遺言制度

遺言は人の生前における最終の意思に法律的効果を認めて、その実現をはかる制度です。そもそも人がその死後において自己の財産や家族の身分上のことなどきわめて身近なことについて措置を講じておきたいと望むのは人情です。また、家族や近親の者が、その遺された最終の意思を尊重するのは徳義の要求であるともいえます。これが遺言制度の第一の存在理由です。次に遺言は、財産上の事項だけではありませんが、最も多く行われるのは、相続、遺贈に関するものであり、身分上のことである遺言認知も、物質的な理由づけとしての要求である場合が多くなっています。そのことは遺言によって財産支配が次代へ承継されることの是認であり、遺言を認める第二の存在理由だといえます。

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遺言は私有財産制度に基づく財産処分自由の一形熊として、近代法上、遺言の自由の建前が主張されます。私有財産制度を認める理由は,自分の財産の死後における帰趨をも自分で定めることができることによってはじめて徹底されるといえます。このように、遺言による自己の財産の死後処分を自由なものと考えるならば、遺言相続が相続の原則であるという結論もでてきます。イギリス法におけるように、遺言のない場合にのみ法定相続が行われるとする事態もあるわけです。しかし民法は、法定相続を本則として、遺言者の意思を絶対視することなく、遺留分の規定を設けて遺言の自由を制限しています。これは、もっぱら個人の生活や生存権の保障ということに重点をおいたものです。いまだ個人の生活や生存権は国家において十分に保障されておらず、むしろ個人の生活権の確保は個人の責任とされている以上、相続財産に多少でも期待をかけざるを得ないわけで、遺言の自由を無制限に認めることは、社会秩序維持の面から是認できないということです。民法では遺言による財産処分のみならず、身分上の事項の決定も遺言でなしうることにしていますが、それは個別的に法定されており、広汎な遺言の自由を認めることはしなかったのです。
相続制度が、財産関係を規律する制度と密接な関係を持ち発達したように、遺言制度も財産制度とくに私有財産制度の発達と深い関連を持っています。欧米諸国においては、ローマ法以来遺言は広く認められており、遺言による財産承継の制度が相続制のうちでも主要な地位を占めていたのです。日本においても、古くから遺言制度が存在し、養老令は被相続人の遺言による財産処分を認め、王朝時代にも武家において生前における遺産の帰属を定める慣例があり、徳川封建社会においても、庶民階級において遺言相続が本則で、法定相続は被相続人が急死したような場合に認められたもののようです。しかし武家階級では、遺言で封禄の相続を分割するというようなことは許されず、主として家の承継者の指定、廃除など家の管理者の機能に関することが遺言によって決せられたにすぎなかったようです。明治民法では、これにならって家の継統を主とした法定相続を原則とした遺言制度を法政化していました。つまり一方では単純な財産処分に関する遺言を認めながら、他方において遺言養子、家督相続人の指定および廃除、親族会員の選定など家に関する遺言が主要な地位を占めていたのです。
日本においては遺言の近代的意味での利用はあまりなかったといえます。明治民法においても遺留分を侵さない限り、法定推定家督相続人以外の者に遺産を分与することもできたのですが、長子相続の習俗と財産細分化を喜ばなかった関係上、長男子全産相続が一般に行われ、遺言制度の活用の余地はなかったのです。むしろ遺言は、異例のことと考えられ、思み嫌う気風がありました。しかし儒教的、封建的な家族制度の廃止にともない、相続制度も家の束縛からはなれた民主的な個人の自由意思の尊重が基本となった現行法では、諸子均分を原則とする分割相続制が採られ、遺言制度は重要な意味を持ってきたといえます。現行法下の遺言制度は、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈などによって、農業資産や個人企業資産の細分化を防ぐために利用され、また共同相続人間の争いをあらかじめ防止するために大いに活用され、種々の点で遺言が重要な機能を営むことが期待されます。

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