賃貸借契約と破産

賃貸借契約において賃貸人が破産した場合について、民法および破産法は次のように規定しています。賃貸借に期間の定めがあるときでも、解約の申入れは賃貸人、破産管財人のいずれからでもでき、法定の告知期間の経過とともに賃貸借は終了しますが、その場合当事者は相手方に解約による損害賠償を請求することはできません。そして、破産宣告前の延滞賃料がある場合にはそれは破産債権として、また破産宣告時から契約終了時までの賃料は財団債権として支払われます。賃貸人、管財人のいずれも他方に対して相当の期間を定めて解約するか否かについて催告をすることができ、その期間内に確答がなければ、解約の申入とみなされます。解約がなされずに賃貸借が継続する場合は、破産宣告日以後の賃料債権は財団債権となります。原則は以上のように規定されています。

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この原用は、賃借人破産の場合に賃貸人の賃料請求権の危殆を回避することを目的とし、また賃貸借が債権関係であり賃借権の譲渡、転貸が制限されており、その処分可能性がとぽしいので契約関係を早期に解消したほうが妥当であるとの考慮です。そして、この原則が動産の賃貸借についてそのまま妥当することは確かです。しかし、不動産の賃貸借については、賃借人の地位が借地法、借家決によって厚く保護されていることに鑑み、この原用を直接適用することは、立法論上および解釈論上疑問とされています。その根拠は、特別法の趣旨のほか、賃借人破産による賃料請求権の危殆は、破産宣告後の賃料請求権が財団債権として確保されているのでそれほど著しくありません。借家権、借地権は破産財団にとっても重要な財産であり、破産債権者の満足のために使用するのが公平に合致します。賃借人の破産により賃貸人が賃貸不動産上の賃借権という負担を取り徐けることは、実質上賃貸人が不当に利得することになり、賃貸人が賃借権を除去するために破産制度を濫用する危検もあります。賃借人側も少なくとも賃料債務のみは履行し、みずからの生活基盤を確保しようとすることが十分考えられる等の諸点に求められます。そこで、賃貸人の解約の要件として、賃借人の破産宣告のほかに、借地法、借家法の正当の事由の存在ないし賃借人の破産による信頼関係の破壊を要件とすべきだとの主張がなされています。現に、最判昭和四八年一○月三○日は、借地法の適用のある賃貸借契約の賃借人が破産宣告を受けた場合、この賃借人が賃借土地上に建物を所有しているときには、賃貸人が民法六二一条にもとづき賃貸借契約の解約申入をするためには、借地法四条一項但書、六案二項の正当事由が解約申入の時から民法六一七条所定の期間満了にいたるまで存続することを要し、この正当事由を欠くときは解約申入はその効力を生じないものと解すべきであるとしています。したがって、民法六二一条は借地法、借家法により変容を受けることになります。
以上が現在の通説および判例といえますが、裁判例のなかには、賃貸人は民法六二一条にもとづき正当事由なくしても解約申込ができ、法定の解約申入期間満了により賃貸借は終了するとするものと、賃貸人は民法六二一条にもとづいて正当事由なくして解約の申入ができる反面、賃借人は借地上の建物について賃貸人に対し買取請求権を有するとするものとがあります。前者は民法六二一条の文言に忠実ではありますが、不動産賃借権の財産的価値、破産財団の滅少、賃貸人の保護に欠けることのないこと等の諸点を考慮すると疑問が残ります。また、この説は立法論上疑問だとする学説もあります。後者は、賃借人の破産により信頼関係が破壊されること、借地法、借家法により民法六二一条が何ら改正されなかったことなどを理由とします。しかし、これに対しては、借地法四条二項の類推適用を認めつつ、反面同条一項、六条二項の通用を認めないのは合理的理由を欠くとの反論がなされています。結局、以上の検討と通説。判例との根拠を総合するなら、現在の通説および最判昭和四八年一○月三○日の立場が妥当です。
解約に際して正当事由を必要とすると、その認定の基準として、賃借人破産という事実をどの程度重視するかが問題となってきます。これについて学説は、賃借人破産という事実はそれだけで常に正当事由を具備させるものではありませんが、そうした方向に働くきわめて大きな原因であるとするものと、賃借人破産という事実は正当事由判断の一要素としての意味しかないとするものとがあります。そして、先の最判昭和四八年一○月三○日は、賃貸借契約の各当事者の自己使用の必要性のほか、破産宣告前の未払賃料の有無、その額、破産財団の賃料支払能力、開始された破産手続の推移、例えば和議または更生手続への移行、その成否の見込、賃貸人の立退料支払意思の有無、その額等の諸事情を考慮し、賃貸人に賃貸借関係の存続を要求することが酷な結果となるかどうかをも考慮して、判断すべきであるとしています。したがって、仮に賃借人が破産宣告を受けたとしても、そのことだけで直ちに正当事由ありと判断されるべきでなく、後説に近いといえます。
賃貸人が破産した場合の賃貸借関係については規定がありません。そこで、かつての多数説は、未履行の双務契約に関する破産法五九条の適用を肯定していました。しかし、この規定により破産管財人が解除できるとすると、賃借人は、自己に何らの責任がないのに即時に賃借権を失い、自らが破産した場合以上に不利益な扱いを受けることになり、借地、借家法の理念に適わなくなります。また、賃貸人の債権者も、破産前に行われた賃貸人所有の不動産の賃借権による価値の滅少は甘受すべきものといえます。そこで、現在の通説は、破産法五九条の適用を全面的に否定し、賃貸人が破産宣告を受けても、賃貸借開関係は全く影響を受けないとしています。ただし、借賃については、前払または譲渡その他の処分がなされている場合には、その前払または処分は破産宣告の時における当期および次期に関する分を除くほかは破産債権者に対抗できず、それにより損害を受けた者は破産債権者としてその賠償を求めることができます。

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