取立委任と債権譲渡

A会社から当信用金庫に融資の依頼があり、調べてみると業績不振で債務超過らしく思われました。そこでAが県に対して物品を納入した代金債権の取立てを当金庫に委任させることにして貸付ましたが、いわゆる取立委任では手続が実際上面倒なため、改めて貸金の範囲で債権を譲渡させることにしました。ところが、Aに対する他の債権者たちが詐害行為だと文句をいってきていますが、そうなのでしょうか。
訴訟上、債権d者に詐害行為取消権が認められるには、債務者によって債権者を害する行為がなされなければなりません。その詐害とは、法律行為当時に、債務者の資力が不十分で、債務者の行為により、一般債権者の共同担保が減少し、少なくとも債務者が債務超過の状態におちいることです。もっとも、その状態は、口頭弁論終結時にもみられる必要がありますが、破産法上の否認権を行使することのできる支払不能、支払停止の状態にまでなっている必要はありません。なお、このような債務超過は、当該債務者についてのみ認められたらそれでよく、他の共同債務者中に資力を有する者がいても差し支えありません。
ところで、債務超過は、債務者の財産のうち、所持している土地、建物、株券などの積極財産が減少したため生じた場合ばかりでなく、借金をするなど消極財産が増加することによって生じた場合でもかまいません。いずれにしても、債務超過になっているかどうかを、金銭上の計算を重要視して算定する立場と、実質的に判断する立場とがあります。

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債務者が第三者に対して有する債権も、もとより債務者の一財産として共同担保となることには変わりありませんが、その譲渡が許害行為となるかは、一般の場合と特殊の場合とに分けて考えることができます。一般の場合には、例えば債権譲渡が対価をえずに無償でなされるとか、有償でも不相当な対価でなされる場合は許害行為となり、したがって、債権譲渡が相当の対価をえてなされる場合は許害行為となりません。しかし、そのように相当対価でなされる場合でも、債務者が一部の債権者と共謀して他の債権者を害するため故意に譲渡した場合は、実質的に判断し、許害行為を認める見解があります。
次に、代物弁済のため債権譲渡がなされた場合の例をあげると、取消債務者が第三者に対し約88万円の債務を負っている場合に、その者が第三者に対し約120万円の債権を譲渡した場合、あるいは、第三者に対する債務の履行期がまだ到来していないのに、その履行のため譲渡した場合、また唯一の資産である債権の取立てを数名の債権者に委任しながら、他方特定の債権者に対し、弁済のため債権譲渡をする場合は、いずれも許害行為になると解されています。
しかし、取消債権の発生前に、第三者に対する債務の履行期がきており、その履行のため債権譲渡をした場合に、譲渡された債権の額と代物弁済により消滅した債権の額が同じであるか否かにかかわらず、共同担保を害したとして詐害行為を認めるものもないわけではありません。
次は、債権譲渡を特に他の事情と結 ぴつけて評価する場合ですが、例えば請負人が注文者に対して有する現在および将来の債権を、自分の保証人に移転した場合、請負義務も同時に移転したので、請負人の財産に増減がないとみて詐害行為にならないとするものや、債務者が銀行から貸付をうけるため、唯一の資産である国に対する債権の取立てをその銀行に委任したが、手続が面倒なので、取立委任をやめて、その債権を譲渡したという場合にも債権譲渡を許害行為とするものがあります。
しかし、後者の場合、債務者は、貸付をうけ、それによって、共同担保の減少を防ぐことができるので、債権譲渡を、貸付や取立委任と切り離すことなく、一体化して評価し、詐害行為にならないというように解する見解があります。この見解は、いうまでもなく、債務者に自力更生の余地を与えるもので、そのような有機的解釈ができるが否かは、譲受債権により取り立てた金員を貸金債権に充当せしめうる特約があるかどうかにかかわるようです。
したがって、本問でも、信用金庫とA会社との間に、A会社が県に対して有する債権を信用金庫が取り立て、その金員を貸金債権に充当する旨の特約がある場合には、債権譲渡は許害行為にならないというように解すべきです。一般には、債権譲渡が取り消されると、譲渡人から譲受人に譲渡されていた債権は、譲渡人つまり取消債務者に戻ると解されています。その結果、取消債権者は、債務名義にもとづき、返戻債権に対し強制執行を加え、満足を得ることになりますが、もとより、その債権は、総債権者の共同担保をなすために、他の債権者も配当加入を申し立てることができるのです。しかしながら、この見解に対しては、取消しの効果は、債権者、受益者の間で相対的に生じるにすぎないとして、債権譲渡の取消しの場合を二つの場合、つまり、債権の取立ての済んでいる場合と済んでいない場合とに分けて検討しょうとする見解もあります。
このような構成の狙いどころは、特に前者の場合に、取消債権者は、取消しのみでは目的を遂げることはできず、また譲受人から、譲受債権の債務者に取立金を返還させ、原状回復をはかることも妥当とはいえないために、取消債権者に対する取立金の引渡しを実現させようとするところにあるように思われます。

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