事前求償権による相殺

支払承諾というのは、銀行が、取引先の委託にもとづいて、取引先のために債務の保証または手形引受、手形保証を行ない、その対価として保証料をとる銀行、取引先間の取引をいいます。このような当事者間の支払承諾取引の展開を法律関係としてとらえると、次のようにななります。銀行、取引先間において支払承諾取引の開始について合意が成立します。取引先が具体的に自己の債権者に対する債務の保証または手形引受、手形保証を銀行に依頼し、銀行はこれを応諾して、取引先からの保証料を徴収したうえ、取引先のために、取引先債権者に対し、債務の保証または手形引受、手形保証を行ないます。もし、取引先が原債務の履行を怠るなどして、債権者から請求をうけると、銀行は、保証人、手形引受人、手形保証人として弁済します。弁済の結果、取引先に対して求質権を取得し、その保全、回収をはかることになります。ただ、通常の場合は、取引先が原債務を履行したり、またはその資金を銀行に提供するかして銀行を免責させます。また場合によっては、取引先債権者が保証を免除したり、除斥期間の経過などによって銀行が免責されます。支払承諾の機能は、それによって、取引先は十分な信用を取得し、銀行側は直接資金負担がなく、双方にとって有利な面があります。ただ、取引先が、原債務を履行しなければ、銀行は保証人などとして債務の履行をしなければならず、支払承諾取引を行なうにあたっては、銀行は一般の貸付と同様に取引先の信用を重視することになります。銀行としては、求償権の保全のために注意を払い、主債務の内容の十分な検討、取引先の信用度などを検討して支払承諾をすることになります。

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支払承諾約定書における取引先に対する事前求質権の行使に関する条項としては四、六、七、八の各条があります。その内容は、取引先に原債務の消滅 等の場合の通知義務を負担させ、相殺の自働債権になる求質権の範囲を定めるとともに(同六条)、事前求償権行使の要件を緩和することによって、相殺適状を容易に作り出せるようにして間接的に相殺の可能性を拡大し(同七条)、法定相殺のほかに相殺できる場合を直接規定して相殺の可能性を拡大する(同八条)ものであり、これらの点から、支払承諾約定書の機能の中心が求償権の保全、回収確保にあることがうかがわれます。
ところで、約定書七条三項は、同条一項、二項に列記するところに該当する場合支払承諾取引の当事者である取引先は、銀行に対する償還債務または原債務に担保があると否とを問わず、求償に応じるものとし、また銀行に対して、担保の提供または原債務の免責を請求しないものとして、事前求償権行使の要件を緩和します。したがって、この規定は、事前求債条項にもとづく相殺についての特約の対外的効力、つまり、取引先の預金が、取引先債権者によって差し押えられた場合に、第三債務者たる銀行は、差押当時、この特約によって取得していた事前求償権をもって、取引先の預金と後日相殺することを差押債権者に対抗できるかという問題を考える基本となっています。
取引先は、銀行の事前求償に対して、法律上、無条件に応じなければならないかを考えてみると、取引先は、銀行に支払うべき金額を供託し、これに相当する担保を提供し、また、取引先債権者と交渉して銀行に免責を得させて求償に応ずる義務を免れることが、民法四六一条二項の趣旨からは認められます。また、取引先は、銀行に対して、同条一項によって、担保を供すること、または自己に免責を得せしめることを請求することができるはずです。また、判例には、取引先が銀行の求償権を担保するため担保権を設定しているときは、銀行は事前求償権を行使できないとするものや、原債務について担保権が設定されているときも同じであるとするものがあります。
しかし、このように、民法四六一条を前提にするかぎり、免責の抗弁権が主たる債務者(取引先)にあり、抗弁権のついている債権を自働債権として相殺することは許されないので、そのままでは銀行にとって求償権の回収に重大な支障が生じることから、約定書七条三項のような包括的な特約が結ばれることとなります。ただ、この特約のうち、「償還債務または原債務に担保があると否とを問わず」という文言で、民法四六一条二項の抗弁権を排除できるかどうかについては見解の分かれるところです。排除できない、つまり、担保が入っている揚合には、担保を処分すればいいのであって、預金をもって担保的機能を果たさせるまでもないという意識にもとづく考え方もありますが、実務上は、その限度にはなお考えるべきものがあるとしても、約定書七条三項の特約は有効と考えているようです。

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