企業破産と給料、退職金

退職金債権は、就業規則、労働協約、労働契約などで支給条件が定められることにより、その権利性が明確になっているときには、それが同時に功労報償的性格、社会保障的性格をも有するとしても、本質的には賃金後払的性格、賃金債権的性格をもつものであるために、使用者の破産の場合、通常の賃金債権と同様に扱われるべきです。現在では、このことについては大体見解の一致がみられます。問題は、賃金や退職金が、いかなる範囲において優先権の対象となるかについて、企業形態の種類いかんによって取扱いが異なるとされている点にあります。この点については、なお検討が必要です。

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株式会社と有限会社の場合、通説では商法二九五条は被担保債権額を制限しないものとみて、使用者の破産の場合、破産宣告前に生じた未払賃金は全額が優先的破産債権になり、退職金についても、破産宣告前に退職したときには、その全額が優先権の対象になると解しています。また、破産宣告後の退職の場合には、退職金のうち破産宣告前の雇用関係にもとづく部分の全額が優先的破産債権となり、破産宣告後の雇用関係にもとづく部分は、破産宣告後の賃金債権と同様に、財団債権になるとみています。破産宣告後の退職の場合には、解雇予告手当も財団債権となります。
他の企業形態の場合、通説では、株式会社および有限会社以外の各種の会社、法人ないし自然人である使用者が破産した場合には、先取特権の付与は民法にもとづき最後の六か月分の賃金に相当する部分に制限され、その部分のみが優先的破産債権になるとされます。つまり破産宣告前の未払賃金であろうと、破産宣告前に退職した場合の退職金と解雇予告手当、または破産宣告後に退職した場合の退職金のうち破産宣告前の雇用関係にもとづく部分であろうと、最後の六か月分の賃金相当部分のみが優先権の対象になるのです。しかも、賃金に未払部分があると同時に退職金も未払いであるような場合、それぞれについて別個に最後の六か月分の賃金相当部分が優先的に保護されるのではなく、すべての未払部分を合計したもののうち最後の六か月分賃金相当額のみが優先権の対象となるにすぎないのです。したがって、破産宣告前の賃金がすでに六か月間未払いである場合には、退職金については、優先権を認める余地はなく、一般破産債権として扱われるにすぎなくなります。仮に破産宣告前の賃金が四か月間未払であるとすれば、二か月分の賃金相当額の範囲で退職金が優先権の対象になります。判例でも、合資会社が破産し、その従業員の退職金についての優先権が争われた事例において、退職金が賃金後払の性格をもつものである以上、賃金の場合と同様に、最後の六か月間の賃金相当額について一般の先取特権があると判断し、この通説の立場に立つことを明らかにしています。
この通説については、同じ賃金債権や退職金債務でありながら、企業形態の種類いかんによって保護の程度が異なるのは不当ではないかという疑問が生じます。この疑問について は、一般に立法的解決をはかるはかはないとされていますが、解釈論として労働者間の平等な取扱を主張するものもあります。解釈論としての主張には、次の二説がみられます。
商法二九五条を基準にする説では、賃金債権の保護という社会政策的考慮を民法よりも一歩押しすすめた規定である商法二九五条を、他の形態の会社や法人もしくは自然人が使用者である場合に類推適用しようとする試みです。被担保債権の種類まで拡張するのではなくて、最後の六ケ月分の賃金相当額という額の制限を取り払うだけであるために、類推通用も許されるであろうとみるのです。
民法三○八条を基準にする説では商法二九五条は、賃金債権について、最後の六ケ月分の賃金相当額の限度で先取特権を認める民法三○八条を修正したものではなく、賃金債権以外の債権について額に制限のない先取特権を加えたものにすぎないとか、商法二九五条にいう債権には賃金債権や退職金債権は含まれないとみて、株式会社や有限会社の場合にも、賃金債権や退職金債権については、あくまで民法三○八条が適用されると解する立場です。もとより、この見解は、利益考量として、使用者の一般債権者の保護も相応に考慮しなければならないこと、賃金債権の保護に傾きすぎると、例えば経営が悪化した使用者に資材を供給する者が滅少して、当該使用者は一層困窮状態に追いこまれるおそれがあり、下請企業の債権を犠牲にすることによって、結局下請企業の労衝者を儀牲にする緒果になるおそれがあること、などの点を重視する立場に立っています。
使用者の破産の場合に優先権の対象となる賃金や退職金の額について、企業形態の種類によって差別するという取扱は、合理的根拠を欠いています。労働者保護の趣旨を生かすためには、むしろ、使用者の形態いかんを問わず、同様に扱うべきです。この点についての現行法の不備を、立法的に解決する場合であれ、解釈論によって補充する場合であれ、中心的な問題になるのは、賃金債権の優先的な扱いによって押しのけられることになる他の権利についての保護要請とのかねあいをどうするかという、政策的判断を要する問題です。この問題を考える場合、やはり労働者は当該使用者の企業活動を直援支えてきた最も重要な要素であるという点を軽視してはなりません。また、特に会社更生法上の賃金債権保護方法とのバランスも無視できません。会社更生法では、更生手続開始前六か月間に発生した賃金債権は共益債権として扱われ、退職金については、更生計画認可決定前の退職の場合には、退職前六か月間の賃金相当額または退職金の三分の一に相当する額のうち、いずれか多い額を限度として共益債権となり、また、更生手続開始後に雇傭され、かつ、更生計画認可決定前に退職した場合には、全額共益債権となります。さらに、更生手続開始後の会社都合による退職の場合にも、全額共益債権になります。以上のように、会社更生においては、破産の場合に比して、労働者の債権は数等優遇されています。しかも、会社更生が失敗に終わり破産に移行するときには、更生手続上共益債権とされているものは破産手続上も財団債権とされるので最初から破産宣告があり、そのまま破産手続が行われる場合との間に、財団債権とされる範囲について、不均衡が生じることになります。このような点をあわせ考慮すると、それ自体あまり担保の実をあげえない一般の先取特権が認められるにすぎない労働債権については、被担保債権額を制限しない方向での保護を考慮すべきです。当面の運用としても、商法二九五条をその文理に即して被担保債権額を制限しないものとしてとらえ、他の種類の全業形態の場合にもそれを類推通用するという方法をとることが望ましい。

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