債権者代位権の機能

無資力な債務者が、第三者に対して債権を有するにかかわらず、これを取り立ないときは、債権者は、債務者に代わって、第三者よりこれを取り立てて債務者の財産に加えることができます。この債権者の権利を、債権者代位権といいます。この制度は、本来債権者の債務者に対する金銭債権保全の目的で認められたものですが、判例は、この本来の目的を修正拡張して、金銭債権以外の特定債権、例えば登記請求権や不動産賃借権の保全請求にも、代位を認め、むしろこの分野での活用が盛んなようです。債権者代位権が、本来の目的たる金銭債権の保全に利用されない理由として、強制執行制度が不備なフランスにおいて実益のあるこの制度も、日本民事訴訟法では、ドイツ法にならい、強制執行手続が比較的完備しているので、実益が少ないからといわれています。例えば債務者が、第三者に対して、金銭債権や動産、不動産の引渡請求権を有する場合、債権者は、民事訴訟法五九四条以下に従って、差押命令し取立命令、転付命令により、あるいは動産、不動産請求権に対する差押え等によって、強制執行をすればよく、あえて代位権を行使する必要はないからです。特に金銭債権を差し押えた債権者は、それが一定の要件を備えるときには、転付命令によって、優先的弁済を受けうるという魅力もあります。しかも、債務者の資力に不安があれば、債権仮差押命令を得て、金銭債権を迅速に保全する手段もあります。
このようなところから、代位権が金銭債権保全のための機能を営むことが少ないといわれるのですが、しかし、次に述べるような領域での機能は、決して少ないとはいえず、実務的には、代位権の守備範囲の狭小化なる既成観念を打破して、一層の活用を考えねばなりません。
債務者の有する動産、不動産の引渡請求権、登記請求権などについて保全の必要があれば、代位によって、仮処分手続をし、しかる後、強制執行をしなけれぱならず、強制執行は、取消権、解除権などの形成権に対してなすことはできませんが、これらの形成権も、代位によってなら行使することができます。さらに、債務者の権利に対する保存行為については、強制執行の適用の余地はなく、代位によらなければ、その目的を達することはできません。

スポンサーリンク

お金を借りる!

債権者代位権は、債務者の一身に専属する権利や、差押えが許されない権利を除き、次のようなものが、その目的となります。
保存行為 債務者の権利が時効消滅しょうとしている際の時効の中断、債務者が放置している未登記権利の登記などの保存行為は、債権の履行期が未到来でも、裁判所の許可なしに、いつでも可能です。これは、債務者の財産の現状を推持する行為だからです。なお民法四二三条は、債務者に属する権利を代位しうると規定しますが、必ずしも厳格な意味での権利でなく、債権保全の目的に通じればよいとされています。
請求権 代金請求権や損害賠償請求権等の純然たる債権はもとよりのこと、登記請求権も代位行使できます。例えば登記義務者は協力を申し出ているのに、登記権利者たる債務者が所在不明等の場合、債権者は、債務者に代位して登記できます。登記申請書には、代位原因として、たとえば○年○月○日付消費貸借契約による貸金債権と記載し、契約証書を添付します。その他、差押えの準備として、債務者の未登記不動産の保存登記を代位して行なうのは、よくみられる例です。
形成権 無能力または詐欺、強迫による取消権、無権代理行為の追認権、取消権、詐害行為取消権、契約解除権、相殺権なども代位行使できます。例えば債務者が、一番抵当権者に対して、無担保の相殺適状の債権を有しながら、相殺しない間に、一番抵当権者が、自己の債権を他へ譲渡したような場合、二番抵当権者は、債務者に代位してその譲受人に対して相殺することができます。この相殺の代位行使によって一番抵当権は消滅し、二番抵当権はその順位をあげることとなります。また債務者の相手方に債務不履行があれば、解除権を代位行使し、損害があれば、その賠償請求もでき、代位権の代位行使も可能です。
物権 抵当権の代位行使も可能です。しかし、裁判所は、この申立受付に消極的なところが多く、利用されていないようです。
訴訟行為 債権者は、債務者の相手方が任意に履行しない場合、債務者に代位して訴訟を提起し、強制執行を申し立て、請求異議の訴え、第三者異議の訴えを提起し、また仮処分取消しの申立てをすることができます。強制執行の代位申立ては、債権者において、債務者の相手方に対する債務名義の取得が困難なためか、実例をほとんど聞きません。
債権者代位権を行使するには、債権者の債権が、履行期にあることを要しますが、例外として、履行期前でも、裁判所の許可を得て代位権を行使することができます。しかし、これは、実務上ほとんど利用されていないようです。
債務者に対する債務名義の取得に時間を要し、その間に債務者の第三債務者に対する権利が時効消滅することがあります。例えば債権仮差押えをしても、第三債務者に対する時効中断の効力はないので、債権者は、債務者に対する訴訟とともに、必要とあれば、代位により、第三債務者に対し、訴訟の提起その他の時効中断手続をとらねぱならぬことに注意が必要です。
代位権を行使して相手方から物の引渡しを求める場合、債権者は、債務者に対して引き渡すことを求めうるのはもちろんですが、直接自己への引渡しを請求できます。しかし、登記の移転を請求する場合は債務者の名義に移転すべきことを請求しうるにとどまります。この場合は、債務者へ移転することによって、債権保全の目的は達せられるからです。

お金を借りる!

債権の保全と管理/ 無資力の算定方法/ 一部の債権者への弁済と担保設定/ 新たな物的担保の供与/ 更生のための財産処分/ 取立委任と債権譲渡/ 物的担保付き債権と債権者取消権/ 連帯保証における債権者取消し/ 取消債権と詐害行為/ 債権額と取消しの範囲/ 取消債権者の引渡し/ 転得者に対する請求/ 取戻した金銭の配分/ 債権者代位権の機能/ 債権者代位による相殺/ 債権回収の順序/ 督促(債務履行の催告)/ 支払いの猶予/ 取立ての適法性/ 弁済の提供/ 受領遅滞と口頭の提供/ 弁済と借用証書/ 弁済と受取証書/ 弁済と手形の返還/ 弁済の充当/ 充当通知/ 当座預金の支払いと免責約款/ 代理受領の法律/ 抵当権と代物弁済予約の併用/ 代物弁済の完成時期と受渡し/ 予約完結と目的物の帰属と清算/ 供託/ 供託物の受領/ 供託物の取戻し/ 第三者弁済と弁済者代位/ 一部代位/ 保証人の代位弁済/ 手形債務の代位弁済/ 代位弁済の制限特約/ 差引計算と種類/ 相殺と各種の整理手続/ 差押と期限利益喪失での相殺/ 事前求償権による相殺/ 時効完成後の相殺/ 相殺と利息計算/ 手形債権による相殺/