相続、合併と根抵当権

根抵当権における根抵当権者(甲)ないし根抵当債務者(乙)の変更は、根抵当不動産所有者(丙)の関与なしには、行なうことはできません。甲または乙につき相続、合併が生じたときにも、理論的には同様に考えられます。しかし、これらの場合には、従来どおりの取引の継続が要求されることが多く、丙においてもこれを承認する意思をもつことが少なくないと考えられます。したがって、民法三九八条ノ九、三九八条ノ一〇は、このような場合に根抵当権がどのような条件のもとで扱われるかと定めています。そして、その際に根抵当不動産所有者丙が物上保証人または第三取得者である場合に、丙の保護のため、根抵当権の確定可能性を定めておくことが、不可欠です。ところで、相続の場合と合併の場合とを比較すると、前者よりも後者の場合のほうが、根抵当取引継続の蓋然性が大きいこと、また、相続の場合には承継者の数が多いこと、といった差異が認められ、この相違は法の規定ないしその解釈に際して、具体的なかたちで表れてきます。

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甲ないし乙について相続が開始すると、根抵当権は原則として確定し、相続開始の時点までに甲が取得しまたは乙の負担した債務のみが、根抵当権の被担保債権の元本となります。しかし例外的に確定しない場合もあります。
根抵当権者(甲)について相続が開始すれば、その相続人(甲')が根抵当取引を継続する意思を当然持つわけではなく、また、甲'にその意思があったとしても、物上保証人丙に従前どおり担保する意思がないことも、少なくありません。したがって法は、相続開始によって根抵当権が確定することを原則とし、開始後に甲'が取得する債権はこの根抵当権の被担保債権とならない、と定めています。確定根抵当権はその被担保債権の相続人に帰属します。根抵当債務者乙が死亡した場合にも、被担保債権元本の発生の可能性がなくなるために、根抵当権が確定することは、いうまでもありません。
甲が死亡したときには甲'と乙の間で、乙が死亡たときには甲と乙の相続人乙'の間で、従前どおりの取引がおこなわれ、それに基づいて発生する債権と丙において担保する意思があるときは、根抵当関係もそのまま存続させるのが妥当です。いわゆる存続の合意によって例外的に根抵当権が確定しない、としたゆえんです。
根抵当権者甲につき相続が開始したときはその相続人甲'と根抵当不動産所有者丙とであり、根抵当債務者乙が死亡した場合は、甲と丙とです。乙ないし乙'がこの合意に関与しないことに留意すべきです。間題は甲の相続人とは、具体的にどのような者を指すかになります。甲からの包括受遣者は、民法九九○条の法意からして、当事者とされます。相続放棄ないし限定承認をした甲'が存続の合意に関与しえないことには、異論はありませんが、遣産分割の結果、根抵当権について権利を有しない甲'については間題があります。一般的には、そのような相続人は存続の合意に関与する権利を放棄しているといえますが、理論的には、存続の合意に関与しうる法的地位は遣産分割の対象にならない、というべきです。特別受益を得ていて具体的相続分をもたない甲も存続の合意に関与しうる、と思われます。
債権者または債務者として指定をうけうる資格、甲死亡の場合は、前に述べた存続の合意に開与しうる相続人がこれにあたります。これとは逆に、乙死亡の場合には、乙の相続人全員がその資格を有します。存続の合意をなすにつき、後順位権利者などの利害関係人の承諾は不要ですが、この合意は、相続開始後六ヶ月以内になされ、かつ、その登記をしなければ、効力を生じません。根抵当権が確定したか否か不明の浮動状態を長期にわたって放置しておくことは、法律関係を複雑にし、当事者の地位の安定を妨げ、第三者の利益を害するからです。存続の合意の登記は、相続による根抵当権の移転の登記または債務者変更の登記後でなければなしえありません。しかし、両者を同時に申請することは、もとよりさしつかえありません。根抵当権は確定しないで存続し、債権者もしくは債務者を変更することとなります。したがって、債権者死亡の場合には、この存続の合意と遺産分割との関係が間題となります。また共同相続人のうち複数が新債権者または新債務者とな った場合には、根抵当権共有者または共同根抵当債務者となります。
甲または乙の死亡後、民法三九八条ノ九第四項所定の期間が経過せず、存続の合意の登記もない時期(浮動期間)の根抵当権をどのように解するかは、争われるところです。甲または乙の死亡により、所定期間内に存続の合意の登記がなされないことを停止条件として、根抵当権確定の効果を生じるとみる停止条件説か、甲または乙の死亡により、根抵当権確定の効果を生じるが、所定期間内に存続の合意の登記がなされることという解除条件が附されていると考える解除条件説かです。両説の対立では、浮動期間中になされる遺産分割と存統の合意との関係において、最も明瞭に表れます。
根抵当権者たる甲会社ないし根抵当債務者たる乙会社が、甲'会社または乙'会社に合併された場合には、すでに述ぺたように、根抵当取引関係の承継を伴うのが通例です。このことは、たんに吸収合併の場合のみでなく、甲会社と甲1会社が合併して甲'会社を新設するようなときにも、同様といえます。したがって合併によって、根抵当権の債権者は甲から甲'に、債務者は乙から乙'に、当然承継されることとなります。そして、被担保債権の範囲は甲'または乙'が甲ないし乙から承継したすでに特定した債権ないし債務をも含むこととなります。この変更につき根抵当物件所有者丙の同意も、また登記も必要ではないことに注意すべきです。
既述のように合併の効果は根抵当不動産所有者丙の関与なしに生じます。しかし、丙にしてみれば、新債権者甲'会社や新債務者乙'会社を信用できない、ということもまま生じることになります。そこで丙の利益を考えて、合併を機に根抵当権を確定させる権利を、丙に保障しました。請求をなしうる者は抵当不動産所有者丙であり、物上保証人であると第三取得者であるとを問いません。ただし丙が根抵当債務者であるときは、確定請求をなしえない請求の相手方は、請求時の根抵当権者です。確定請求は、丙が合併の事実を知ったときから三週間以内で、合併のときから一か月以内になされねぱなりません。ただし、合併前に、合併を停止条件として確定請求をなしうると解されます。権定請求権の事前放棄は、強行法規に反することとなり、当事者間で債権的効果しか生じないと解すべきです。確定請求権発生後の放棄は有効と考えられます。

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