違法執行の救済手段

AはBに対する金銭債権の強制執行を完了して満足を得たのに、たまたま二通交付をうけていた執行正本を悪用して、Bに対して再び強制執行をしようとしています。Bにはどういう救済手段があるのでしょうか。 このような場合Bは執行文付与に対する異議による救済を求めることができます。執行力ある正本は通常の場合は一通でたり、数通の執行正本が存在すると重複執行の危険があるので、債権者に対して執行正本を一通だけ交付するのが原則です。しかし、債務者の責任財産が数個の地に散在し、または執行手続を異にする数種の責任財産が数個存在し、その一つだけでは執行債権の完全な満足を得られないような場合には、一個の地または一種の財産に対してのみまず執行をすることを許し、他の財産に対して同時執行を許さないとすると、その間に債務者に責任財産の隠匿などの機会を与えるおそれがあります。そこで、これに対処するために、数個の地において、または数種の財産に対して同時執行ができるように債権者に対して数通の執行正本を付与することが認められていいます。一方で、債権者が強制執行手続により債務名義に表示された請求権および執行費用について完全な満足を得たときには、その債務名義にもとづく執行は目的を遂げて完結し、この場合には、債権者の再度の執行を防止するため、執行機関は執行正本および受取証書を債務者に交付することになります。しかし、債権者が前記のようにして数通の執行正本の交付をうけているときには、その手許に残った執行正本を悪用すれば、執行機関は執行正本の存在という形式的要件を審査するだけで執行手続を開始するため、債務者は再度の執行をうけるおそれがあります。このような場合に、債務者にはどのような救済手段があるのかというのが問題です。

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第一に思い浮かぶのは、執行債権が満足を得て債務名義に表示された債権が実体的にも消滅したのだから請求異議の訴えによってその執行力の排除を求めるのはどうかということです。次に、一個の地または一種の財産に対する強制執行で債権が完全に満足できたのだから数通の執行正本を付与すべきではなかったとして執行文付与に対する異議を申し立てることが考えられます。最後に、一通の執行正本で債権の完全な満足が得られれば他の執行正本の執行力も消滅すると考えるべきであるため、これにもとづく執行は違法として執行方法の異議または即時抗告によって救済されないかということが問題となります。
異議の訴えは、債務名義に表示された実体上の給付義務を争うことによって、債務名義の執行力を排除し、これにもとづく強制執行を阻止することを目的とします。この訴えの性質については見解が分かれていますが、ここでは一応判例に従って、債務名義の執行力を排除し、これにもとづく強制執行を違法にする効果を生じる判決を求める訴訟上の異議権を主張する形成の訴えと定義しておきます。
請求異議の訴えは前述のとおり、債務名義の形式的執行力を排除することが目的であるため、その当然の前提として、その形式的執行力が存続していることが絶対の要件です。ところが、執行手続によって債権が完全に満足を得たときには債務名義の執行力も全部消滅してしまうと考えられています。
また、請求異議の訴えは、債務名義の成立後執行完了までの間に提起しうりますが、執行終了後はその目的を欠くから許されません。そして、債務名義に表示された債権が完全に満足を得たときに執行は終了すると考えられます。そうしてみると、金銭債権の強制執行が完了して債権が完全に満足を得たときには、債務名義が執行力を失ったという点からみても、執行が完了したという点からみても、もはや請求異義の訴えを提起しうる可能性はないといわざるをえません。
執行文付与に対する異義は、執行文付与の要件を欠いているのにこれを付与した場合に、その違法性を主張して、その執行正本にもとづく執行を阻止することを目的とします。そして、数通の執行正本を付与する要件がないのにこれを付与したというような場合には、当然にこの異議の事由となりますが、異義事由の在否の判断の基準時は、執行文が付与された時ではなく、異議の判断をする時点であるため、執行文付与の当時において適法であっても、その後に付与すべきでない状態になれば、この異議を申し立てることができます。そうすると、本問の場合、Aに複数の執行正本を付与したことが、その付与の時点で適法であったかどうかを問うまでもなく、すでに一通の執行正本にもとづいて執行を完了した現在においては、Aにさらに執行正本を付与する理由がないので、複数の執行正本を付与したことは違法というほかありません。したがって、Bは、執行文付与に対する異議によって、その執行正本にもとづく強制執行不許の裁判を得てAの重複執行を阻止することができるということになります。
強制執行の方法または執行に際して執行機関が遵守すべき手続に違法がある場合に、これに不服を申し立ててその是正をはかるのが執行方法の異義および即時抗告です。また、執行債権の完全な満足が得られたときには、執行は目的を遂げて完了するために、その債務名義が形式的執行力を失うことは前記のとおりです。以上のことから、複数の執行正本の付与をうけて、そのうちの一通にもとづいて執行を完了した場合には、他の執行正本も執行力を失うといわざるをえないために、執行機関がたまたま債権者の手許に残った執行力の消滅した執行正本にもとづいて執行を開始したというような場合には、執行債務者は執行方法の異義または即時抗告に訴えて、その救済を求めることができるとする見解があります。しかし、執行機関は、本来、執行正本の存在を前提にして行動すればよいのであって、それが他の執行正本にもとづく執行の完了により形骸化してしまっているかどうかを審査判断することまでは期待されていないというのが執行制度の根幹のはずです。それにもかかわらず、本問のような場合に、執行方法の異議または即時抗告により救済を求めうるというのは、執行機関がこのような事由を審査判断すべきであることを前提としていると解さざるをえず、仮に、このような事由は審査判断の外の問題というのなら、執行機関の遵守すべき事項の違反をとがめるという執行方法の異議および即時抗告の本来のあり方に矛盾することになります。したがって、本問の場合には、執行方法の異議または即時抗告に訴えて救済を求めることはできないと解されます。

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