時効完成後の相殺

Aにお金を貸していましたが、その後Aから商品を買い受け、代金は支払わないでおきました。お金を貸していたから相殺すればよいと考えていたのです。ところが、貸金のほうは時効にかかってしまい、Aの債権者Bが売買代金債権を譲り受けたと称して私に請求してきました。このような場合はどうしたらよいのでしょうか。
相殺が有効なためには、原則として、相殺の意思表示がなされる時点において、相殺適状にあることが必要です。したがって、本来なら、消滅時効にかかってしまった債権を自動債権として相殺しようと思っていても、相手方が時効を援用す れば、相殺は効力を生じないはずです。しかし、民法は例外を設け、債権が時効で消滅しても、「其消滅以前に相殺に適したる場合に於ては」、なお相殺に用いることができるものとしています。例えば、AのBに対する債権とBのAに対する債権とが、一〇月一日に相殺適状を 備えいつでも相殺できるにもかかわらず、ABのいずれからも相殺の意思表示がなされないでいる間に、一一月一日にBの債権が消滅時効にかかってしまったという場合でも、Bは時効で消滅した債権で相殺することができるのです。こうした例外規定が設けられたのは、対立する両債権の当事者は、両債権が相殺に遮する状態に達したときには、あらたまって意思表示をしなくても、すでに債権関係は決済されたと同様に考えるのが普通ですから、当事者間のこの信頼を保護しようとしたのです。ですから時効で消滅した債権をもって、時効完成後に成立した債権と相殺することができないのは当然です。なお、本問の例で、Aの方から相殺することは、Aが時効の利益を放棄することになるため、もとよりAの自由です。

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すでに消滅時効にかかったCのAに対する債権を、Bが譲り受けて、これを自動債権として、BのAに対する債務と相殺することはできません。判例、通説のひとしく認めるところです。なぜなら、Bが譲り受けた債権が時効にかかって消滅 する前には、AB両人の問に相殺適状は存在しないからです。
Bが、Cを主たる債務者、Aをその連帯保証人とする貸金債権をもっており、AはBに対して反対債権をもっているというケースで、Bの有する主たる債権が時効消滅したために連帯保証人Aに対する債権が消滅したという場合にも、Bはこの債権でAに対する債務と相殺できるのかどうかということが問題になります。判例は、この場合にも民法五〇八条の特則が適用されるものと解して肯定しています。これに対して学説は、Aの保証債務が消滅するのは、それ自体が時効消滅したからではなく保証債務の附従性によるものであること、また、債権者が保証人に対して債務を負担した場合に主たる債務者に対する債権と清算されたと考えていたからといって、保証人も同じように考えていたとはかぎらず、債権者のこの信頼を保護することは保証人の予期に反し不公平であること、などの理由で、判例の見解に反対しています。
本問に対するAの売買代金債権を、BがAから譲り受けても、Aがその旨を通知するか、あるいは、あABのいずれかにそれを承諾するかしないと、Bは売買代金債権を譲り受けてその債権者となったことを、主張することができないのです。ですから、Aから通知してくるまでは、Bが請求してきても無視しておけばよいのです。では、Aが通知してきた場合にはどうすればよいのでしょうか。この場合は、「其通知を受くるまでに譲渡人(A)に対して生じたる事由を以て譲受人(B)に対抗することを得」るのですから、債権譲渡の通知をうける以前にAに対して有していた反対債権(貸金債権)をもって、たとえそれが消滅時効にかかって消滅していようとも、相殺適状にあるかぎり、Bの譲受債権と相殺することができるのです。そうでないと、売買代金債権がBに譲渡されなければ、Aとの間で相殺して清算することができるのに、譲渡があったために、この期待が奪われてしまうことになります。しかし、こんな結果を認めるべき理由はないわけです。この揚合、Aに対する貸金債権で、Bに対する債権を相殺することになるのですから、相殺の意思表示は、Bに対してしなければなりません。それから、Bに弁済してしまった場合や、相殺に用いる債権であるとの異議を留めないで債権譲渡を承諾した場合には、もはや相殺はできません。

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