財団債権の範囲

取戻権の目的物の場合、取戻権の目的物は、法定財団に属さない特定の財産であり、破産債権の引当に供せられる破産者の責任財産ではありません。したがって取戻権の目的物を売却した金銭は破産財団に属さないために、取戻権者は財団に対し不当利得の返還請求権を有することとなります。このことに関して、破産法は、取戻権者をしてできるかぎり原物の取戻と同じ結果を得させるため、破産財団中に目的物の代位物が特定性を失わず存在する場合にはこれを取り戻すことができるとしています。つまり目的物を管財人が他に売却したが、まだ売買代金を受領していない場合や売買代金を受領しても財団中の他の金銭と混同せず特定しているときは取戻権を行使できます。しかし、すでに受領し特定性を失っているときは取戻権を行使できません。この場合、財団は他人の物を売却して利得をしたのであるために、取戻権者は不当利得の返還請求権を有することになり、財団債権としてその権利を行使するほかありません。管財人が金銭を受領したときは、財団債権となるとする説があります。金銭の特定の困難なことから多くの場合には財団債権として権利行使をせざるを得ません。しかし、特定できる場合を無視することは、代償的取戻権が認められている趣旨に反することになります。

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不当利得返還請求権が財団債権として認められるためには、破産宣告後に生じた請求権でなければなりません。これに関する判例として、最高判昭和四三年一二月一二日は、株式の取戻権者が株券引渡の訴えを提起した後に株式につき生じた配当金および株式につき株主に割り当てられた新株を破産管財人において取得した場合には、取戻権者は、破産管財人に対し不当利得にもとづく財団債権として配当金および新株の返還を請求することができると判示しています。この最高裁の事件では管財人の善意、悪意は問題にならなかったようですが、管財人が取戻権の目的物を売却したことにより、財団が負う不当利得の返還義務の範囲は、管財人の善意、悪意により異なってきます。
別除権の目的物の場合、別除権は、破産財団に属する特定の財産から破産手続によらずに優先的に弁済を受ける権利であり、特定財産の金銭的価値の全部または一部を優先的に取得する権利です。この別除権の目的となっている特定の財産が売却された場合、別除権者は、物上代位によりその優先的地位を確保しうります。物上代位権を行使するには、売却代金が管財人に支払われる前に別除権の目的物の代位物である売買代金請求権を差し押えなければなりません。売却代金が管財人に支払われ、財団に組み入れられると他と識別しえなくなり、もはや別除権を行使しえず、破産手続上優先弁済を受けることもできなくなります。このことは破産財団が別除権を害された権利者に対する関係で不当に利得したことになります。したがって、別除権者は破産財団に対して、不当利得の返還請求権を財団債権として行使できます。
破産管財人によって別除権が侵害されたことにより生じた不当利得の返還請求権を財団債権と認めた判例として、次のものがあります。破産管財人が、別除権者のために供託され別除権の目的となっている供託金を受領して破産財団に組み入れたときは、別除権を行使できなくなります。これによって破産財団は不当に利得したために、別除権を害された権利者は破産法四七条五号により財団債権として権利を行使できます。
不法占有の損害賠償請求権、破産債権は、破産者に対し原則として破産宣告前の原因にもとづいて生じた財産上の請求権です。したがって、破産宣告の時までの不法占有により生じた損害の倍償請求権が破産債権となることはいうまでもありません。問題は、破産宣告の時より後の損害賠償請求権です。これについては、次の三つの考え方があり得ます。
劣後的破産債権説、不法占有が破産宣告前から存在し、宣告後も継続している以上、不法占有によって生じる損害賠償請求権は、まさに破産宣告前の原因にもとづいて生じた請求権として破産債権に属します。ただ、占有は宣告前からのものであっても、不法占有という不履行の状態は破産宣告後の不履行にあたると解されるために、破産法四六条二号のいわゆる劣後的破産債権に該当すると解すべきだとする考え方です。
自由財産説、破産宣告後の不法占有は、宣告後破産者自身の行為にもとづくものと解するのが相当であるために、いわゆる自由財産にあたるとして、破産者自身が弁済の責めに任ずべきだとする考え方です。
財団債権説、破産財団の管理処分権は破産管財人に専属します。したがって、不法占有関係が宣告前から続いているとしても、宣告後における占有は破産管財人の管理処分権の範囲に属するものとして、不法占有によって生じた損害賠償請求権は破産法四七条四号の財団債権にあたるとするものです。
まず、劣後的破産債権説についてみると、破産宣告前から占有関係が継続しているといっても、破産宣告により破産者が宣告当時有する一切の財産は、破産財団を権成し、これに対する管理処分権が破産管財人に専属することになるので、財団に所属する物件について破産者自身が不法占有を解消しえません。したがって、宣告後は破産者の不履行ということはほとんど考えられないために、劣後的破産債権と解することはできません。なお、不法占有により生じる損害賠償請求権は、そもそも破産法四六条二号の劣後的破産債権の範囲に入らないとする見解もあります。次に自由財産説についても、こに述べたように財団の管理処分権が破産管財人に専属するのであるために、破産者自身が不法占有を解消しえません。したがって、破産者個人の債務とみることはできないのです。もっとも、同じく不法占有といっても家屋退去義務のように破産者みずから退去すれば足りるような債務の不履行による損害賠償義務は、自由財産から破産者みずから履行すぺきものと考えることができます。この場合は、単なる占有関係が関係となるのであって、破産財団に関するものとみられないときであるからです。
結局、宣告後の不法占有による損害賠償請求権は、破産法四七条四号の財団債権にあたるとみるのが妥当です。破産財団中に存在する財産が他人の所有物であり、それを不法占有したことにより生じた損害賠償請求権は破産財団に関して生じた請求権といえます。破産管財人は、善良な管理者の注意をもって財団を管理すべき植責を負っています。したがって、不法占有を解消すべきであるのにこれを怠ったとみることができるために、不法占有による損害賠償請求権は破産管財人の行為に傾りて生じたる請求権と解すべきだからです。管財人の行為とは、積極的行為のみならず、管財人が職務上行為すべき義務を負っているにもかかわらず、それをしなかった場合を含むものと解すべきです。

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