認めることにほかならないからです。
破産宣告前に仮登記がなされている場合、破産宣告当事権利者が仮登記を有する場合に、権利者は本登記を請求しうるかどうかでは、登記に必要な手続上の条件が具備しないため不動産登記法二条一号の仮登記がなされている場合は、登記に必要な手続上の条件が備わったならば、その本登記を請求しうると解すぺきです。なぜなら、破産宣告前に登記の原因となる実体関係上の要件はすぺてみたされ、単に手続上の要件を欠くだけなのに、本登記の請求を認めないとすることは権利者に対する保護に欠けるからです。
権利者が不動産登記法二条二号の仮登記を有する場合は問題です。この場合は、権利者は破産宣告前は登記の原因となる実体関係上の要件をみたしていないために、たとえ宣告後これらの要件をみたしたとしてもそれぽど保護する必要はなく本登記を認める必要はないとの見解もあります。しかし、不動産登記法二条一号の登記と同条二号の登記とは、登記に必要な実体関係上の要件を充足しているか否かの差はあるものの、いずれにしろ将来一定の要件がみたされれば、当該不動産が破産者の所有から離脱することがあらかじめ公示されている点では同じです。将来破産者の所有から難脱する可能性があることが仮登記により公示されている以上債権者が不測の損害をこうむることはなく、またこのことは現在本登記ができない理由が手続き上の原因にあるか、実体的な原因にあるかによって差異はありません。したがって、破産宣告当時不動産登記法二条二号の仮登記がなされている場合も本登記の請求が可能と解されます。
破産宣告後に仮登記がなされた場合、破産宣告後の仮登記であっても、破産宣告前の原因にもとづき権利者が破産宣告の事実を知らないでなした場合は不動産登記法二条一項の登記にかぎり効力を生じることになります。したがって、手続上の条件が具備すれば本登記の請求も引渡も請求できます。
しかし、不動産登記法二条二号の登記はたとえ善意でなされても効力を生じないと解すべきです。破産法五五条が不動産登記法二条一号の登記のみを規定していて同条二号の登記をあげていないこと、同条一号の登記は単に手続条件を欠くだけであるために権利者を保護すべきですが、同条二号の登記は権利者が実質的権利を取得していないのであるために不利に取り扱われてもやむをえないと考えられるからです。

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