当座預金の支払いと免責約款

銀行との間で当座取引をしていますが、銀行から交付された小切手帳のうちから用紙一枚を何者かが盗み出し偽印を造って私名義の小切手を作成して、銀行から支払いを受けました。用紙の盗難に気づいて急いで銀行に連絡したときには、すでに支払いがなされていました。この損失は私が負担しなければならないのでしょうか。
当座勘定契約(当座取引契約)は、取引先が振り出した小切手の支払いについて、銀行を支払人として委託する準委任の契約と、その支払資金となるべき預金の受入れとその保管に関する消費寄託ないしその予約とを包括した一個の継続的な契約です。当座預金が他の一般の預金と違う点は、解約の場合以外は、小切手によらないで直接に現金の払戻しを請求できないということ、頂金の預入れ(入金)は取引先自体だけでなく、第三者も取引先のためにすることができるということの二つにあります。
それで、銀行は、資金の存するかぎり、当座預金残高、当座貸越契約をともなっている場合には貸越極度額まで、取引先がその銀行を支払人として振り出した小切手の所持人に支払いをなすべき義務を、取引先に対して負担しているのです。つまり、小切手の所持人に対しては支払いの権限を有しこそすれ、支払いの義務を負うものではないのです。また、小切手だけにかぎらず、取引先の振り出した約束手形およぴ取引先が引き受けた為替手形で、その銀行の店舗を支払場所に指定して銀行を支払担当者としたものについても、支払いの委託がなされており、同様の義務を負担しています。普通、小切手契約という言葉には、小切手の支払委託のみならず、このような手形金支払委託も含まれているのです。

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手形、小切手の偽造とは、署名を偽筆し、印章を盗用し、あるいは偽印を使用するなどして、他人の名義を偽って、振出しなどの手形行為、小切手行為をすることです。署名以外の手形記載事項、例えば金額が、権限のない者によって書き換えられ、手形上、小切手上の法律関係の内容に変更が加えられる場合は、変造といいます。
偽造が行なわれても、名義を偽られた取引先には、手形上、小切手上の責任は生じません。なぜなら、被偽造者の名称が券再上に記載されていても、彼の意思にもとづく手形行為、小切手行為は存在していないからです。このように、被偽造者たる取引先本人に手形上、小切手上の責任がないのですから、銀行としては支払いをなすべきでないこというまでもありません。それにもがかわらず、偽造であることに気づかずに銀行が支払ってしまった場合、いろいろ説がありますが、手形、小切手関係自体に関するかぎり、偽造の手形、小切手の支払いは、手形上、小切手上の有効な支払委託に応じた支払いとはいえませんから、支払銀行が損失を負担するほかなく、取引先の当座預金から差し引けないとみるのが妥当でしょう。
しかし、被偽造者と支払人との間に存する手形外、小切手外の実質関係によって、損失の負担が被偽造者に転嫁される余地が生じるのは別問題です。銀行は、当座勘定の開設にあたって取引先からそれに使用する署名鑑、印鑑の届出をさせ、手形、小切手の用紙を所定のものに限定し、その署名と印鑑の印章によって小切手行為、手形行為をすることを要求するなどして小切手用法、手形用法を限定し、それを調査して支払いを行なう方法をとることによって、偽造、変造に対処しようとしています。したがって、銀行はこのような小切手、手形でないかぎり、支払わないでも支払委託の不履行とはならず、他方、このような手形、小切手であれば、支払いをしても、たとえ偽造のものであったにせよ、有効な支払いをしたのと同様にとり扱われ、その損失は取引先の負担となり、銀行は責任を負わないとされるのです。この点については、当座勘定契約において特約されているのが通常であり、この免責約款は、多数の手形、小切手の支払いを敏速に処理しなければならない銀行業務の要請からしても無理からぬもので、公序良俗にも反さず、有効であると解されています。なお、昭和四四年四月二一日に全国銀行協会連合会(全銀協)が「当座勘定約定書ひな型」を制定し、現在では、ほとんどの銀行が、このひな型をそのまま、あるいは一部修正して採用しているものと思われます。
判例は、従来から、こうした免責の特約がなくても同様の商慣習が存在するものと認めています。
もっとも、銀行の善意(偽造の不知)に過失がある場合でも免責されるというわけでなく、銀行としてそれ相当の注意義務をつくしたのでなければ免責されないのは当然です。判例の認定する商慣習も免責約款もこのことが前提になっているのです。
また、免責約款や商慣習に拠らずとも、民法の規定から支払銀行の免責を根拠づけうる余地もあります。実質関係において支払銀行は預金払戻しの債務者であり、小切手、手形の支払いをその債務の弁済という面でとらえ、偽造の小切手、手形の所持人に対する弁済が、債権の準占有者に対する弁済に該当して有効な弁済となる場合には、銀行は免責されるという立場が考えられます。また、小切手、手形の支払いを支払委託契約(小切手契約)の履行という面でとらえ、真正な小切手、手形だけの支払いをなす委任は実際上不可能であるため、受任者が委任事務を処理するため自己の過失なくして損害を受けたときは委任者に対して賠償を請求できると規定する民法六五○条三項によって、取引先に対し求償権を取得するという考え方もあります。

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