債権譲渡と請求異議

AはBに対して100万円の支払いを命じる確定判決を得たのち、債権をCに譲渡し、その旨がBに通知されました。BはCに対する金銭債権を有していたので、これと譲渡に係る債権とを相殺する旨の意思表示をし、これによってBの債務は消減しましたが、Cは反対債権の存在を争って、Bに対して強制執行をしようとしています。Bには、どのような救済手段があるのでしょうか。これについてはBはCが承継執行文をすでに得ていると否とを問わず、Cを被告として請求異議の訴えを提起することができます。Cが執行文付与の訴えを提起した場合、またはBが執行文付与に対する異議の訴えを提起した場合に、その訴訟においてBが相殺による債権の消滅を主張することができるかどうかについては見解が分かれています。

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本問のように債務名義を具備した債権が譲渡された後、債務者Bが債権譲受人Cに対して、その債権の消滅を主張する場合に、すでにCのために承継執行文が付与されていれば、Bが執行手続上債権者たることの公証されたCを被告として請求異議の訴えを起こすことができることについて問題はありません。これに対して承継執行文が付与されていない場合には、執行手続上まだ債権者たる適格を承認されていないCに請求異議訴訟の被告適格があるかという問題が生じます。この場合にも、Cが債務名義により執行してくるおそれがある以上、Cは被告適格を有するとするのが通説、判例です。実際上も、Cに被告適格を認めないと、Bは承継執行文の付与があるまで不安な立場に置かれ、債権の転付命令のように直ちに完了する性質の執行に対しては救済をうける機会を失う危検もあって不当です。
請求異議訴訟の性質を確認訴訟と解する論者からは、通説のようにこれを形成訴訟と解する見解の下では、請求異議は債務名義に表示された請求権と実体上の権利関係との不一致より生じる訴訟法上の異議権にもとづくものとされるのに、承継執行文付与以前にはかかる不一致があるとはいえないために、債務名義の形式的執行力を排除する根拠がない、との批判がなされています。執行文をまだ付与されていない債権譲受人を被告とする場合でも、請求異議が特定の当事者間での特定の債務名義の執行力の排除という訴訟法上の効果の発生を目的としていることにはかわりありませんが、本来債務名義に表示されていない者からは執行をうけないというのが法の建て前であるという執行適格の面を重視するならば、この場合の請求認容の判決によっては直ちに執行法上の法律関係の変動をきたさないともみられるところに問題があります。しかし、逆に債務名義の客観的内容と債務名義を利用できる地位とを切り離し、誰でも債権を承継して債務名義を利用できる可能性を有するとの観点にたって考えれば、債務名義の執行力を債権譲受人に及ぼすための実体法上の基礎がすでに備わっているために、この者につき執行請求権が現実化するのに先行して積極的に、この者による執行を排除できる法的地位を形成するという意味での形成訴訟を認めることは可能といえます。形成訴訟説において請求異議訴訟の訴訟物とされる訴訟法上の異譲権ないし執行排除を求めうる法的地位の発生が執行力の現在性を前提としていないことは、執行が条件にかかわっている場合に条件成就以前の請求異議を認めることからも明らかです。
以上に対して、形成訴訟説に対立する有力説である実体上の確認訴訟説からすれば、承継執行文付与以前においてもBはCに対して債務名義表示の請求権の不存在確認を求めるにつき正当な利益を有することは明らかであるため、請求異議の訴えを起こせることは当然です。
請求異議訴訟がBの原則的な救済手段であることは上述のとおりですが、Cが執行文の付与を求めて執行文付与の訴えを起こした場合、あるいは逆にAがCに対してなされた執行文の付与を争って執行文付与に対する異議の訴えを起こした場合に、これらの訴訟においてBが本問における相殺のような実体上の事由を主張することができるかどうかが争われています。
執行文付与の訴えは、本来債務名義に表示された義務の履行の条件が成就したこと、あるいは債務名義に表示された債権者、債務者の承継人のためにもしくはこれに対して債務名義の執行力が及ぶことの確認を求める訴えとして予定されたものであり、そのかぎりでは実体上の異議事由とはかかわりがありません。しかし、いやしくも判決手続によって執行力の存否を確定すぺき場合である以上、もはや執行力の存在に関する形式的事由と、より根本的なその実体的事由とを区別して扱うべきではなく、実体上の異議も主張できるとの積極説があり、これに対し、前記のような執行文付与の訴えの目的および各種救済方法の接能分担を強調し、また積極説をとった場合、この訴訟で主張できた事由を後に請求異議の訴えによって主張できなくなるという、いわゆる失権効を認めれば債務者に不測の不利益を負担させることになり、失権効を認めなければ紛争のむし返しを招くことになること、訴訟の引き延ばしに利用されて、請求異議訴訟なら執行停止のためには債務者側からの疎明や保証の提供が必要となる。債権者の不利益を招くおそれがあることなどを理由として、本訴訟では五二一条所定の執行文付与の要件以外の事項の審理に立ち入るべきではないとする消極説があり、いずれがより有力ともいえない状態にありますが、近年は消極説の勢がやや盛んになりつつあります。

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