公正証書偽造の被害への救済

CはBの印鑑を盗用し、Bを保証人としてAから金銭を借り受け、公正証書を作成しました。BはAから差押をうけて、この事実を知りました。Bが救済を求めるには、どのような方法によるべきでしょうか。 一般には、違法執行として執行文付与に対する異議として救済をうけるぺきですが、本問のような場合請求異義の訴えによる救済のほうが現状を考えると有効と思われます。公正証書とは、もともと、公務員がその権限にもとづいて作成する一切の文書を意味します。しかし、それは広義で用いられた場合であり、いわゆる公正証書は、公証人が、公証人法その他特別の法令の定めるところに従って法律行為その他私権に関する事実について作成した文書をさします。法律行為に関する公正証書のなかには、本問の場合と同じように強制執行において債務名義とすることのできるものがあり、これを執行証書とよんでいます。執行証書は、裁判所の関与なしに公証人の手によって比較的簡易に取得されるので、債務名義として相当ひろく用いられています。執行証書による強制執行を簡易執行ともいいます。確定判決を債務名義とする場合などと異なって、債務名義の取得が裁判所の関与なしに比較的容易になされるため、執行証書による強制執行に際しては、不当執行や違法執行の間題が起こりやすく、債務者の救済についても不当執行、違法執行のいずれとして考えるぺきか、見解の相違があります。また、判決を債務名義とする場合既判力の時的限界の制約をうけるのに、執行証書の場合には請求権の不成立を争うこともしばしば出現します。

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執行証書による強制執行に対する債務者の救済について今日までの多数の学説は次のように考えています。つまり執行証書の形式的無効と証書記載の契約の実体的無効とは区別する必要があります。執行証書の形式的無効とは、それが執行力を有する債務名義としての効力をもたないことを意味します。それは公正証書に表示された請求権の不成立や記載された法律行為の実体的無効とは明確に区別されなければなりません。執行証書の形式的無効の場合には、執行力がないために、公証人はこれに執行文を付与することはできず、もしこれに付与されれば、違法執行として執行文付与に対する異義申立てができます。しかし、公正証書に表示された請求権の不成立や記載された法律行為の実体的無効を主張するのは、不当執行として実体法上の事由にもとづいて、有効な執行証書の執行力を排除する主張であるため、請求異議の訴えによるべきであるとされます。問題は、この基本原則の適用領域に関してです。
執行証書の要件は、民訴法五五九条三号によって定められています。執行証書は、公証人が権限に基づいて成規の方式により作成するものですが、一定請求つまり一定の金銭の支払い、代替物もしくは有価証券の給付を目的とする請求権であって、その金額または数量が一定しているものについて、債務者が不履行の際に直ちに執行をうけても異議のない旨の執行受諾の意思表示の記載がなされていることが必要です。
執行証書は、上述の要件を欠くときは無効であるといわれ、それは債務名義としての効力がないこと、つまり執行力のないことを意味します。この場合は証書の内容である実体上の契約が無効で、請求権自体に瑕疵がある場合とは区別されます。解決の基本に従えば、前者は違法執行として、執行文付与に対する異議により、後者は不当執行として請求異議の訴えにより救済をうけるべきです。もっとも違法執行とも不当執行ともなる場合は、いずれをもとにしても救済をうけることができると解されます。
公証人は、契約の両当事者の嘱託に基づいて執行証書を作成するのであり、一方当事者だけの嘱託では債務名義となりません。代理人による属託の場合は、記載全体から代理嘱託の事実が判明すればよいとされますが、嘱託人確認の手続をし、証書によって代理権限を証明させなければなりません。しかし、これは裏からいえば証書による代理権限の証明があれば代理人となることになります。
本件では、CがBの印鑑を盗用し、Bの代理人として、あるいはAとCが共謀するなどしてAとBとの保証契約をでっち上げたものとみられます。AB間の法律行為が不成立となればBは請求異議の訴えにより救済をうけることができますが、実体私法上表見代理として執行証書の内容をなす法律行為が成立しているとなれば、執行証書として成立、不成立が問題になります。とりわけ執行受諾文書、つまり公正証書中の直ちに強制執行を受く可き旨の記載の効力が問題となります。執行受諾の意思表示は訴訟行為であると考えられ、執行認諾をするには一般訴訟行為の要件が必要であり、その欠陥があれば、執行認諾は無効となり、執行証書も執行力を生じません。判例も民法の表見代理の規定の類推適用を否定しています。したがって、証書作成に関する代理権の欠陥は、証書の形式的暇疵として、執行証書の要件を欠くことになるため、理論的には、通説は、民訴法五二二条の異議によってBの救済がはかられるべきであるとしています。とはいえ、代理権の欠陥の場合は、執行証書の作成のみならず、証書に表示された実体関係の形成についても存在することが多く、したがって、判例では、実体審理を必要とするという理由で請求異議の訴えを認めているのです。実体審理のために、執行文付与に対する異議の手続でも任意的口頭弁論で補うことができますが、請求異議の訴えでは必要的口頭弁論がとられることになります。代理権の欠陥についても形式的に完備した委任状による代理の場合、公証人が代理権の欠陥を調査するのは困難であること、執行認諾のための委任と実体的権利関係形成のための法律行為の委任とは、通常一体としてなされ、前者の有無の審理は後者の成否の審理と同じであること、代理権の欠陥が再審事由に相当することなどを理由に、請求異義の訴えによるぺきことを前記判例や有力見解は説くのです。

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