充当通知

銀行取引約定書やこれに付属する約定書類には、弁済の場合、債務全額を消滅させるに足りないときは、貴行が適当と認められる順序方法により充当することができます。という条項が入っていますが、この特約条項(充当契約)は、弁済の充当に関する民法の規定をどの程度排除できるのでしょうか。
例えば銀行が貸付先から弁済を受領しておきながら、それをどの債務の弁済に振り当てるのかを通知せずに放っておいた場合でも、銀行が債権回収上好都合と認める充当は、そのとおりの効力を生じるのでしょうか。
弁済の充当の方法には、当事者の意思表示によって充当がなされる場合と、民法の規定によって充当順序が決められる場合とがあります。そして、当事者の意思表示による充当には、民法の規定によって充当順序の指定権を与えられた当事者のいずれか第一次に弁済者、第二次に弁済受領者の相手方当事者に対する一方的な意思表示によって充当されるケースと、当事者双方の合意によって充当されるケースとがあります。さらに、合意による充当には弁済の授受にあたって充当の合意が行なわれる場合と、本問の場合のように、弁済の授受の前にあらかじめ充当について合意が結ばれている場合(充当契約)とがあるのです。充当を合意したときは、充当の順序に民法上の制限はありません。

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一口に充当契約といっても、これには、次のような二通りのタイプが考えられます。第一は、例えば甲債権と乙債権のうち甲債権のほうから先に充当していくというように、あらかじめ具体的に約定された充当順序にしたがって機械的に充当していくというタイプです。第二は、本問の銀行取引約定書九条における充当の特約のように、弁済のつどその充当順序を弁済受領者たる債権者(銀行)側の自由裁量に一任するという形になっている場合です。
第一のタイプの充当契約の場合ですと、弁済のあったたびごとに、どのように充当するかを相手方に通知することは、特殊な事情がないかぎり必要でないかも知れません。これに対し、約定書九条のような第二のタイプでは、充当の順序そのものは、次の銀行の貸付先が充当を指定して弁済してきた場合で説明する場合を除いて、原則として銀行側が一方的に自由に決完できるのですが、銀行がどの債権に充当するのがということを、弁済した貸付先に対して、弁済受領後遅滞なく意思表示をしなければ、指定順序のいかんによっては、銀行が順序を指定したとおりに効果が生じないことがあるのではないか、というような問題があります。この点に関し、約定書九条の特約は、民法四八八条三項の適用までも除外するもので、充当の効力発生要件としての相手方に対する意思表示を要する点は排除され、弁済充当自体は銀行が指定したとおりに効力を生じ、事後報告にすざない複念通知としての充当通知をすれば足りるのだとする、銀行側に有利な学説も一部にはあります。しかし、銀行は弁済受領後ただちに貸付先に対して充当指定の意思表示をする必要がある、と解すべきです。約定書の立案者である銀行業務の専門家自体もそのように考えています。この意思表示がなされなかった場合には、特約の抗力は発動せず法定充当に移ってしまうということも考えられるのです。もっとも、不要式の意思表示ですから、銀行実務上行なわれている、受取証書や計算書の交付、充当された貸付債権に関する手形の返還などは、充当通知の意思表示とみることができます。意思表示を必要とする理由を考えると、充当契約は、契約でも本契約でなく予約なのだというとらえ方も考えられますから、この考え方でいくと、本契約にもっていく債権者の予約完結権の行使として、意思表示が必要なのだという論法が成り立つわけです。またそれより、約定書九条の解釈として、この特約は、包括的に充当を一任したものでなく、弁済の授受のつど、銀行側の一方的な意思表示によって充当順序を決定することを認めたにすぎないのだ、と理解するのが客観的かつ合理的であるという考え方もあるわけです。
貸付先が、特定の貸付債権に充当することを指定して弁済してきた場合に、銀行がこれを受け取けておきながら、勝手に別口の貸付債権の弁済として充当してしまうことは、約定書による特約があっても許されないものと解されています。銀行が貸付先の申し出た充当順序に同意できない場合には、弁済の授受にあたって銀行の思惑どおりに他の債権に充当することを貸付先に了承してもらうか、この特約条項をたてにとって弁済の受額を拒むが、の二つに一つしか方法がありません。約定書の適用があるのは、銀行と貸付先および保証人の間にかぎられますから、貸付先または保証人以外の第三者、例えば貸付先から抵当不動産を譲り受けた者や貸付先のために自分の不動産を銀行へ抵当に入れた者が弁済してきた場合には、別個に特約を結ぶか、そうでなければ充当に関する民法の規定にしたがうかの、いずれかになります。

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