破産管財人と保険会社

生命保険契約は双務契約であるために、保険契約者たる会社が保険料の支払を完了していない間は、破産法五九条一項によって、破産管財人が契約の解除または履行の請求を選択することができます。
企業を継続しない破産手続においては、管財人は通常は解除の方を選択します。他方、普通保険約款では、保険契約者はいつでも将来に向って保険契約を解約し、解約払戻金を請求することができる旨を定めるのを通例としています。保険会社は保険業法にもとづき、保険契約上の責任を果たすために必要な金額を責任準備金として積み立てているので、そのうちから費用の賠償として一定の金額を控除した残金が解約払戻金として支払われます。経過年数の多い契約では解約払戻金は相当の金額となり、破産財団にとっても無視できない財源となります。したがって、実務上は破産管財人もこの約款による解約を選択するものと思われます。

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普通保険約款ではさらに、保険契約者が保険契約による権利義務の一切を第三者に承継させることも認められているのが通例です。この保険契約者たる地位の譲渡には、通常は保険会社の同意のほか被保険者の同意も必要とされています。管財人としては、保険契約の継続を望む被保険者やその関係者にその地位を譲り渡して、解約払戻金相当額あるいはそれ以上の対価を得ることも考えられます。
破産管財人が破産法五九条一項により履行の請求を選択した場合に、保険会社が管財人に対して保険料を請求しうることはいうまでもありませんが、管財人が選択を遅延している場合には、管財人が保険料を支払わなくとも保検会社から契約を解除することはできません。保険会社は破産手続によらないで破産者の債務の履行を求めることはできないので管財人は履行遅滞には陥らないからです。保検会社としては管財人に対して相当の期間を定めて契約の解除または履行のどちらを選択するかを確答せよと催告するしかありません。その期間内に確答がなければ契約の解除があったとみなされます。役員や従業員を保検金受取人としている場合には、保険会社は保険契約者の破産により保検金受取人に対して保険料の請求ができることになります。もっとも保検金受取人が権利を放棄すれば保険料を支払う義務はありません。
管財人が保倹契約者たる地位を第三者に譲渡するには、前述のように約款によって被保険者の同意を要するとされるのが通例です。したがって、被保険者は同意を渋って自己への譲渡を交渉することも可能です。これと違って、管財人が保険契約の解約を選択する場合には、同意は必要とされないために、被保検者には解約を阻止する方法はありません。解約払戻金が破産財団に加えられて優先権ある退職金債権の引当となることで、被保険者としては目的を達したとみるぺきなのかということでは、被保険者側から解約払戻金相当額を破産財団に支払うことによって保検契約者たる地位を承継する途が開かれることが望ましく、この点で保検契約者の破産者等の場合に、保険金受取人が保険契約者の同意の下に、解約払戻金相当額を破産財団に提供して保険契約に介入することを認めるドイツ保険法一七七条の規定が参考として提唱されています。
被保険者が保険金受取人に指定されているときには、管財人が受取人を他の者に変更する場合に被保険者の同意を要することは前述のとおりです。
保険会社が保険契約者に対して貸し付ける貸付金には通常次の三種があるとされています。その一は自動貸付とよばれ、保険契約者が保険料を延滞したときに前述の解約払戻金の範囲内で保検会社が自動的に保検料を立て替えて貸し付けるものであり、その二は契約者貸付とよばれ、普通保険約款により解約払戻金の範囲内で保険契約者に貸し付けるものであり、その三は財務貸付とよばれ通常の融資です。
保検会社からの相殺の受働債権となる解約払戻金は保険契約の全部または一部が消滅しないかぎり発生しません。したがって、管財人の選択による解約を待たずに相殺が可能になるのは、特約を以って保検契約者が破産宣告を受けた場合に保険契約が全部または一部消滅し解約払戻金と相殺できる旨を定めている場合にかぎられます。財務貸付の場合はもちろん、約款にもとづく契約者貸付の場合にも貸付に際して証書を徴しているのでこの特約があるのが通例です。しかし、自動貸付の場合は自動的な立替えであるため証書を取り付ける余地はなく、約款にも破産の場合の規定はないから保険会社からの早期の相殺は不可能です。したがって、自動貸付については破産法五九条二項により破産管財人に催告したうえで、解約された場合にはじめて解約払戻金との相殺をなすしかありません。なお、自働債権については、破産宣告によって債務者は期限の利益を失い、期限付債権も弁済期が到来したとみなされるために、相殺適状に達します。

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