物的担保付き債権と債権者取消権

Aに対し、時価約300万円の家を抵当にとって年末までの約束で150万円融通しましたが、同人は、商売がうまくいがず債務超過となったため、在庫商品や動産類をBに一括売却してしまいました。わたくしに対する借金の利息もとどこおって現在すでに20万円余になっており、また人が住んでいる家は時価で売れないとも聞いているので、この際、将来の回収にそなえて、売った品物をとりあえずAのところまで取戻しておきたいのですが、裁判を起こして勝てるでしょうか。
債権の元本額は150 万円で、とどこおった利息が20万円余ですから、債権の総額は170万円余ということになりますが、その全額がこの抵当権で担保されるとはかぎりません。民法上、抵当権で担保される利息は、抵当権が実行されるときからさかのぼって過去二年分だけに制限されているからです。この場合、一応、20万円余の利息はこの意味での二年分に含まれ、この抵当権によって担保されるものとしておきましょう。
次に、抵当家屋を競売した場合、いくらぐらいの代金(売得金)が得られるでしょうか。人が住んでいる家は、その人が誰であるか、いつから住んでいるか、などによって事情が違ってきます。
もしA自身が住んでいるとすると、Aの所有権は競落人には対抗しえなくなり明け渡さなければなりません。A以外の人(借家人)が住んでいる場合には、その賃貸借契約が、抵当権設定よりも前に結ばれた場合は、借家人はその賃借権を、抵当権者、また競落人に対抗することができますから、競落人は人の住んでいる家としてしか買うことができないことになります。賃貸借契約が抵当権設定より後に結ばれた場合には、その存続期間が三年を越えるものであれば、競落人に対抗できません。期間の定めのないものであれば、競落人の明渡請求に、正当の事由があるかないかの問題になりますが、競落されたという事実が競落人に有利なファクターとして考慮されます。存続期間が三年以内のものであれば、その賃借権は競落人に対抗できますが、その結果競落代価が低下して債権を満足させるのに足りなくなったときは、その解除の請求ができます。

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このことを前提として、抵当家屋の競落代価を予想してみましょう。
まず競売の場合の価格は時価よりもかなり低く、よくて時価の五割か六割、悪くすると三、四割にしかならないといわれています。その建物に現に人が住んでいるときには、A自身が住んでいる場合や居住者の賃借権が競落人に対抗できない場合でも、出ないといって頑張られると面倒ですから、空家の場合より安くなります。競落人が明渡請求をしたときにこれが認められるかどうか、あるいは話合いで明け渡してもらうときにはどのような条件になることが予想されるか、は場合によって違うため一概にいえませんが、その程度に応じて競落代価にひびきます。また、競落人に対抗しうる短期賃貸借がある場合に、競落代価が安くなることは当然です。これらの場合に、家の価格が実際にどれくらい落ちるかということは、具体的な場合によって違うために、正確なことは、信用できる不動産鑑定士に相談しましょう。
たとえ債務者の資産状態が悪化して、債務超過の状態を生じても、抵当権、質権などの物的担保つきの債権は、その担保物の価格(担保価値)が被担保債権額をこえているかぎり、害されることはないために、かかる債権にもとづく詐害行為取消しは認められません。また、債務者がその担保権の目的物を第三者に売ったとしても、その担保権が対抗要件をそなえているかぎり、担保権者は担保権を実行して満足を受けられるため、疎外行為にならず、債権者はこれを取り消すことはできません。同じような意味で、甲が乙のためにその所有土地に抵当権を設定し登記した後にこれを抹消したが、この抹消登記は無効で設定登記が回復されなければならない場合に、甲がこの土地を他のものに売っても詐害行為にならない、とした下級審判決があります。ただし、担保権が対抗要件をそなえていない場合は、取消権の行使が許されます。
最善の場合、つまり抵当権の実行によって債権の満足がえられる場合には、許害行為取消権を行使できないことになります。
以上のことと逆に担保目的物の価格が被担保債権額に足りない場合は、物的担保つきの債権者も詐害行為取消権を行使できますが、そのときも、担保物の価格が債権額に足りないその不足預の限度においてのみ取消権の行使が認められます。例えば、本問の場合、抵当にとってある家が100万円にしか売れない場合にだけ、不足する70万円余の限度において取消権を行使できることになります。ただし、このような場合でも、抵当不動産を第三者から取り戻すことは、なんらAの資力を増加させませんから、許されないことになります。

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