引換給付と強制執行

引換給付を命じる判決にもとづき強制執行をする場合、債権者はどの段階で反対給付の提供をしなければならないでしょうか。引換給付の履行は執行開始の要件であるために、執行開始の段階で反対給付の提供をおこないます。つまり執行官による執行の場合には債権者が執行官に同行して反対給付を提供するか、あるいは債権者が反対給付を履行し、または履行の提供をしたことを書面で証明して執行の開始を求めます。執行官による執行以外の場合にはこの書面を執行機関に提出し、執行開始を求めます。

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引換給付を命じる判決とは、反対給付と引換えに給付を求めることができる請求を表示した判決、例えば乙は甲に対し、甲から金一千万円の支払いを受けるのと引換えに本件建物を明け渡せ等同時履行の抗弁を認容して引換給付を命じた判決等をいいます。この場合明渡しの執行は、一千万円の支払いと同時履行の関係にたち、いわゆる引換給付となりますが、このような引換給付が民訴法五一八条の条件に該当するかが問題となります。もし条件に該当するとするならば、債権者は、条件成就を文書で証明して、裁判長の許可を得た執行文の付与をうけなければならないこととなるからです。
ここにいう条件とは、執行力の発生に係らせた将来の一定の事実であり、かつ、その事実の在否につき債権者が挙証責任を負い、債務名義に掲げられていることを要します。例えば反対給付が先給付の関係にあり、反対給付をまず履行した後に執行債権の履行を求める場合は、この条件に該当することは問題ありません。
ところが引換給付を条件とみると、執行文付与の要件ということになるため、執行文付与の際に、債権者が反対給付を提供していなければならないことになり、債権者に先給付を強いるのと同じ結果となります。かくては同時履行とはならないこととなります。民訴法七三六条後段は、反対給付と引換えに意思表示を求める請求を認容した判決については、確定後反対給付の履行を証明して執行文の付与をうけたときに意思表示があったこととしているため、同条の反対解釈からみても、これ以外の場合は同法五一八条にいう条件とみるべきではありません。
そこで、民訴法七三六条後段以外の一般の場合には、引換給付の履行は、執行文付与の要件ではなく、執行開始の要件と解すべきであり、この点は通説、判例の認めるところです。
以上述べたように、一般には引換給付の履行は、執行開始の要件と解すぺきであるため、執行開始までに、債権者は反対給付を履行するか、またはこれを提供して受領遅滞を生じさせればよいことになります。
執行官による執行の場合には、債権者が執行の際執行官に同行して反対給付を提供するか、あるいは債権者が反対給付を履行し、または履行の提供をしたことを書面で証明すれば、執行に着手することができます。この反対給付の証明書は、必ずしも官公署の発した証明書にかぎられるものではなく、確実なものであれば、執行に着手することができるというべきです。また債務者が反対給付の受領を拒絶しても、債務の本旨に従った現実の提供があれば、執行開始の要件を充足し、執行官は執行に着手できると解すべきです。引換給付の場合に執行開始の要件とされるのは、債権者がすべき弁済の提供であるからです。
問題となるのは、反対給付を執行官が債権者から預って所持し、執行開始の際これを債務者に提供して執行することができるかどうかです。積極説と消極説とがありますが、民訴法五三三条の執行官の法定権限には含まれないため消極に解すぺきです。執行官は債権者の代理人ではないため、法定権限以外の特別の授権の申出があっても、その効力はないと解すべきだからです。 したがって、債権者または代理人が執行官に同行し、反対給付の提供をすべきです。次に執行官による執行以外の場合には、保証の提供に準じて執行前に反対給付を履行しまたは履行の提供をしたことを書面で執行機関に証明し、執行開始を求めることになります。事実上先給付となりますが厳密な同時履行とする手段がないため、やむをえません。執行文付与の要件とまではされていないことで満足するほかありません。その場合この証明書の謄本をあらかじめ、または同時に債務者に送達する必要があるかどうかについても問題があります。学説では積極説が有力です。

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