手形の呈示と受戻し

手形金の支払いを命じる判決の執行に際して、債権者は当該手形を債務者に呈示する必要はあるのでしょうか。これは満足の段階までは呈示する必要はないと解されます。しかし、強制執行における満足の段階として弁済をうける場合には手形と引換えでなければなりません。手形の支払いには、その呈示と受戻しとが必要とされていますが、その機能は何かというと、まず、手形上の権利を行使するについて、債務者に対し手形の呈示を必要とすることにしておけば、債務者は現在の権利者が誰であるかを容易に認識することができ、さらに裏書の資格授与的効力および免責力とあいまって、裏書の連続のある手形を呈示することにより、債権者の権利行使および債務者の義務の履行を容易にし、その結果手形上の権利の流通を容易にします。また、手形の支払いと引換えに手形証券の交付を要求することにより、債務者はその後に善意で手形を取得した者に対し、二重弁済の危険を免れさせるとともに、遡求権者が支払いをした場合には再遡求の手段を与え、手形の支払性を高めることになるのです。

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強制執行により弁済をうける場合、手形と引換えでなければならないでしょうか。通説によれば、手形の受戻証券性は強制執行により満足をうける場合においても否定されるべきではないため、手形と引換えに支払いを求めることを要します。したがって、執行官は手形を占有し、何時でもこれを債務者に交付しうる状態にある場合にのみ、手形債務に関する債務名義を執行できるとしています。判例も同趣旨です。
これに対しては、仮に手形を債務者に交付せず、その手形が第三者に譲渡されたとしても、期限後裏書によるため抗弁の切断は生じず、手形債務者が弁済の抗弁を主張、立証することも容易であるため、手形債務者が二重払いの責任を負わせられる危険はないとして、債務者に交付する必要はないとの考え方もありますが、遡求義務者については前者に再遡求することもありうるため手形の交付は必要であるというぺきです。
したがって、執行機関としては、手形債務者から支払いをうける場合にはいつでも交付できるよう用意する必要があります。もっとも、執行官に手形交付の職責があるかどうかについては、疑問がないわけではありません。しかし、手形の受戻しは、民訴法五三五条により執行官が債務者に対して執行力ある正本と受取証とを交付するのと同様に解することができるため、同条を類推適用して妨げません。執行官による執行にかぎらず、執行裁判所による執行の場合にも債権者が全額の支払いをうける段階において、同様の問題があります。
強制執行により弁済をうける場合手形と引換でなければならない問題を積極に解するとして、それなら強制執行を開始する場合に、手形を債務者に呈示する必要があるのでしょうか。執行官が債務者の財産である現金を差し押える場合のように、差押と満足が密接した一連の手続によって行なわれるときはこれを区別して論じる実益はありません。
学説は、強制執行により弁済をうける場合手形と引換でなければならないことと同様積極に解しているようですが、主としてこの問題を中心に論じているようであって、あまり明確ではありません。これに対し、判例には消極説によるものがあります。つまり強制執行は債務者に対し履行をうけんことの意思表示、すなわち請求をなすものではないため、手形債権にもとづく場合といえども強制執行を開始するに際し、債務者に対する呈示を必要としないといます。
また消極説を明確に主張するものとして、注解強制執行法二六五頁は、債務名義によって、債権者および法定利息または遅延損害金の起算点は確定されているため、請求のつど呈示が必要であると解さないかぎり、呈示の必要はないというべきであり、債権者が現に手形を所持しているかどうかは、売得金交付の段階でチェックされることで足りるとします。
執行の実務においては、執行官は、手形債権の執行に際しては、債務者から呈示の要求があった場合には直ちに呈示できるよう手形を所持して行なっているようです。
しかし、債務名義により手形権利者は確定しているために、そのうえさらに手形の呈示が必要というのは屋上屋を架することになるというべきです。手形債権による強制執行における満足の段階においては、手形の受戻しを必要とするとしておけば、前述の手形の呈示、受戻しにおいて要求される機能を満足させることとなります。

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