裁判上の和解無効の訴え

裁判上の和解が無効であることを理由として、債務者は救済を求めることができるでしょうか。できるとして、どのような方法があるのでしょうか。
和解無効の訴え、請求異議の訴え等の別訴によって救済を求めることができるほか、訴訟上の和解については、期日指定の申立てによって旧訴の続行を求められます。裁判上の和解は、裁判所の面前で行なわれる和解の総称です。訴訟上の和解と起訴前の和解とがあります。訴訟上の和解は、訴訟係属中に当事者双方が訴訟上の請求についての主張を互いに譲歩することによって成立させる和解をいい、起訴前の和解は、訴えの提起前に申立てによって簡易裁判所でなされる和解をいいます。もっとも、民訴法五六○条では、裁判上の和解の意味で訴訟上の和解という言葉を用いています。両者は、訴訟が係属しているといないとの点において差がありますが、そのほかの効力等については、差異はありません。

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裁判上の和解の無効の主張の可否およびその主張方法は、これに既判力を認めるかどうかによって違ってきます。民訴法二○三条は、和解調書の記載は確定判決と同一の効力を有すると規定しています。この規定の解釈をめぐって説が対立しています。
既判力肯定説では和解を判決の代用とみて、和解は確定判決とまったく同じ意味および内容をもつとしています。規定の文言および立法の沿革には、最も忠実な解釈です。この説によれば、実体上の無効原因があっても和解の効力は覆すことができません。ただ、再審事由にあたる事由がある場合にかぎり再審の訴えに準じる訴えによって、和解調書の取消と訴訟の再開を求めることができます。規定の文理解釈上はこの説を攻撃することは難しいのですが、現実にはすぺての和解の成立にいたる過程について全面的な裁判官の関与があるわけではなく、またその内容について裁判官の完全な審査がなされているわけでもなく、その和解に暇疵がある場合も少なくありません。これらの場合にも、およそ再審事由がないかぎり、無効の主張を許さないというのは実際的ではありません。実務がこの説に従わないのは、このことによります。
制限的既判力肯定説では和解調書についても一応既判力を肯定しますが、民訴法二○三条にいう確定判決と同一の効力を有する和解は、実体上の要件に欠けるところのないものにかぎられるとします。実体上の暇疵があるときには、これを原因とする和解の無効や取消の主張が許され、その主張が 認められるときは和解調書は確定判決と同一視されず、既判力は認められないことになります。一般に判例も、この立場であると解されています。この説は、実際の必要性と実定法の文理解釈との妥協をはかったきわめて巧妙な説ではありますが、裁判の既判力は本来、その内容の正否を間わず、これに反する主張および判断を許さないというもので、裁判上の和解に既判力を認めるとすれば、和解が存在することが立証されれば、その内容の当否を争う余地はないはずです。この説は、およそ既判力の概念に反するものであるという批判がなされています。
既判力否定説では訴訟上の和解には、訴訟終了の効力と試行力だけが認められる確定判決に既判力が認められるのは国家権力の公権的判断による紛争の終局的解決という要請に由来します。これに対し和解は当事者間の意思によって事由にその内容を定めることができる自治的な紛争解決方法であって、裁判所の関与も拘束力のない後見的なものにすぎません。和解に既判力を認めることは和解の本質に反します。また、和解の内容は複雑であり判決の主文に対応する部分も明確ではないため、既判力の範囲を確定するのに困難な場合が生じることが多くなっています。さらに実体上の暇疵がある場合にも、再審事由に該当する事情がないかぎり、和解の効力が争えないとすることは、箸しく当事者の保護に欠けることになる等の理由が主張されます。この説は民訴法二○三条の文理解釈上やや無理がありますが、それを除いては理論上も実際上も妥当なものということができます。
