無資力の算定方法

債権者が詐害行為取消権や債権者代位権によって自分の債権を保全するには、債務者の無資力が不可欠の要件だとされていますが、基準となる時期なども含め具体的にはどのように計算するのでしょうか。
債権者代位権や詐害行為取消権は、責任財産を保全するための制度であるといわれているため、これらの制度について理解するためには、責任財産という言葉の意味を理解しておかなければなりません。貸した金の返済の期限がきても債務者が弁済をしない場合、特別の担保がとってあればそれによって貸金を取り立てることができますが、そうでないときには、債務者の一般財産に対して強制執行をかけて、その競売代金から貸金額の弁済を受けるほかありません。強制執行をするためには債務名義が必要です。金銭債権のための強制執行は、法律がとくに差押えを禁じているものを除いた債務者の総財産を差し押え、これを競売して得られた代金(売得金)から債権者の債権額が支払われるという方法をとります。債務者の総財産というのは、債務者所有の動産、不動産のすべてだけでなく債権その他の財産権一切を含みます。もちろん、差押えができるのは、債務名義にかかげられている債権と強制執行の費用とにあてるのに必要な範囲にかぎられますが、とにかく、債務者のすべての財産がこのような強制執行の目的物になりうる可能性をもっています。このような強制執行の場合に、例えば抵当権を持っている債権者は、自分の債権について、その抵当権の目的物の代価から優先的に弁済を受ける権利をもっているため、その部分は、他の債権者にはあてにすることができないことになります。債務者の総財産から、差押えを禁じられたものとこのような特別な担保権の目的物になっているものとを除いた残りを、債務者の一般財産といい、またその債務者の負う債務の引当になっているという意味で責任財産といいます。

