新たな物的担保の供与

Aは、債権者に対する借金が完済できないような状態に追い込まれましたが、債権者には返済資金を工面するからという理由で、土地を売渡担保に入れるとともに代物弁済予約もつけて、金融機関Bから短期の融資を受けたようです。しかし実際にはまだ返済していないために、担保を取り戻しておきたいのですが可能なのでしょうか。そしてもし取戻しの訴えを起こした後にBが担保を流したら回収はどうなるのでしょうか。
譲渡担保というのは、債権を担保するために、債務者または第三者の財産権、特に所有権を債権者に移転し、約束の弁済期に弁済すれば返してもらえますが、もし弁済しなければその財産権は確定的に債権者のものになってしまうというものです。
代物弁済予約というのは、ある債権について、弁済期に弁済がなされなければ、債権者は、本来の債務の目的物の代わりに債務者の特定の財産を受け取って、債務を消滅させることができるという約束(代物弁済の予約)をしておくことで、多くの場合は、抵当権の設定と同時にその目的物についてなされ、抵当権の本来の実行方法である競売によらずに、目的物の所有権を抵当権者に移してしまう手段として用いられています。
以上の二つは、いずれも民法その他の法律が正面からは認めていませんが、債権担保の方法として実際上きわめて広く行なわれています。それでは、これらの方法と普通の抵当権による担保とでは、どのような点が違うのでしょうか。
普通の抵当権の場合は、期限に弁済がなされないときは、目的物を競売してその代価から優先弁済を受けるのに対して、譲渡担保と代物弁済予約の場合には、目的物の所有権がそのまま債権者のものになってしまうと考えられることです。もっとも、最近では、この点について、以上とは違った考え方が強くなってきています。

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お金を借りる!

本問のAのように、債務超過の状態にある債務者が、新たに担保権を設定してお金を借りることは、その目的が正当であれば詐害行為にならない、とするのが判例の態度です。
つまり、債務者が、既存債務の弁済資金を得るために、担保としてその所有不動産に抵当権を設定したり、あるいは譲渡担保を設定した場合、債務者が事業経営のための資金取得の手段として譲渡担保を設定した場合など、それが資金取得のためにやむをえないものであるか、適当な手段であるかぎり、詐害行為にはならない、としています。
さらに、ほかに資力のない債務者が、生計費および子女の大学進学に必要な費用を借りるために、その所有する唯一の財産である家財衣料などを譲渡担保に供した場合には、担保物の価格が借入額を超過したり、借財がこのような目的以外の不必要な目的のためのものであるなどというような特別の事情のないかぎり、この担保供与行為は詐害行為にならない、とした最高裁判決があります。
以上のように、債務超過状態にある債務者が、その財産を担保に供してお金を借りることは、それが、債務の弁済か、債務者の事業ないし生活のための不可欠な資金を得るための、唯一の、あるいは適当な方法であるかぎり、許害行為にならない、とするのが判例の態度だといえます。
以上のところでは、抵当権と譲渡担保、代物弁済予約との相違点は、あまり問題にしていませんが、譲渡担保、代物弁済予約の特殊性は次の点に現われてきます。つまり、これらの担保において、債権者が担保目的物の所有権を完全に取得してしまって、その価格が債権額をオーバーしても差額を債務者に返さなくともよい、という特約がある場合には、担保目的物の価格と債権額とのつりあいが問題となります。目的物の価格が債権額より高い場合には、債務者が所有物を安く売ったり、目的物の価格より低い債権の代物弁済に提供したりした場合と同様に、許害行為になると考えられるからです。ですから、ここにあげた最高裁判例でも、担保物の価格が借入額を超過しないことが、詐害行為にならないための一つの要件とされていますし、甲に対して270余万円の債務を負っている乙が、唯一の財産である200万円相当の不動産について、丙に対する元本130万円の債務の担保として、流質型の譲渡担保を設定することは、甲に対して許害行為になる、とした判例もあります。
しかし、譲渡担保については、大審院が流質型を原則だとしたにもかかわらず、むしろ清算型を原則とし、流質型は容易には認めるべきでない、とする傾向が学説、判例において有力で、代物弁済予約についても、目的物の価格と債権額とがつりあっていないときは債権者は清算する義務があると解する最高裁判決が出ました。このような傾向が進んで、譲渡担保代物弁済予約でも清算義務が必ずあるものとされるようになれば、抵当権と変わらないことになり、このような問題はなくなるでしょう。
抵当権の設定が詐害行為として取り消される場合に、抵当不動産がすでに競売されたときは、受益者である抵当権者は受け取った優先弁済金を債務者に返還すべきだとした判決があります。譲渡担保や代物弁済予約についても同じように考えることができるでしょう。しかし、目的物自体を取り戻すためには、訴訟を起こす前あるいは訴訟とともに、目的物について処分禁止の仮処分をとっておく必要があります。

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