弁済と手形の返還

Aを連帯保証人としてBにお金を貸し、もし期日に返済しないならば年三割の損害金をもらうという約束で、Aから貸金相当額の二通の約束手形を振り出してもらいました。ところが、期日が来てもBは返済しないので、Aに支払いを請求しましたところ、Aは手形を自分に返さなければ支払わない、また手形を返さないかぎり損害金も払わないといいます。しかし、私はBから受け取った手形のうち一通を現在持っていません。Aの主張は認められるでしょうか。
本問において、BよりA振出の手形の交付をうけたことによって、Bに対する貸金債権がどのような影響をうけるかが問題となります。もし、そのことでBの貸金債務が消滅するということになれば、手形による取立てをなし、それが不渡になった場合にはじめて連帯保証人に支払請求ができますが、反対に原因債務と手形債務とが併存することになれば、そのいずれを先に行使したらよいかという問題を生じ、それによって連体保証人に対する支払請求の方法が異なってくるからです。そのいずれかは結局当事者の意思を基にして判定されなけれぱなりませんが、
(1)抵存債務の支払いに代えて手形が授受される場合には、既存債務は消滅し、それ以外の場合、つまり手形が(2)既存債務の支払い確保のために授受ざれる場合、(3)既存債務の支払いのために授受される湯合には両者は併存します。そして債権行使の順位については、(2)の場合には、そのいずれの債権を行使するかは、債権者の自由ですが、(3)の場合には、債権者は手形債権を先に行使すべきで、手形が支払われたときは既存債権も消滅します。したがって貸金債権の連帯保証人が振り出した手形を主たる債務者が相手方に交付した本問のような場合は、明らかに貸金債権を確保する目的で手形が授受されたと考えられますから、原因債権を先に行使してもよいわけです。しかしこの場合でも債権者が手形を他に譲渡してその対価を決定的に取めているときには、原因債権は消滅しますから二通のうちBの手もとにない一通の手形が完全に支払われているとすれば、その金額だけ貸金債権は減額されます。もっとも、この場合、有償、無償にかかわらず手形の裏書譲渡によってただちに既存の債権が消滅するという説もありますが、債権者が裏書人としての償還義務を免れるまでは、その手形によって決定的に対価を得たことにはならないために、特別事情がないかぎり裏書譲渡の一時のみによっては、既存債権は当然には消滅しません。それゆえ本問の場合、手もとにない一通の手形についてこの要件が充たされていなければ、貸金債権全額と損害金を主たる債務者に対しても、また連帯保証人にも一応請求できます。

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次に問題となるのは、このように貸金等の債務支払い確保のために手形を交付した債務者は、支払請求に対して手形と引換給付の抗弁を提出できるかという点です。というのは、主たる債務者においてこれができるというならば、それとの関連で連帯保証人についても同じことがいえるからです。
この点について、判例は次の二つの考え方に立っています。(1)は、債務者は手形との引換給付を主張できないが、貸金債務を弁済したときには手形の返還を請求でき、万一返還できないときは損害の賠償を請求できるというもの、(2)は、手形と引換えにのみ貸金債務を支払うという同時履行の抗弁権を債務斜に認めるという説です。
しかし、(1)の見解によると、一般に原因債権を弁済したにもかかわらず、債務斜が手形の主たる債務斜であるときには、さらに当該手形を善意で取得した所待人から支払いを求められますと、二重に支払いをしなければならないという危険にさらされますし、またその手形の主たる支払義務斜が当該債務斜以外の者であるときには、原因債務を弁済しながら遡求権を行使できないという不利益を免れません。これに反し、(2)の説によると、この不利益から債務斜がまぬがれ、他方引換給付を命じられる債権斜も、手形を所持しているかぎり、ことさら不利益をうけることなく、そこに両当事者の利益の調和が保たれることになりますので、最高裁判所の判例はこの説を採用しています。そして学説の多数もこれを支持しております。しかし、その実定法上の根拠については見解がわかれています。当事者間の衝平の維持という一般原則に求めるものと、民法五三三条の基礎にある信義衡平の原則をあげるものとがありますが、最高裁判所昭和四○年八月二四日の判決は、「貸金の支払請求権と手形の返還請求権との関係は民法五三三条に定める対価関係に立つ双務契約上の対立した債権関係またはこれに類似する関係にあるとはいえず、債務者をして二重払の危険に陥らせる可能性を避けるためのものである」と述べ、手形の受戻証券性とその原因関係の特殊性を考えながら、前斜の理論によることを明らかにしています。
ところで、同時履行の抗弁権を有する債務者が、この抗弁権を主張して債務の履行を拒んでいる場合、特別の事情がないかぎり履行遅滞の責任を負わない、というのが、判例、通税です。したがって原囚債権の履行と手形返還との引換えの抗弁を同時履行の抗弁と同質のものと考えれば同様に考えられます。しかし、判例は、手形との引換給付の抗弁権を民法五三三条にいわゆる同時履行とは異質のものと考える立場から、債務者は弁済期後の遅延損害金の支払義務を免れないとしています。

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