取消債権と詐害行為

Aに対し、今年の二月未に20万円、四月早々に30万円、六月に10万円を貸しましたが、知人ということもあり金額も大したものではなかったので、信用貸しで済ませました。ところが、Aは倒産のあおりを食って、そのころから財産状態がかなり悪化していたようです。貸倒れは困るので、回収を保全するため調べると、Aは今年の三月にBから借金し、その担保として家を抵当に入れています。登記簿を確認すると、実際の登記手続は四月下旬になっていますが、この抵当権設定を詐害行為として裁判所で取り消すことはできるでしょうか。
先行必要説に関して、学説は、客観的事実として、行為が債権を詐害するといいうるためにも、また主観的事実として許害意思があるといいうるためにも、客体として取消債権が先行しなければならないことや、債権者は債権発生当時における債務者の財産状況を信用することなどを論拠にあげています。
判例は、古くから、今日の最高裁の判例に至るまで、同じ見解を示していますが、同旨の判例では、例えば手形書換えについて、更改説、代物弁済説をとりますと、それは新手形債権を生ぜしめたことになりますが、書換えを支払期日の延期とみて、手形振出後、書換え前になされた行為もこれを許害行為と解するもの、許害行為が問題になる法律行為が代金債権の発生後になされた場合でも、その債権が準消費貸借上の債権に改められると、行為は債権発生前になされたことになるので詐害行為にならないとするもの、取消手形債権の債務者が、自己所有の建物を第三者に贈与したことが、許害行為になるには、手形債権の発生が先行しなければならず、いまだ発生しない債権が詐害の目的となるべき理はなく、そこに許害の認識のあろうはずもないという判例があります。
特に、問題があるのは、物権変動に関し登記がなされる場合で、抵当権の設定が債権発生前になされたが登記の方は債権発生後になされた場合も、代物弁済の予約が債権発生前になされ、予約にもとづく仮登記が債権発生後になされた場合も、登記はいずれも発生後になされていますが、詐害行為にならぬと理解されています。
次に、先行不要説に関し、学説は、詐害行為取消権は、弁済手続に入った執行財団の減少を防ぐために認められたものであること、取消権は破産法上の否認権と同じであること、詐害行為後の債権者も、取戻財産について強制執行がなされる場合、配当に加入できることを、その根拠にあげています。

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折衷説は、原則として先行説をとりながら、例外的な場合に先行不要説をとるものですが、その具体例を紹介すると、租税債務者が、租税債権の発生する前、つまり当該事業年度終了の日以前に、債権を譲渡したとしても、その譲渡が少なくとも事業年度の開始後に行なわれた場合は、譲渡当時すでに、租税債権発生の基礎が存し、かつ将来租税債権の発生する蓄然性が高いという理由で、この債権譲渡を詐害行為と解するもの、損害賠償の予定がなされ、損害賠償請求権の発生する可能性が強いときには、その請求権の発生前であっても、損害賠償債務予定者のなした贈与を許害行為と解するものがあり、その他、債務者がその財産をすべて妻名義に書き換え、これを隠ぺいして債務を負担する場合にみられるように、債務者の詐害意思と債権の成立との間に牽連関係のある場合には、債権発生前の妻への名義書換行為も許害行為になるとされています。
なお、判例では、債権の発生が詐害行為前であるかぎり、その債権の譲受人は、特別承継人として譲渡人の権利を承継するので、許害行為取消権も当然譲受人に移転するとされていますし、また、詐害の時期が、債権発生後であれば、債権の譲渡が対抗要件を備える前であっても、のちに対抗要件を備えることにより、債権譲受人は問題の行為を詐害行為として取り消すことができるとされています。
先行必要説にしたがい、本問を検討すると、第一の二月末に貸与された20万円の債権については、その債権は、貸付および抵当権設定以前に生じたものですから、貸付はもとより問題の抵当権設定は、これを許害行為として取り消すことができることは当然ですが、第二の四月早々貸与された30万円の債権については、貸付および抵当権の設定が先行し、登記だけが債権発生後になされたにすぎませんので、抵当権設定は詐害行為とはならないのです。第三の六月に貸与した10万円の債権については、もちろん、貸付およぴ抵当権設定は債権発生前になされたのですから、抵当権設定は詐害行為とならず、取消しを求めることはできません。
最後に、第一の場合のように、取消しを求めることができる場合に、抵当権設定登記の抹消を訴求できる者が誰であるかについて触れておくと、不動産登記法によると、抹消請求をなしうる者は、直接の利益者ということになりますので、訴訟上の請求権者は取消債権者です。登記手続は連続しているという建前からすれば、取消債務者になりかねませんが、取消しがなされた場合、取消債務者は、自ら抹消請求権を有しませんし、取消債権者が判決で得たところの登記申請権を有することになるわけでもないからです。

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