強制執行の不服申立手段

AはBに対する金銭債権の強制執行に着手しましたが、その後CがAの債権につき仮差押命令を得ました。BにはAの強制執行についてなんらかの不服申立手段があるのでしょうか。これについてはBは執行方法に関する異議または即時抗告によりAの強制執行が満足手続に入ることを阻止することができます。
金銭債権に対して差押または仮差押がなされたときには、その本質的効果として、被差押債権について処分制限の効力を生じ、差押債務者はその債権の消滅、移転、価値の滅少を制限され、第三債務者もこれに対応する行為を制限されます。そうすると、設例のように、AのBに対する債権がその強制執行着手後にCから仮差押されたというような場合、その執行手続はどのような影響をうけるのでしょうか。そして仮差押はすでに進行中の強制執行手続に対してどのような効力をもつのでしょうか。これが設例の問題点です。

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請求異議説では、差押または仮差押の処分禁止の効力を給付請求権自体に対して実体上の禁止ないし制限を加えるものとの理解を前提とするものであって、従前の判例、多数説です。そして大審院では、給付訴訟の係属中にその請求債権について仮差神がなされた事案について、債権仮差押がなされると、債務者は第三債務者に対して給付訴訟を提起できなくなり、訴訟係属中に仮差押がなされたときには原告たる債務者は自分に対して即時給付を求める請求を維持できなくなるため、債権存在確認に訴えを変更するなどしないかぎり不当な請求として却下を免れないと判示し、この基本的立場を執行手続面に押し及ぼし、仮差押中の債権に基づいて強制執行を申し立て、競売開始決定がなされたという事案について、民訴法五四五条の請求異議の訴えは債務名義で確定した実体上の請求権が執行に適しなくなったことを理由として実体上の異議を主張し債務名義そのものの効力を排除することを目的とするものであるため、仮差押を受けたというように債務名義によって確定した請求を変更する事実が生じた場合にも、これをもって請求異議の原因とすることができると判示しました。
この立場をとるかぎり、設例に対する解答としては、Bは請求異議の訴えを提起してAの債務名義の執行力の排除を求めることができるということになるといわざるをえません。
執行障害説では、この請求異議説に対しては近時次のような批判が有力になされており、新しい見解が展開されてきています。つまり差押は債権の満足手続きの前提をなすものであり、仮差押は将来なされる本執行の遂行を保全することを目的とするものであるため、この目的を達成するためには差押または仮差押の現状を維持しておけば必要にして十分であり、一旦訴訟上形成された利益状態を請求異議の訴えによって消滅させるということにすると、その後に差押または仮差押が取り消された場合には再訴を要することになるために、訴訟経済に反して不都合です。差押または仮差押の目的に照らしてみると、差押債務者に対しては現実に債権の満足をうけることを阻止するとともに、第三債務者に対しては現実に支払いをすることを禁じればたりることとなります。つまり差押または仮差押は債務者対第三債務者の関係において給付請求権自体を実体的に禁止ないし制限するものではなく、ただ現実の取立ておよび弁済を禁じるにすぎないもの、強制執行手続の障害事由となるにすぎないと解されます。
この見解によると、設例の場合、Bは請求異議の訴えではなく、執行方法に関する異議、または即時抗告によってAの強制執行の違法を排除することができることとなります。
差押債権者の立場からみた場合でも、その債務者が第三債務者に対する債権にもとづいて執行に着手したとしても、被差押債権が消滅しないかぎり、また、その引き当てとなるべき第三債務者の責任財産が確保されているかぎり、なんら不利益を被ることはないのだして、特に仮差押の場合には、将来債務者に対する債務名義を得て本執行に移行するまでの間に第三債務者の責任財産が散逸するおそれがあるというようなことを考えると、差押債務者が第三債務者に対する強制執行をある程度進行しておくことはむしろ利益でさえありえます。また、仮差押の場合には、債権者の申請だけで仮差押命令が発せられることを考えると、仮差押のゆえに仮差押債務者の権利行使をまったく封じてしまうことは妥当とはいえません。したがって、強制執行をまったく許さないのみならず、差押債務者がせっかく取得した債務名義の執行力、それ自体までをも奪ってしまう結果を是認する請求異議説はとることができず、差押または仮差押がたんに執行障害事由となるにすぎないとする後説を支持すぺきです。そして、最高裁でも、近年、給付訴訟の係属中に当該請求債権が仮差押された次案について同様の見解を示すにいたりました。

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