当事者の確定

Xは取引先のAに頼まれ、一通の約束手形を割り引いて取得しました。その手形には、振出人として「株式会社大浦工務店代表取締役大浦富次郎」の記名捺印があります。Xは、この会社を訴えようと思ったのですが、商業登記簿にも現地にもこの名称の会社は見当たらなかったので、実在しないものと考え、訴状の当事者欄には、被告を「株大会社大浦工務店こと大浦富次郎」と表示して、訴えを提起しました。請求の原因欄には、手形要件全部の記載があります。第一回口頭弁論における大浦富次郎の陳述により、この会社は本店を移転し商号も変更して存在することがわかったので、Xに、被告の表示を「浦富建設株式会社右代表取締役大浦富次郎」と訂正する、と陳述しました。
この訴訟における被告は誰になるでしょうか。
設例におけるXの陳述は、訴状における当事者告示の訂正にとどまるか、それとも、当事者の変更となるでしょうか。
R弁護士はXから本件の訴訟委任を受け、訴状を裁判所に宛て発送しましたが、その後にXは死亡しました。第一回口頭弁論において、Rは、この事実を述べ、原告の表示をXの相続人であるAに訂正すると陳述しました。裁判所はどのように処理すべきでしょうか。

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当事者の確定の基準については、原告または裁判所が何人を当事者にしようと考えたかによる意思説、当事者らしく行動した者を当事者とみる行動説、訴状の記載から判断すべしとする表示説、疑わしい場合にはできるだけ当事者適格のある者を当事者とみるべしとする適格説の対立があります。「Xは会社を訴えようと思った」のであるから、意思説では、会社を被告とみるべきでしょう。大浦富次郎が個人として訴訟活動したのか、会社の代表者としてしたのか、設例からは明らかでないので、行動説ではいずれが被告とも決めかねます。表示説では、訴状の当事者欄のみならず、請求の趣旨、原因欄の記載をも斟酌すべきところ、設例では、請求の原因欄の記載から会社振出しの手形による請求であることがわかるから、この訴状を総合的、合理的に解釈すると、被告は会社とみるべきです。適格説でも同様な結論となります。
会社を被告と解するのが正当だとすれば、たとえ本店を移転し、商号を変更していても、浦富建設株大会社と株式会社大浦工務店とは法律上同一人格とみるべきであるから、Xの陳述は当事者の表示の訂正を求めるにとどまるものと解すべきです。
Xの死亡は訴状の発送後であるため、表示説によればもとより、意思説や適格説によっても、原告はXであるとみるべきであろう。Xの死亡が訴訟係属後、すなわち被告への訴状の送達後であった場合は、Aが訴訟を当然承継し、Xの訴訟代理人Rは以後Aの代理人として引きつづき訴訟を追行できることになっているため、原告の表示をAに訂正しうることには疑問がありません。問題は訴訟係属前にXが死亡した場合です。Xが原告であるとみるかぎり、Aへの当事者の告示の訂正は認められません。任意的当事者変更についての通説的見解によると、当事者をAに変更することは可能ですが、それでは時効の中断とか出訴期間の遵守の効果が失われることになります。そこで、多数説はこの場合にも訴訟承継の理論を類推適用して、承継人たるAに当事者の表示を訂正することを許しています。

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