債権がないのに抵当権の実行

民執法では、一般的に担保権の実行としての競売と呼んでいますが、得に不動産を目的とするときには、不動産競売と呼んでいます。抵当権の実行も、不動産を目的としているために、この不動産競売のなかに入ることになります。民執法によると、抵当権者が、不動産競売を申し立てるためには、次の三つの書類のうちのどれか一つの謄本を提出しなければなりません。
抵当権の存在を証する確定判決、抵当権の存在を証する公証人が作成した公正証書、抵当権の登記のされている登記簿。
このうち、前の二つは、いわゆる債務名義と呼ばれる文書です。学説の一部には、不動産競売を申し立てるときには、必ずこの債務名義の提出を必要とするのではないかという意見も強かったのですが、旧法では、必ずしもこの債務名義の提出を必要としないで、登記簿を提出するだけで足りるとしてました。民執法では、この競売法に長年にわたって馴れてきた取引界に急激な変化が生じることを恐れて、旧法と同様に、債務名義にならんで、登記簿を提出するだけで足りるとしていました。しかし、この民執法も、旧法と比べて大きな差異を生じています。それは、登記簿の提出、それも本登記の登記簿の提出を求めている点です。仮登記の登記簿を提出することも、未登記のままで不動産競売を申し立てることは、許さないとする立場がとられています。旧法の下では、未登記のままでも、抵当権設定契約書、被担保債権に関する契約書などの、必要な書類さえ提出すれば、不動産競売の申立を認めるとするのが、判例の立場でした。民執法では、この判例の立場を踏しゆうしませんでした。取引界では、よく登記留保ということが行なわれています。

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不動産競売が進行すると、やがて買受人が現われ、彼が代金を裁判所に支払うと目的不動産の所有権を取得します。しかし、不動産競売は、担保権の存在を前提とし、また、その担保権は、被担保債権の存在を前提としているために、被担保債権が存在しないのに、不動産競売が行なわれてはならないことはいうまでもありません。ところが、もし間違って、被担保債権が存在しないのに不動産競売が行われ、前述のように買受人が現われた場合に、彼は有効に目的物の所有権を取得できるかどうかでは、旧法下の判例では、むしろ無効説をとっていました。つまり、もし被担保債権が存在しないのに、不動産競売が行われた場合に、その不動産競売は手続的には違法であっても、実体的には無効になります。それゆえ、買受人は所有権を取得しないという態度をとっていたなるほど、これによって、債務者の地位は手厚く保護されることになります。しかし、買受人の立場は、一体どうなるのであるかは、被担保債権が存在したか否かは、債権者、債務者間の内部間題であって、第三者である買受人のあずかり知るところではありません。彼としては、国家の裁判所の行う競売手続であるというので信頼して買受人になったのに、その買受人たる地位が根本から覆るようでは、この裁判所に対する信頼も揺らいでしまいます。従来、とかくこの不動産競売に対する世間の評判が悪く、ブローカー達の暗躍をゆるしている大きな要因の一つとして、この買受人のおかれた地位の不安定があげられています。そこで、民執法では、次のような規定を設けるに至りました。代金の納入による買受人の不動産の取得は、担保権の不存在又は消滅により妨げられません。
この規定によって、買受人の地位は保護されることになりました。しかし、その反面で今度は債務者の保護を考えなければなりません。つまり披担保債権が存在しないのに、あえて不動産競売が行なわれた場合に、その不動産競売の開始、ないしは進行を阻止する方法を債務考に与えなげればなりません。このためには、不動産競売の開始決定を債務者に送達して競売開始の事実を債務者に通知するほか、すでに開始された不動産競売の内部において、この競売を停止したり、また取り消したりする救済方法を与えなければなりません。
この債務者の救済方法に関して、民執法の立法過程は、興味ある変遷を示しています。民執法が制定されるまで、強制執行法案、民事執行法案要綱の草案が発表されましたが、その二番目の第二次試案において、次のような規定が設けられていました。競売手続開始決定に表示された担保権又は被担保債権の存在又は内容について異議がある債務者又は所有者は、担保権実行の競売の不許を求めるためには、担保権実行に対する異議の訴えを提起しなければならない。
この規定が、強制執行の、請求異議の訴えからヒントを受けていることは、その規定の文言からも明らかです。しかし、強制執行と、不動産競売の間には、大きな差異があって、強制執行のときには、債務名義の存在が必要ですが、不動産競売のときには、前にも述べたように、債務名義の存在は必要でなく、担保権を登記した登記簿の謄本を提出するだけで、不動産競売は開始されます。つまり不動産競売を申し立てる担保権者には、きわめて略式の申立手続が認められることになりますが、これとのパランスからいえば、不動産競売に対して異議をいう債務者にも、それ相当の略式の救済方法が認められてしかるべきです。このような意見は、民執法の立法に関与した学者の一部からも主張されていましたが、この意見をうけてか、民執法は次のような規定を設けるに至りました。不動産競売の開始決定に対する執行異議の申立てにおいては、債務者又は不動産の所有者は、担保権の不存在又は消滅を理由とすることができる。執行異議ならば、執行裁判所に申し立てることができ、またその審理手続も、訴えにくらべると、はるかに略式です。しかし、この執行異議にも、一つの弱点があり、それは債務者が執行異議を申立て、この申立てが裁判所により排斥された場合に、もはや上級裁判所に上訴執行抗告ができないことです。この事態から債務者を救済するためには、執行異議のほかに、どうしても訴えを認めておかなければなりません。民事執行法案要綱では、この執行異議と、異議の訴えの両者を併行して認めていましたが、民執法では、旧法下と同じように、抵当権不存在の確認の訴えを本案訴訟とし、抵当権実行の禁止を命ずる仮処分を申請するという救済方法を認めているようです。

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