受領遅滞と口頭の提供

Aからお金を借り受けるに際して、土地、建物を抵当に入れ、さらに代物弁済予約を結びました。そして、借金の返済は月々に分割し、毎月末にAが取立てにくることとし、一回でも分割弁済を怠ると期限の利益を失うという約束でした。ところが、ある月Aが取立てに来ないので、現金を用意しているから取りに来るょう通知しましたが、なんら返答がなく二ヵ月が過ぎてしまいました。このまま放っおいてもよいものなのでしょうか。
債務が完了されるために債務者の行為のみならずそれに対応した債権者の協力行為が必要な場合に、まず債務者の側でなすべきことを弁済の提供といい、弁済の提供の方法としては、債務の内容に応じて、現実の提供と口頭の提供とが区別されます。そして本問の場合のように、借金の返済が内容となっている債務では、通常債務者が現実に返済金を債権者のもとに持っていかねばなりませんが本問では特に返済期に債権者が取立に来るという約束がなされています。このような取立債務は、民法四九三条但書の債務の履行につき債権者の行為を要する債務に当たり、債務を履行するためにはまず債権者の方が取立てに来る義務を負っておりますので、たとえ返済期が到来しいも債務者は自ら返済金を持って債権者に届けることまでする必要はありません。弁済の準備をなしたることを通知してその受領を催告すれば、債務者は不履行責任を負わないということになります。

スポンサーリンク

お金を借りる!

本問の場合、一回でも分割弁済を怠ると期限の利益を失うという約束がなされておりますが、この約束は、本来であれば借金全額を一度に返済する必要はなく、月々に分割して支払えばよいわけですが、一回分でも支払いを怠ると、このような期間を猶予するという利益が認められなくなり、債務者は残金全部を一時に支払わねばならぬという趣旨の約束です。特に抵当に入れた土地、建物について代物弁済予約がなされていますから、債務者が一回でも支払いを怠って期限の利益を失い、残金を一時に返済することができないとなれば、この代物弁済の約束によって土地、建物を取りあげられるという結果にもなりかねません。そこで、Aが貸金の取立に行くのを忘れ、あるいはわざと取立てに行かないでおいて、ひと月あるいはふた月分の返済金が支払われていないから債務者は期限の利益を失ったと主張してきた場合、債務者はそれに対して文句がいえないかという問題が出てきます。
債務者が弁済の提供をしたにもかかわらず、債権者が協力しない場合には、債権者の方が受領遅滞の責任を負わねばなりません。したがって本問の場合、債務者である当事者がAに返済金を取りに来るよう請求したにもかかわらず、Aが取りに来ないのであれば、少なくともその月の返済金について債務者はなんら責任を負わないことになります。しかし、次の月の返済金も取りに来ないとき、債務者はそのまま放っておいてよいかということですが、これは放っておいてよいといえます。最高裁判所は、債権者に弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、債務者は言語上の提供をしなくとも債務不履行の責を免れると解しておりますが、木問では債務者が請求したにもかがわらず債権者が先月分から取立てに来ていないのですから、弁済を受領しない意思が明確と考えることができ、また別の角度から判断すると、債権者は一度受領遅滞に陥っていながら、自己のこのような責任を放っておいて、債務者が二ヵ月分の返済を怠ったという理由で期限利益の喪失を主張するのは不当であると判断されるからです。しがし、念のため次のことを注意しておく必要があります。それは、最高裁判所は、債権者に弁済を受領しない意思が明確であると認められる場合には、債務者はあらためて口頭の提供をすることも必要でないといっていますが、学説および同じ最高裁判決の判例で、反対する趣旨の見解もみられるからです。つまり、債権者の受領拒絶の意思が明確であっても、あらためて債務者が弁済の提供をすることによって意思を変えるということもあるため、特別の事情がないかぎり口頭の提供は必要であるというわけです。この反対説を考えるときには、本問の場合、もう一度口頭の提供をしておく方がより安全だということになります。

お金を借りる!

債権の保全と管理/ 無資力の算定方法/ 一部の債権者への弁済と担保設定/ 新たな物的担保の供与/ 更生のための財産処分/ 取立委任と債権譲渡/ 物的担保付き債権と債権者取消権/ 連帯保証における債権者取消し/ 取消債権と詐害行為/ 債権額と取消しの範囲/ 取消債権者の引渡し/ 転得者に対する請求/ 取戻した金銭の配分/ 債権者代位権の機能/ 債権者代位による相殺/ 債権回収の順序/ 督促(債務履行の催告)/ 支払いの猶予/ 取立ての適法性/ 弁済の提供/ 受領遅滞と口頭の提供/ 弁済と借用証書/ 弁済と受取証書/ 弁済と手形の返還/ 弁済の充当/ 充当通知/ 当座預金の支払いと免責約款/ 代理受領の法律/ 抵当権と代物弁済予約の併用/ 代物弁済の完成時期と受渡し/ 予約完結と目的物の帰属と清算/ 供託/ 供託物の受領/ 供託物の取戻し/ 第三者弁済と弁済者代位/ 一部代位/ 保証人の代位弁済/ 手形債務の代位弁済/ 代位弁済の制限特約/ 差引計算と種類/ 相殺と各種の整理手続/ 差押と期限利益喪失での相殺/ 事前求償権による相殺/ 時効完成後の相殺/ 相殺と利息計算/ 手形債権による相殺/