契約締結上の過失

AはBの所有している軽井沢の別荘を買うべく、見分のため軽井沢にでかけて、翌日、東京のAの住所で売買契約を締結しました。ところが、前夜その別荘は焼失してしまっていました。この売買契約は不成立と解するのか、無効と解するのでしょうか。別荘は落雷で焼失しています。Aは、代金の一部を知合いの金貸しCから借りて、二年分の利息を前払しました。見分に行った費用もかかっています。Aは、これらの損害についてその賠償を請求できるでしょうか。できるとすれば、いかかる根拠に基づくでしょうか。火事の原因が、Aが見分にいった際に、煙草の吸がらをいれた灰皿にひびが入っていたのと、灰皿を畳の上においたことによるものであるとしたら、どう考えるべきでしょうか。
原始的に不能な給付を目的とする債権は無効であると一般には説明されています。契約の不成立も無効も、ともに効力を生じない点では同じですが、無効行為ならば追認により新たな行為がなされる余地があるのに反し、不成立行為ならば追認の余地はありません。特定物たる家屋の売買契約において原始的に不能の場合にはこれを追認しても意味がないため、この面からはかような場合には契約不成立と解してよいとも思えます。しかし、契約の不成立がすなわち当事者間に債権関係の不成立を意味するならば、契約締結上の過失の責任を認める根拠がなくなります。ましてこれを附随義務や保護義務違反と考えれば当然債権関係の存在が前提となります。したがって、相対立する意思表示の合致が形式的に存在することをもって契約は成立したが、本来の給付を目的とする債権は無効であると考えられます。

スポンサーリンク

お金を借りる!

前述のように、本来の給付を目的とする債権は無効であるため、その変形たる損害(履行利益)の賠償請求権は債権者において生じません。しかし、信義則に基づいて、過失によって無効な契約を締結した者は、相手方がその契約を有効なものと誤信したことによって蒙る損害(信頼利益)を賠償する責任があるという、契約締結上の過失の理論が多くの承認を受けています。本問では、Bに過失ありといえるかどうかは問題であるが、かりに過失ありとすれば、AはBに損害賠償を請求しうることとなり、見分に行った費用や代金支払のため融資を受けた利息などはこれに入るものと解されています。
吸がらの始末に備つけの灰皿を使用したことと、灰皿を畳の上に置いたこと自体には、一見して灰皿のひびが認められそのような灰皿の使用が危険であると知れる場合はとにかく、過失は認められません。仮に過失ありとすれば、AのBに対する不法行為責任については「失火ノ責任二関スル法律」の適用があります。BのAに対する契約締結上の責任との関係は、債務の履行に関して過失が競合するものではないから過失相殺は考えられず、Aに過失が認められる以上BはAに対して責を負わないと解すべきです。

お金を借りる!

契約の成立/ 懸賞広告/ 契約締結上の過失/ 同時履行の抗弁権/ 危険負担/ 第三者のためにする契約/ 契約の解除1/ 契約の解除2/ 贈与/ 売買の手附金/ 売買での売主の担保責任/ 不動産売買での売主の担保責任/ 売主の担保責任/ 消費貸借/ 使用貸借/ 宅地賃貸借/ 建物賃貸借/ 賃貸借の賃料/ 建物賃貸借2/ 建物賃貸借3/ 雇傭/ 請負/ 委任/ 寄託/ 組合/ 終身定期金と和解/ 事務管理/ 不当利得/ 責任能力と失火責任/ 自動車事故での不法行為1/ 自動車事故での不法行為2/ 自動車事故での不法行為3/ 名誉、プライバシー/ 取引事故/ 婚約/ 婚姻の届出/ 夫婦の氏/ 夫婦の財産関係1/ 夫婦の財産関係2/ 協議離婚/ 審判、裁判離婚/ 財産分与請求権/ 内縁/ 嫡出子/ 嫡出でない子/ 養子縁組/ 親権、後見1/ 親権、後見2/ 扶養1/ 扶養2/ 相続の意義と相続回復請求権/ 相続人/ 相続の効力1/ 相続の効力2/ 遺産分割/ 相続の承認と放棄/ 相続人の不存在/ 遺言/ 遺留分/