控訴理由の主張

仮執行宣言付判決につき控訴にもとづく執行停止の仮の処分を求める場合、控訴理由の主張ないし疎明は必要でしょうか。この場合、民訴法五一二条ノ三の場合を除き、控訴理由の主張ないし疎明は、ともに不要と解されます。仮執行宣言を付すことのできる裁判には種々のものがありますが、本問においては、民訴法一九六条一項にもとづき仮執行宣言の付された判決につき控訴がなされ、あわせて執行停止の仮の処分が求められた場合について考えます。判決は、それが確定し上訴審で取り消される可能性がなくなったときにその効力を生じるのが原則です。ただ、この原則のみによるときは、せっかく一方当事者が勝訴判決を得てみても、敗訴当事者が上訴することによって勝訴判決の確定を遮断され、その権利の実現を遅延せしめられることを余儀なくされざるをえません。そこで、民訴法は、敗訴当事者に上訴の途を開く一方で、敗訴当事者の上訴にともない勝訴当事者がうける権利実現遅延の不利益を救済するために仮執行宣言の制度を設けたのです。そして、この仮執行宣言の効力からすると、仮執行宣言の付された判決が給付判決であるときは、勝訴当事者は執行文の付与をうけるとすぐに債権の満足を目的とする強制執行に着手でき、またそれが形成判決であるときは、すぐに形成の効果を生じることになるため、仮執行宣言の制度がよく活用されるときには、この制度が訴訟のなかでもつ意義は軽視できないものとなります。なそれは、この制度は、これがよく活用されるならば当事者をして第一審において全力を尺くした訴訟活動をするよう促すことになるはずだからです。つまり仮執行宣言の効力からみると、財産権上の請求を内容とする訴えを提起した当事者にとって仮執行宣言付の勝訴判決を得ることはまぎれもなく有利なことです。したがって当事者は、たんに勝訴判決を得ようとするみならず、裁判所に勝訴判決が将来くつがえることがないとの見通しをたてさせるにたりる訴訟資料を提出し、あわせて勝訴判決に仮執行宣言を付するよう求めるのです。裁判所としては、このような見通しがたつとき仮執行宣言を付することを拒む理由はありません。すると、反対当事者もいきおいできるだけの訴訟資料を集中して対抗することになります。そして、このような第一審における全力を尽くした訴訟活動がなされることは、訴訟運営の視点から歓迎されるべき事態です。仮執行宣言の制度は、勝訴当事者の不利益救済の目的を有するにとどまらず、第一審に訴訟資料が集中する効果をもたらすものとなるはずです。本問に対する答は、この制度のもつ目的およびそれが訴訟運営にもたらす効果をどの程度考慮するかによって、結論を異にすることになるのです。

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仮執行宣言の法的効果からいうと、仮執行宣言付判決をうけた敗訴当事者は、たとえ控訴しても、それだけでは勝訴当事者からの強制執行あるいは形成判決の効果をうけることから免れることができません。そこで、今度はこの敗訴当事者が被る不利益を一時的、応急的に救済するために、民訴法は、控訴にともない仮執行宣言付判決の効力発生を一時的に停止せしめる仮の処分制度を設けました。ところが、民訴法五一二条ノ二の場合はともかく、民訴法五一二条においては、この仮の処分命令を発令するのに必要な要件についてなにも規定していません。このため民訴法五一二条にもとづき仮の処分命令発令の申立てがあったとき、裁判所がこれを発令するにあたって判断すべき要件の要否について、二つの考え方が現われます。つまり適法な申立てがあれば、裁判所は控訴理由ないしその疎明の有無など考慮することなく当然に執行停止の仮の処分命令を発令すべきであるとする考え方と、適法な申立てがあっても、裁判所は当事者に控訴の理由およびその疎明の開示を要求し、その結果控訴の理由自体失当であるかまたは控訴理由が疎明されないと判断するときには、この申立てを却下すべきであるとする考え方です。
消極説の論拠とするところは、次のとおりです。民訴法は、民訴法五一二条と同種の上訴にともなう一時的執行停止の仮の処分命令を発令するときには、明文をもって種々の要件の存在することを要求しているのに、民訴法五一二条にもとづき執行停止の仮の処分命令を発令する場合には、そのための要件について同条は明文をもってしてはなにも触れていません。したがって、同案の文言に従えば、同条は、裁判所は申立人が裁判の命じたとおりの保証をたてたならば必ず仮の処分命令を発令しなければならないと解釈さるべきです。そして、このような文理解釈は、昭和二九年法律一二七号による民訴法五○○条一項、五一二条の改正、同じく民訴法五一一条の新設ならびに昭和三九年法律一三五号による民訴法五一二条ノ二の新設という立法経過に照らすと、一層妥当なものとなります。つまり民訴法五○○条、五一一条、五一二条ノ二にそれそれ明文をもって規定されている仮の処分命令発令のための要件は、いずれもこの立法によってわざわざそれぞれの目的をもって新たに規定されたものばかりですが、民訴法五一二条については、立法は新たな要件をなにも明文化せずに放置したといういきさつがあるからです。のみならず、控訴審は、仮の処分の性質上急ぎその命令発令の許可を判断しなければなりませんが、この判断にもっとも適切な資料となるはずの一審訴訟記録はこの判断をするときまでにはまだ控訴審に到着していないのが通常です。したがって、控訴審は、実際には実質的な審理を尽くせないまま判断をしなければならなくなるのが実情であるため、仮に積極説に従うと、控訴理由の開示は不可能でないとしてもその疎明不足の点において仮の処分命令発令の申立てが却下されることが多くなります。このような事態は、少なくとも控訴人に酷になります。
積極説は、論者によってその根拠づけに若干の差異がみられますが、それらに共通した認識は、仮執行宣言制度の目的およびそれが訴訟運営のなかで果たす機能を重視することです。もし、消極説のいうように、適法な仮の処分命令発令の申立てがなされさえすれば必ず執行停止の仮の処分がなされるというのであれば、仮執行宣言によって救済せんとした勝訴当事者の利益は、たちまちにして覆されることになります。これでは、勝訴当事者の利益救済という仮執行宣言制度の目的はほとんど有名無実となるばかりでなく、一審における当事者双方の訴訟活動に対しても徴妙に影響し、一審に訴訟資料を集中せしめるという狙いにも水をさすことになります。もともと仮執行宣言は、勝訴当事者の権利の確実性に相当程度の見通しがたち、その権利を早急に実現させる必要があるからこそなされるものなのです。したがって仮執行宣言の効力を一時的にしろ否定せんとする仮の処分には、それ自体制約があるはずです。つまり仮の処分命令を発令するためには、勝訴当事者の権利の確実性を動揺せしめるだけの理由およびその疎明が要求されてしかるべきです。民訴法五一二条には、発令の要件についてなにも明文をもってしては触れていませんが、仮の処分のもつこのような制約を当然のこととして規定しなかったまでです。

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