仮処分による執行の停止

仮処分により執行の停止を求めることは許されるのでしょうか。強制執行の停止決定が認められている場合には、仮処分による執行の停止は許されていません。違法または不当執行を避けるため、法律は種々の救済手続を認めており、この手続との関連で一定の要件のもとに強制執行の停止決定を発しうることを定めています。執行停止を定める規定として、次のものがあります。特別上告・再審につき民訴法五○○条、仮執行宣言付判決に対する上告につき五一一条、仮執行宣言付判決に対する控訴、仮執行宣言付支払命令に対する異議につき五一二条、手形、小切手事件の仮執行宣言付の判決、支払命令に対する控訴、異議につき五一二条ノ二、執行文付与に対する異議につき五二二条二項、執行方法の異議につき五四四条一項後段、請求異議の訴え、執行文付与に対する異議の訴えにつき五四七条、五四八条、第三者異議の訴えにつき五四九条四項、優先弁済請求の訴えにつき五六五条二項、差押禁止の拡張の裁判につき五七○条ノ二第三項があります。

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以上のように強制執行の停止の仮の処分につき民訴法上特別の規定がある場合、執行債務者や第三者が民訴法七六○条により仮処分の方法で執行停止を求めえないことは、学説、判例上まったく争いをみません。間題は、執行停止を認める明文規定がなく、しかも準用または類推適用もない場合にも、仮処分への依拠が全面的に排除されるかです。この点については学説の対立がみられ、執行停止の準用範囲をめぐる見解の相違を反映するように思われます。
肯定説では執行停止の仮の処分についての規定は必ずしも網羅的でないのみならず、その準用にはおのずから限界があります。かかる場合には執行停止制度と同様の目的に仕える仮処分制度の発動を阻止する合理的基準を欠き、また仮処分に依拠する実際上の必要があるので、仮処分の要件を具備するかぎり、かかる仮処分を発しうるとします。この説が実際に仮処分による執行停止を必要とする現行法上の例としてあげるのは、有名義債権の譲受、または譲渡の無効により自己に債権が帰属することを主張する者の保護の必要であり、この場合債権者、債務者を共同被告とする執行文付与に対する異議の訴えによりえないとの解釈を前提としています。
否定説では執行停止を許容する各規定は制限列挙的であり、それゆえ一般の仮処分によって執行を停止しえないとするもので、通説です。そしてその制限列挙性の根拠として、この説は、執行停止制度の存在理由、つまり関係人の地位の均衡と執行の能率的で円滑な運営との調和をはかるという、執行手続と救済手続の調整の観点を強調します。
折衷説では仮処分命令によって強制執行を停止することは許されないという点では否定説に立ちながら、そのような仮処分命令が執行裁判所に提出されたときは、民訴法五五○条一号末段の裁判の正本として執行処分を取り消すべきだとしています。そもそも不適法な執行停止の仮処分によりどうして強制執行が停止または取り消されるぺきなのかを説明していない折衷説は、説得力がありません。肯定説が仮処分の必要を強調するこの事例は、否定説によれば、債権の譲受または譲渡の無効を主張する者が債権者、債務者を共同被告として執行文付与に対する異議の訴えを提起して執行停止の機会を与えられることになります。
以上のような学説、判例の現状をみると、執行停止仮処分は実際上必要でないかのような印象をうけます。しかし仮処分は全面的に排除されるのか、否定説のいう執行停止制度の存在理由は正しいが、はたして各個の規定は網羅的であって欠陥はないといえるのでしょうか。問題は、有名義債権の帰属をめぐる争いの事例にみられるように、執行停止制度を法定の場合以外の場合に準用ないし類推する範囲いかんに関すると思われます。

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