代理受領の法律

建設業者が、A村から工事を請負いました。工事の途中資金に困りB銀行から融資をうけましたが、担保に入れるものがなかったので、この工事代金をB銀行が取り立てて貸金の弁済にあてるという条件で承知してもらいました。そして、B銀行に工事代金を受領する権限を委任するという趣旨の委任状を出し、またA村からはこの委任状に代理受領を承諾するという奥書をしてもらいました。このような場合、工事代金債権をB銀行の質に入れたり、B銀行に譲渡したのと同じこととなるでしょうか。
本問の場合のように、銀行が取引先に融資し、その貸金債権の担保に取引先が第三者(第三債務者)に対してもっている債権をとる方法としては、債権質を設定するとか、担保の目的をもってする債権の譲受が考えられます。代理受領もこれらの債権担保手段と類似の働きをするもので、それは銀行に、取引先が第三債務者に対してもっている債権を取り立てさせ、銀行はその取立金を貸金債権の弁済にあてることができるという内容をもったもので、銀行と取引先との契約によって成立するものです。代理受領は債権質や債権譲渡にくらべると効力が弱いものですので、第三債務者が質権の設定や債権譲渡を好まない場合、同時に銀行がこのような強い権利を取得しなくとも取引先に資力信用があり貸金債権の回収に不安を感じない場合に、代理受領の契約が結ばれるわけです。特に戦後、銀行の中小企業に対する融資を援助するため、官庁が工事請負代金を銀行が代理受領することに便宜を与えるという趣旨の申合せをしたことによって、代理受領が次第に利用されるようになってきました。つまり、建設業者などが資金に困る場合でも、銀行と代理受領の契約をして、工事請負代金債権を担保に銀行から融資をうけるという例が多くみられるようになったわけです。

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代理受領の契約がなされる場合には、通常、銀行は取引先から代理受領に関する委任状二通の提出を求めます。そして、この委任状には取引先が第三債務者に対する債権の受領に関する一切のことを銀行に委任し、委任者と受任者双方が合意しなければ委任を解除したり変更したりしないということが記載されます。これによって、代理受領は、たんに銀行が取引先に代わって債権を取り立てることを委任するという約束でないことが明らかです。このような委任状をうけた銀行は、それを第三債務者に提出し、代理受領を承諾するという趣旨の奥書をしてもらいます。したがって、代理受領を承認した第三債務者も銀行の利益を尊重すべき義務を負うことになり、銀行としては貸金債権を確実に回収できるということになります。
このような代理受領の契約によって、取引先は勝手に取立委任を解除できなくなるわけで、自分の債権でありながら自由に行使できないという約束をうけることになります。そこで取引先としては自分の債権を質にとられたり、銀行に譲渡したのと同じ結果になるのではないかという本問のような問題が出てきます。代理受領は債権の取立てを委任するもので、債権自体は取引先にあるわけですから、債権譲渡と同じではなく、質権というような強い権利を設定したものでもないとはいえますが、銀行と第三債務者に対しなんら拘束力を生じる法律関係は生じないということも妥当でないと考えられます。
ただ、代理受領の権限は、質権のように他人に優先する担保権ではなく、取引先はなお債権をもっているわけですから、その債権を他の人に譲渡質入れすることも考えられ、この場合、代理受領権者は債権の取立権を失うことになります。また取引先の債権が他の者によって差し押えられたときには、代理受領権者にはその者に優先する力は認められません。また、第三債務者は代理受額を承認しても、自己の債権者である取引先に対し主張できることはすべて代理受領権者に対して主張できます。このような点で、代理受額は債権質や債権譲渡よりも弱い力しかもたないと考えられます。そして、このような力の弱さはあるとしても、代理受領を債権質にきわめて類似した取立権のある一種の契約または債権質に準じる性質をもった債権担保を目的とする契約とみる判決もあります。
代理受領は、質権などのように他の者に優先する強い力はもたないとしても、契約をした銀行、取引先およぴそれを承認した第三債務者が、約束に反する行為をすれば、それに対する責任を負わねばならないのは当然です。したがって、直接取引先に第三債務者が債権の弁済をすることは許されないし、その他取引先が債権を他の者に譲渡質入れすることなどを含めて、契約の趣旨に反し、代理受領権者の権限を害するようなことをすれば、損害賠償の責任を負わねばなりません。

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