請求の特定(訴訟物理論)

電機器具商Xは、Yにテレビを二〇万円で売り、引渡しをしたが、いっこうにYが代金を支払わないので、その請求をしたところ、Yは売買契約は無効であるから代金は支払わないと言いだしました。
Xは訴訟によって解決するほかないと思いますが、彼自身としては、売買契約は有効と信じているので、売買代金二〇万円を要求したい。そして、かりに無効だとすれば、不当利得として代金相当額の支払いまたは当該テレビの返還ならびに損料の支払いを要求したい。
Xはその訴状において、どのように請求を特定、表示するのでしょうか。訴訟物理論の差異により、違ってくるでしょうか。
Xが、不当利得による請求としては、一五万円の支払いしか求めえないと考えたときはどうなるでしょうか。
損料の請求をするについては、損料の額を正確に見積ることは困難です。そこで金額を明示しないで、単に「相当な額の損料」と表示して請求することができれば便利ですが、このようなことは可能でしょうか。

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訴訟物の特定は訴状の主要な職能ですが、特定のためにいかなる事項を記載すべきかは訴訟物理論いかんで異なります。訴訟物の規模が大きくなるにつれて、記載事項は減少する関係にあります。訴訟物をめぐる学説は、(1)実体権を基準とする旧実律法説(旧訴訟物理論)、(2)申立てと生活事実関係に基準を求める申立て・事実関係二分肢説(新訴訟物理論)、(3)給付の同一性のみを基準とする申立て一本説(新訴訟物理論)、(4)統合された包括的請求権を基準とする新実体法説の順序で展開されてきましたが、わ日本では、(1)説が判例、多数説であり、(3)説も有力です。旧理論によれば、売買代金債権と不当利得債権では訴訟物を異にし、両者は予備的併合の関係に立つ。訴訟物を特定するには、常に請求の趣旨と原因の記載が必要になります。これに反し、新理論によれば、不当利得か売買かは法的観点の違いにすぎず、訴訟物は一個になります。ただし、テレビの返還請求は、給付を異にするので、訴訟物は別個にならざるをえません。訴訟物の特定にあたっては、特定物の返還の場合には、請求の趣旨の記載のみで足りますが、金銭の支払いの場合には、給付の特定に必要な売買契約の日特等を請求原因として記載して、混同を避ける必要があります。ただし、この記載は訴訟物特定の等価の要素ではなく、申立てを補完するものにすぎません。
旧理論によれば、売買代金請求を主位に、不当利得請求を副位にして予備的併合の形式で訴えるか、売買代金請求のみの単発訴訟によればよい。なお、不当利得請求の(一部)認容後の売買代金請求の可否は問題です。新理論によれば、法的観点としての売買に力点をおいて攻撃防御をすればよい。なお、数額に違いがある以上、いずれにせよ、売買の点の審理が必要になるので、Xに法的観点の順位指定権を認むべきか否かを論じる実益は疑わしい。この点で、債権の属性が問題になる場合とは異なります。
判例、通説によれば、請求はこれでは特定されないし、訴訟物の価額が不明だと事物管轄、貼用印紙等も決まらないので、金額の不記載が補正されないかぎり、訴状却下を免れません。しかし、損害そのものを特定すれば足り、その評価は裁判所に委ねてよいとする少数説もあります。

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