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債務者の一般財産は、その債務者の負っている債務の引当になっているわけですが、それは、その債務者に対するすべての債権についていえることです。特別な担保権がついていないかぎり、ある債務者に対する全債権者は、全く平等な立場で債務者の一般財産を引当にしています。ですから、一人の債権者が債務者の財産に強制執行をかけた場合に、他の債権者がその売得金から自分にも配当してくれと申し出てくれば、強制執行をした債権者も配当に加入してきた債権者も全く平等な立場で、それぞれの債権額に応じて配当を受けることになります。責任財産は、この意味で全債権者にとっての責任財産です。
以上のように、債務者の一般財産は、特別の担保を持たない全債権者にとって最後の引当になるものですから、お金を貸す場合には、当然、債務者の財産状態を十分に調べたうえで大丈夫という見極めがついてから貸すはずです。しかし、債権者としては、その後で債務者が他の人から借金をしたために、自分と平等の立場で配当を受けとる権利を持つ債権者がふえるのを防ぐことはできません。また、いかに債権の引当になゥているからといっても、債務者の財産の主体はやはり債務者なのですから、債務者が自分の自由な意思によってそれの管理、運営をするのに債権者が干渉することは、本来許されないことです。例えば債務者が大きな家を持っているので安心してお金を貸したところが、彼がその家を売ってしまったり、沢山あった預金を贅沢な生活に使ってしまったりしても、債権者は、手出し、口出しはできないのが原則です。
ですから、債務者の一般財産全部の価格がその負担している総債権を満足させるのに足りなくなる場合、いわゆる債務超過は決して少なくありません。そうなったからといっても、債務者の営業が順調に発展しており、その取益からの弁済が十分に期待できる間は問題はありませんが、それが危くなってくると、債務者の一般財産の状態がどうであるかは、総債権者にとってきわめて切実な、その利害に直接ひびく問題になってきますから、それをどうしようが債務者の自由だといって済ますことはできなくなります。債務者の一般財産を充実させあるいはその減少を防ぐこと、すなわち責任材産を保全するための法的な手段を債権者に認めることが必要になります。この手段が、債権者代位権と許害行為取消権です。
ことに、債務者が倒産してしまうか、あるいは倒産しそうになった場合には、いわゆる早い者勝ちで、いち早くかけつけて債務者所有の物を自力で持ち去ってしまった者が得をしたり、債務者が一部の債権者と結託して品物を渡してしまったり、財産を他人に売ったりやったりした形にして名義を変えてしまうなどして、債務者の財産をあてにしていた債権者が結局ほとんど弁済を受けられないことになってしまうようなことになりがちです。このようなおそれがあるときには、債権者としては、債務者の財産を仮差押えしたり、処分禁止の仮処分をとったりして、ある程度事前に防ぐことができますが、このようなことが行なわれてしまってからの手段の一つとして、許害行為取消権が用いられるのです。
次に、債権者代位権と詐害行為取消権とはどのような権利かでは、例えば、債務者が第三者に対して不法行為にもとづく損害賠償請求権をもっているのに、自らこれを行使しないために債務者の責任財産が不足する結果になっている場合に、債権者が債務者に代わってその請求権を行使できる、というのが債権者代位権です。債権者が債務者に代わって行使できる権利は、親権、扶養請求権や人格権の侵害による慰謝料請求権などの一身専属的な権利、または差押えの許されない権利を除いた財産的価値のあるすべての権利です。取消権、契約解除権のような形成権でもよいとされています。代位権を行使できるのは、債権保全のために必要がある場合にかぎります。債権保全の必要とは、債務者がその権利を行使して責任財産を増加、充実させないと総債権者の債権を満足させるに足りないこと、いいかえれば債務者が無資力であることだとされています。この場合、債権者代位権は強制執行をかける準備として債務者の責任財産を売実させる手段という役目をもっています。したがって、代位権行使の結果は、代位権を行使した債権者だけでなく、総債権者のために生じるのが原則です。しかし、判例は、不動産の賃借人が、賃貸人が第三者に対してもつ妨害排除請求権を代位行使するとか、土地が甲から乙そして丙と売られたがまだ登記名義が甲に残っている場合に、丙が、乙に対してもっている登記請求権にもとづいて、乙が甲に対してもっている登記請求権を代位行使するとかいうように、特定の債権を保全する必要がある場合にも債権者代位権の行使を認めており、しかもその場合には、債権の目的が債務者の資力と関係がないから、債務者の無資力という要件は不要である、としています。学説も、反対説はありますが、判例を支持するのが多数です。
例えば、債務者甲が負担している総債務額が1000万円あり、彼の一般財産が総額1000万円ある場合に、それに含まれている時価300万捐の家屋を甲が乙に贈与したとすると、債務超過の状態を生じ、各債権者はその債権の完全な満足を得ることができなくなります。このような場合に、甲と乙(受益者)の双方乙からさらに丙(転得者)に譲渡された場合には丙も、その行為が債権者を害するということを知っていること(悪意)を要件として、債権者は、甲乙間、乙再間の法律行為を取り消して、逸出した財産を甲の一般財産に取り戻すべきことを裁判所に請求できます。これが許害行為取消権とよばれる権利です。詐害行為の取消しは、債権者代位権にもとづく債務者の権利の行使と違って、債務者と第三者との間になされた法律行為を取り消すという強い効果をもち、第三者にも大きな影響を及ぼすものですから、その要件は債権者代位権より厳格に解され、債務者の無資力が不可欠の要件だとされます。取消権を行使する債権者の債権は特定物債権でもよいとはされていますが、その場合も債務者の無資力が必要です。また、取消しの効果が総債権者の利益のために生じることも明文で規定されています。
以上のように、詐害行為取消権の場合は必ず、また債権者代位権の場合は原則として、債務者が無資力であることを、権利行使のための要件としています。この要件は、実際上、詐害行為取消権について問題とされているのがほとんどですから、ここでも、もっぱらそれについて説明します。
債務者の無資力とは、債務者の消極財産の総額がその積極財産の総額をこえること、つまり、いわゆる債務超過を意味します。債務者が支払不能となったことや支払停止をすることは必要ではありません。この債務者の資力を算定する場合には、
(1)債務者の信用、暖簾なども評価して積極財産に加えるのが通説です。
(2)条件付、期限付債権については議論がありますが、判例は相当に評価して積極財産に加えるぺきだとしており、学説も一般にこれを支持しています。
(3)債務者の財産の上に物上担保権をもち優先弁済が確保されている債権があるときは、その債務額を消極財産から控除するとともに、債務額の範囲においてその財産を積極財産から控除します。債権者が、第三者(物上保証人)の財産の上に物的担保を有する場合には、この担保を考慮に入れる必要はありません。
(4)債務者が負担している債務の中に保証債務や連帯債務が含まれている場合には、連帯債務は消極財産に計上するが、債務者が他の連帯債務者に対する求償権の確実であることを挙証すれば、その範囲では消極財産に計上しません。保証債務は消極財産に計上しませんが、取消権を行使しようとする債権者が、主たる債務に弁済資力のないことを挙証すれぱ消極財産に計上する、とされています。
債務者の資力算定の標準時、つまり債務者無資力の状態はいつ存することを要するかについては、その処分行為(許害行為)をしたときと、取消権行使ののとき、正確にいえば、事実審における口頭弁論終結のときとの双方であるとされています。したがって、処分行為のときに債権者を害するものでなければ、後に物価の値下りなどによって無資力になっても詐害行為にならない、処分行為のときに債権者を害しても、その後に資力を回復したとき、債務が減少したとき、詐害行為である契約が後で解除されたときなどには取消権は消滅すると解されています。

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