裁判上の和解の無効の主張方法は、論理的にはこれをどのような性質の行為と解するかによっても異なってきます。もっとも、この和解の性質いかんは、裁判上の和解の既判力の有無についての結論とも密接に関連します。実際の学説ではこの間題についての考え方と裁判上の和解の無効の主張方法とは必ずしも一義的に結ぴついてはいません。もっとも、和解の性質をまず決定し、そこからこれらの間題についての結論を導き出そうとするのは正当ではありません。むしろ、裁判上の和解にどのような効力を与えるべきかを検討し、そこから帰結すべきものです。これについては、次の三説に分かれます。
訴訟行為説では訴訟上の和解は、もっぱら訴訟を終了させることを目的とする訴訟上の合意または双方が互譲した結果を裁判所に一致して陳述する合同訴訟行為であるとしています。前提として私法上の和解契約があるとしても、それは訴訟上の和解を構成するものではありません。民法上の和解の規定の適用はなく、訴訟法の原則によってのみ支配されます。この説は、既判力肯定説と結びつきますが、必ずしも不可分ではありません。
私法行為説では訴訟上の和解は、純然たる私法上の法律行為であって、それが訴訟の機会に行なわれたものと解するこの立場にたつものとして、裁判上の和解は、裁判所の面前でなされる私法上の和解と裁判所による確認、公証行為とからなるとの説があります。
折衷説では、訴訟物に関する私法上の和解と訴訟終了の合意という訴訟上の合意とが結合して併存するとする両行為併存説と、単一の行為ではありますが、私法行為の性質と訴訟行為の性質をもち、訴訟行為の形式で行なわれる私法上の和解ともいうべきものであるとする両行為競合説とがあります。判例の立場も、この見解をとるものであるといわれています。
裁判上の和解に既判力を認める立場は必然的に訴訟行為説と結びつき、この説によれば手続法上の暇疵がある場合にかぎって再審類似の訴えを提起することができるだけです。一般に訴訟行為説ではその当然無効を認めないので、既判力を認めないとしても、訴訟手続の終了効自体は争うことができず、和解無効を主張するには別訴を提起しなければならないとされます。もっとも、和解の性質につき私法行為説であっても、別訴提起説をとるものがあります。しかし、一般に和解の性質につき、私法行為説または析哀説をとるものは、実体上の暇疵により訴訟終了の効力が生じなかったことになることを認め、当事者が新しい期日の指定の申立てをして旧訴の続行を求めることを許容します。この場合に、つねに和解の無効に関する中間確認の訴えを提起させるべきであるとの説もあります。
判例は、和解の無効の主張方法を特定のものに限定しません。つまり、和解無効確認の訴えまたは請求異議の訴えなどによる別訴の提起も、期日指定の申立てによる旧訴の続行も許されるとしています。もっとも、起訴上の和解の場合や訴訟当事者以外の第三者が和解に参加した場合において当該第三者が和解の効力を争うには、別訴の提起によるほかはありません。これに対し、学説上は、このように多岐な救済方法を認めるのは便宜にすぎ、理論的には旧訴の続行を認めるのであれば別訴の提起は訴えの利益を欠くことになるはずであるとの批判がなされています。ただ、和解につき実体上の暇疵による当然無効を認めるのであれば、和解による訴訟終了効すなわち訴訟係属の有無をも争うことを認めるのが相当です。和解が訴訟行為の性質をもつとしてもそのことのゆえに直ちにこれを認めないのは妥当ではありません。和解の効方自体は争えるが訴訟終了効は争えないとするのは本末転倒のようにも思われます。そして、その結着は当該手続内で解決することが望ましい。また、実際的にも、旧訴の係属した裁判所において旧訴の訴訟状態を利用して審理をすることは、訴訟経済上も利点があります。
他方、和解の無効をめぐる争いは、その無効原因の在否についての新たな実体上の争いという側面をもち、これについては別訴の提起をもって争わせるのが適当であるともいえます。この場合に旧訴の続行を認めると相手方の審級の利益を奪うおそれもあります。また旧訴の終了から相当の時日が経過しているような場合には旧訴を続行するメリットがないこともあります。このように考えてみると、期日指定の申立てによる方法と別訴による方法とは、一長一短があります。当事者の利便および実務の取扱いがすでに定着していることを考えると、当事者にはいずれの方法の選択をも許すとするのが妥当と考えらます。

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