差引計算と種類

差引計算という用語は、銀行取引約定書七条の見出しに使用されている用言です。そこでは、民法の認定に従って行う相殺(法定相殺)、銀行と貸付先との合意によって行こう相殺(契約相殺・約定相殺)、貸付先の預金を払い戻して貸金に充当する手続(払戻充当)の三つを総称して差引計算と呼んでいます。ただ、差引計算という言葉の定義は必ずしも一定しているわけ ではなく、一般に相対立する債権と債務とを帳簿上の操作で決済し、債権を回収する制度、というように定義することも考えられます。
差引計算の中心となるものは、民法の規定による相殺(法定相殺)ですが、五〇五条以下の条文を読めばすぐわかるように、民法では、債権の消滅という節に相殺に関する規定が置かれてており、相殺は債務を免れるための手段である、と考えられています。しかし、相殺は、現在では金融機関においては、預金債務弁済の手段としてよりも貸金債権回収の手段として重要視されています。その理由は、相殺による債権回収には、次のような特徴があるからです。
(1)手続が簡単。相殺は相手方に相殺の意思表示をし、帳簿上の処理をするだけで、弁済を受けたのと同様の効果を収めることができます。あらかじめ預金に質権を設定しておいたりする必要はありません。
(2)他の債権者からの差押えなどに対して強い対抗力を持つ。債務者の預金に対して債務者の他の債権者から差押えや仮差押えなどを受けたときには、確定日付のある書面で質権の設定を行なっていないかぎり、銀行は優先権を主張できません。特に滞納処分による差押えに質権で対抗しようとするためには、確定日付が租税の法定納期限前であることを必要とします。しかし、質権で対抗できない場合であっても、差押え前から債権を有しており、その債権の弁済期が預金の弁済期以前に到来する場合には、銀行は相殺によって差押えに対抗して貸金を優先的に回収することができます。
また、破産、和議、会社整理、会社更生のように、債務者から弁済を受けることが禁止され、あるいは担保権の実行が制限されるような事態でも、相殺による債権回収は認められています。
このように相殺が貸付金回収の手段として果たす役割のことを、相殺の担保的機能と呼んでいます。

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民法に定められた相殺(法定相殺)の要件は次の通りです。
(1)同一当事者間に債権の対立があること。貸付先から預金を受け入れている場合が債権、債務の対立の典型的な例です。貸付が株式会社の本社に対して行なわれ、同一株式会社の支店から預金を受け入れていても、貸付が銀行の本店で行なわれ、預金が同一銀行の支店で行なわれていても、同一当事者間の債権、債務の対立に該当します。
保証人から預金を受け入れている場合も、保証人が銀行に対して負担している保証債務と、預金との間に、債権の対立がありますから、相殺は可能です。これに対して、第三者の預金を担保として貸付を行なっている湯合には、債権、債務の間に対立はないために相殺はできません。
(2)対立する債権が同種の目的を有すること。銀行の貸付も預金も、どちらも金銭債権ですから、これは問題にはなりません。
(3)両債権がともに弁済期にあること。貸付の場合には、約定期限が到来したとき、または手形の期日が到来したときを弁済期到来と考えられます。次に預金の場合には、普通預金、通知預金のような要求払預金は、その性質上いつでも請求できる預金であるため、常に弁済期が到来している、と考えられます。定期預金の弁済期はもちろん、その期日です。ただし、判例は相殺の意思表示を行なう側の債権(自働債権、反対債権)の弁済期が到来していることは必要だが、相殺の意思表示を受ける側の債権(受慢債権、主債権)については、債務者は期限の利益を放棄することができ るため、問題にする必要はない、といっていますから銀行が相殺をするときには、自働債権である貸金の期日が到来していさえすれば相殺適状にある、と考えられます。
(4)債務の性質が相殺を許さないものでないこと。銀行の貸付・預金については問題にはなりません。
(5)相殺禁止の特約がないこと。銀行の場合には相殺禁止の特約がある例はないと 思われます。ただし、当座預金は、預金者の振り出した小切手、手形の支払いにあてられるという目的をもって預入れされた預金ですから、当座取引を解約しないかぎり相殺はできない、と解されています。
法定相殺をするためには、相手方 に対して、相殺をするという意思表示を行なうことが必要です。そして、この意思表示が相手方に到達したときに、相殺の効力が発生することになります。
意思表示の方式は定まったものはなく、口頭、文書、電報等、何でもよいのですが 実務上は意思表示がいつ行なわれたかについての争いを防止するため、内容証明郵便を配達証明付で発送するか、相手方から相殺の意思表示を受けたことを確認します。という文面の確認書に署名を求めて徴求し、これに確定日付を受けておく、という手続がとられています。
意思表示の相手方は、受働債権の債権者です。ただし、受働債権が譲渡されたり、差押えなどを受けたりしたときには、意思表示の相手方が変わることがあります。

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