一時猶予を理由とする請求異議

BはAより金銭の支払いを命じる敗訴判決をうけ、判決が確定しましたが、その後、Aから一時支払いの猶予を得たことを理由に、請求異議の訴えを提起しました。この訴訟で、一時猶予の機関が争いとなりましたが、この点に関する裁判所の判断は、既判力を有するのでしょうか。また、判決の主文は、これとの関連で、どのように表示されるべきでしょうか。一時猶予の期間に関する裁判所の判断は、既判力を有しないものと解されます判決の主文は、例えば、被告から原告に対する○○地方裁判所平成○○年例第一○○号貸金請求事件の判決に基づく強制執行は、平成二五年一二月三一日を経過するまではこれを許さない。とするのが相当です。

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執行機関は、債務名義に表示された給付請求権の迅速、完全な実現をはかるために、債務名義を唯一の基準として執行を実施すればよく、その際、その請求権が現在なお存在しているか、変更されてしまっているかどうかというような実体関係を審査することがありません。債務名義の表示は、判決の場合には事実審の口頭弁論終結時、その他の債務名義の場合はその成立時というように、過去の一定時における給付請求権の存在ならびに範囲を示すものですが、本来、私法上の法律関係は絶えず変動してやまないものであり、これ以降においても、債務者が債務を弁済したり、反対債権をもって相殺したり、債権者から免除をうけたり、あるいは設問のように一時支払いの猶予を得たりなどして、その給付請求権が存在しなくなったり変更されてしまうことがあります。このような場合であっても、その影響力をうけて債務名義の執行力が当然失われるようなことはなく、それにもとづく執行手続はあくまで適法なのですが、実体上請求権が存在しないとか、履行期にないのに執行が行なわれるという不当な結果が生じることになります。そこで、このように債務名義に表示された実体上の権利関係と現実の権利関係とに不一致がある場合に、債務者をして債権者に対しその不一致による執行の不当を主張することを許し、判決をもって債務名義の執行力を除去し、もって不当な執行を排除する手段として認められたのが請求異議の訴えです。
つまり債務者Bは、債権者Aより敗訴判決をうけた後、Aから一時支払いの猶予を得たことを理由に、Aを相手に請求具議の訴えを提起して、敗訴判決の執行力を一時的に排除し、もって執行機関において不当な執行を阻止しようとしたわけです。
このように、債務者は請求異議訴訟を提起して、執行内において不当な執行を阻止することができるのですが、これとは別に、執行外においても債権者に対し不当執行による不当利得の返還請求訴訟やこれによる損害賠償の請求訴訟を提起し、不当な結果を回復することができます。債務者は、執行の内外において与えられたこの二つの救済制度を同時に利用することができるのでしょうか。つまり設問のような場合、請求異議訴訟でBの主張した支払猶予期間の一部または全部が認められず、一部認容または全部棄却の判決がなされたとしても、Bは執行をうけた後、Aに対しあらためて別訴を提起して、前訴で主張したと同一の支払猶予期間を主張し、その期間内の利息、損害金等を不当利得として返還を求め、あるいは猶予期間内の執行を不法行為としてこれによる損害賠償を求めることができるかどうかが問題となります。これは、請求異議訴訟の判決には債務名義記載の請求権に関する実体的異議事由の存否について既判力が生じるか否かの問題であり、これに対する答えは、訴訟の性質をどう理解するかによって異なります。
形成訴訟説では債務名義に表示された請求権に関する実体法上の異議事由が存在する場合には、訴訟法上の形成権である異議権が発生し、この異議権にもとづいて債務名義の執行力を排除し、その執行を違法なものとするとの見解で、従来の通説および主流的判例の立場です。この説によれば、請求異議の訴えは、訴訟法上の異議権を訴訟物とする訴訟法上の形成の訴えであると解するために、実体関係の主張は訴えの事由であるにとどまり、判決の既判力がこれに及ぶことはありません。そのために、債務者はこの訴訟で敗訴しても、執行終了後、あらためて同一の事由を主張し、債権者に対し前述のような不当利得の返還請求等の別訴を提起して執行の結果をくつがえすことができることになります。しかし、この実際上の結果はきわめて不合理であるとして、他説から批判される一事由となっています。
そこで、形成訴訟説の欠点を克服するものとして、新形成訴訟説という有力な見解があります。この説は、請求異議の訴えの訴訟物を、債務者が特定の債務名義につき執行力の排除を求める地位にあるとの法的主張であると解し、その判決理由中の給付請求権の消滅、変更事由の判断にいわゆる争点効の理論を導入し、後訴においてこれと異なった主張や判断を許されないとしています。しかし、争点効を認めない立場からは、この見解に対しても、従来の形成訴訟説に対するのと同じ批判が向けられることになります。
給付訴訟説とは、この中で有力な見解は、請求異議の訴訟物を債務名義に表示された請求権自体であると解するとともに、その性質は債権者に対して請求権の不行使を求める消極的給付の訴えであるとしています。この説によれば、実体上の請求権の存否については当然既判力をうけることになります。しかし、債権者に対する勝訴判決だけでは執行機関の権限に属する執行を阻止できないとか、紛争の解決としては債務名義の執行力を排除するほうがより抜本的であるとの批判がなされています。
確認訴訟説では、この立場には、債務名義の執行力の不存在という訴訟上の効果の確認を求める訴えであるとするものと、請求権の不存在という実体的関係の消極的確認を求める訴えであるとするものとがあります。後者が近時の有力説であり、この立場では、請求異議訴訟の判決はすでに存在する債務名義の内容と異なった判断を成立させ、それによる執行機関に及ぼす反射的効果として執行力を排除する効果を生じると解するために、実体上の権利関係につき既判力が及ぶのは当然です。しかし、この説に対しては、なにゆえに債務名義の執行力が排徐されるのか疑問が残るとか、この訴えを独立の訴えとして認められている実質的根拠を説明しがたいとの批判がなされています。
救済訴訟説では、前述の形成訴訟説と確認訴訟説との長所、短所とを顧慮した見解で、実体的請求権の消極的確認作用と執行力の排除という訴訟法上の形成作用との二つの要素を併用する特殊な訴訟であるとするものです。この説は、請求権の消極的確認機能を有する点で既判力の問題では前述の確認訴訟説と同じ結論がとれ、執付力の排除という形成機能をも有する点で形成的効果を形成訴訟説と同併に説明できますが、かなり技巧的です。
以上の諸説のうち給付訴訟説ないし救済訴訟説を採用した判例はまだ見当りません。争点効理論の適用については、消極に解するほかはなく、実務も最高裁の判決が出た以上同一の方向で統一されると思われます。そうすると、設問のような支払い猶予など実体上の事由は異議の原因にすぎないことになり、この点に関する裁判所の判断は既判力を有しないことになり、Bは請求異議で敗訴したとしても執行終了後、同じ事由で不当利得の返還訴訟等を提起することは理論上可能です。しかし、債権者が実体上の請求権の存否をも審判の独立の対象にすえ既判力による確定を求めたいというのであれは、請求異議訴訟の手続を利用して反訴によって目的を達成することができるため、さほど不都合でもありません。

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