請求異義の訴えの提起

AはBに対する金銭債権の強制執行として、Bの有体動産を差し押えました。Bは当該差押物件に対する強制執行の排除を求めるために、当該差押のみの排除を請求の趣旨として、請求異義の訴えを提起することが許されるのでしょうか。これはBは、当該有体動産に対する差押のみの排除を請求の趣旨として、請求異議の訴えを提起することはできません。請求異議の訴えの請求の趣旨は、被告から原告に対するある債務名義に基づく強制執行を許さないというように、当該債務名義にもとづく一切の強制執行の不許を求めるのが通常ですが、本問は、請求の趣旨として、被告から原告に対するある債務名義に基づき○○年○月○日○○においてされたある有体動産に対する強制執行を許さない。というように、具体的執行行為の不許を求めることができるかということです。具体的な執行行為の不許を求める制限的な請求異議の訴えの最大の利点は、訴状に貼る収入印紙の額が安くてすむことです。訴状に貼る収入印紙の額は、訴額を基準に定められており請求異義の訴えの訴額は、不許を求める債務名義に表示された請求権の価額と解されています。ところが、制限的な請求異義の訴えが認められれば、その訴額は不許を求める執行行為の目的物の価額と解することができるので、貼用印紙の額は、通常の請求異義の訴えに比べてかなり安くなり、莫大な金額の債務名義で少額の財産が差し押えられた場合でも、債務者が請求異議の訴えを提起しやすくなります。

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制限的な請求異義の訴えを認めるかどうかについては、積極説と消極説がありますが、通説は消極説です。消極説の論拠は、請求異議の訴えは、債務名義の執行力を排除することを目的とするものであって、現実にされた具体的な執行行為の取消を目的とするものではないからということです。積極説に対する批判は、まず、なによりも、このような訴えを認める必要がありません。およそ、請求異義の理由がある場合には、特定の債務名義にもとづく一切の執行処分が許されないことになる点で、特定の執行処分についてのみ請求異議の理自があるという事態は生じえず、通常の請求異議の勝訴判決によって、すでになされた各個の執行処分の取消を求めることができるからです。仮に制限的な請求異議の訴えを許しても、それによって特定の執行処分の取消が得られるにとどまり、債権者としては、依然として残る債務名義の執行力によって他の財産を新たに差し押えて執行を続行できるわけで、各個の執行処分に対し累次に請求異議の訴えが継起する可能性を生し、同一の異議事由につき重複した審判がなされ、かつ、相互に既判力が及ばないという、はなはだ訴訟経済に反する結果ともなりえます。制限的な請求異議の訴えの併行ないし継起の可能性は、立法者が民訴法五四五条三項の規定によって表現しようとした趣旨に反します。通常の請求異議の訴えでは債務名義の執行力の排除を求めるのに対し、制限的な請求異講の訴えでは各個の執行処分の不許、取消を求める点で、両者は、全部対一部の関係には立たず、一部請求として後者を許すことはできません。積極説は、実践的には貼用印紙その他の費用の点で資力の乏しい債務者の提訴を容易にしてやる意図を持つようですが、この考慮は、債務者の立場に偏し、訴訟費用の規整なり訴訟救助の問題を不当に訴えの態様の変形によってやりくりをつけようとするもので、理論的には、まったく根拠がありません。
制限的な請求異議の訴えを認め、現在の判例、実務の立場を支持しようとする積極説があります。積極説は、莫大な金額の債務名義で少額の財産が差し押えられた場合にも、執行力全部の排除を求めるほかに救済手段を認めないとすると、貼用印紙その他の費用の点で、資力の乏しい債務者が提訴に困難を感じ、救済の途を事実上杜絶するおそれがあるという実際上の必要性を強調し、差し押えられた僅少の財産についての請求異義の訴えで勝訴し、請求権がないことが証明されると、このような判決だけでも債権者に対しては実際上大きな牽制になって実効があり、度重なる執行とこれに対する請求異義の訴えの反復という弊害は、事実上生じていないとしています。積極説の理論構成としては、制限的な請求異議の訴えを通常の請求異議の訴えの一部請求としてとらえています。つまり、通常の請求異議の訴えの目的である債務名義の執行力の排除と制限的な請求異議の訴えの目的である具体的な執行行為の不許との間に、全部対一部の関係があるということです。積極説においては、債務名義の執行力の排除とは、当該債務名義にもとづく一切の強制執行、つまりすでにされた強制執行から将来される強制執行までを含むすべての強制執行の不許であり、債務名義の執行力は、個別的執行の執行力が累積して形成されていると考えています。しかし、請求異議の訴えの認容判決が宣言するのは、過去から将来までの個別的執行行為の不許でなく、債務名義の執行力の不許であって、同視することはできず、個別的執行行為の排除は、認容判決にもとづき民訴法五五○条一号、五五一条の手続を経て顕現するものです。また、執行力とは債務名義にもとづき一般的に強制執行を申立て続行することができる効力であるため、個別的執行の執行力という概念はありません。
積極説には、理論的根拠がなく、消極説が妥当です。そして、莫大な金額の債務名義にもとづいて少額の財産が差し押えられた場合の貼用印紙の問題については、執行力の排除を求める範囲を債務名義に表示された請求権の一部に限定した請求異義の訴えを提起することを考えるべきです。このような訴えの訴額は、限定された範囲の請求権の価額となるので、債務者が執行力の排除を求める範囲を適当に選べば、貼用印紙のために請求異義の訴えの提起が困難になる事態は避けることができます。債務名義に表示された請求権の一部に限定した請才異議の訴えは、通常の請求異義の訴えの一部請求として認めることになりますが、分割、特定の可能性や民訴法五四五条三項の趣旨との関係から批判が予想されます。しかし、このような請求異議の訴えの形態は、債権者が執行すべき範囲を債務名義に表示された請求権の一部に限定した強制執行の申立てがでぎることに対応するものでもあり認めるべきです。

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