強制執行開始の要件

公正証書を債務名義として強制執行をしようとする場合、債務名義の送達は、どのようにすればよいのでしょうか。和解調書、調停調書の場合はどうなのでしょうか。公正証書の場合は、債権者は執行官に対しその謄本を、強制執行前、または執行と同時に債務者に送達すべき旨を申立て、それによって執行官が送達します。したがって、債権者は執行官から送達した旨の証明を得て、執行の申立てをすることになります。和解調書、調停調書については、受訴裁判所の裁判所書記官が送達事務を行ないます。送達がなされた場合には、債権者は書記官からその旨の証明を得て執行の申立てをします。

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強制執行を開始するためには、法律は各種の執行手続開始のための共通の要件を定めていて、それらの事項がすぺて具備されていなければならないのです。これを一般に執行開始の要件といわれています。この要件とされている事項は、必ずしも執行申立ての際に具備されている必要はありませんが、執行機関が現実に執行を開始する時点には、その要件が満たされていなければなりません。ここでいう執行の開始とは、執行機関が、執行債務者に対して最初になすべき強制的行為に出た時をいうのであって、その着手の時が執行開始の時点です。例えば有体動産に対する執行の場合は、執行官が債務者の住居等に立ち入って差押物件の捜索をし、または開扉した時であり、土地、家屋明渡執行については、執行官が債務者や同居人に退去を命じたり、家具その他の物件を搬出した時です。たんに債務者に対し、任意弁済を促したり、明渡執行を予告するだけでは執行が開始されたとはいえません。債権、または不動産に対する執行の場合には、執行裁判所からそれらの手続の最初の段階の裁判である債権差押命令、または不動産競売開始決定が発せられた時が執行の開始がなされた時であり、受訴裁判所の執行については、代替執行の授権決定が発せられた時です。これらの裁判が発せられた時というのは、裁判書が裁判所書記官に交付された時にその外部的成立があるからその時が執行開始の時と解すべきで裁判が効力を生じた時、または裁判が送達された時ではありません。
執行開始の要件は、執行機関が独立に、かつ自己の責任において調査しなければなりません。この要件の欠陥に対しては、執行機関はその補正を命じ、それが達せられない場合は、執行申立てを却下しなければなりません。要件の欠陥を看過して開始された執行は違法であり、これに対しては利害関係人は執行方法の異議を申し立てることができます。執行開始の要件には、これが存在しなければ執行の開始ができない積極的要件と、その要件が存在していては執行の開始ができない消極的要件とがあります。
債務名義の送達については、執行開始についての積極的要件に該当し、民訴法五二八条一項後段に規定しているところです。つまり強制執行の基本となる債務名義は、執行開始前か、あるいは執行開始と同時に債務者に送達されていなければならないのであって、その趣旨は、債務者に対して何人からいかなる内容の債務名義をもって執行されようとしているかを知らしめ、執行に対し正当な防御の機会を与えようとするものです。
債務名義の送達について一般的に留意すべき事項として、仮差押、仮処分命令の執行の場合は、保全手続の迅速性の要求から、例外として債務名義の事前送達を要しません。その他に非訟事件手続法三一条二項、二○八条二項、家事審判法二九条二項、刑事訴訟法四九○条二項の場合の執行には、特に執行前の送達を要求していません。代替執行の授権決定のように、本案の裁判を執行するための裁判は、執行開始の一般的要件としての送達は問題となりません。競落不動産引渡命令は、実質上債務名義の執行と異ならないため、執行に際しては送達を要します。
裁判所が職権をもって送達すべきものとされている判決や、仮執行宣言付支払命令については、執行開始にあたりあらためて送達する必要はありません。その他の債務名義については、債権者の申立てによって送達がなされます。債務名義にもとづいて執行するか否かは債権者の任意であるからです。
債務名義を執行開始と同時に送達できるのは、執行官が執行機関の場合であって、執行官に対し直接送達申立てができるものについてのみ実施されます。裁判所が執行機関である場合には同時送達ということはありえません。裁判所は送達機関ではないからです。
同時送達の場合以外は、債務名義を執行前に送達すぺきであるため、執行申立書には債務名義の送達証明書を添付しなければなりません。
公正証書を債務名義として強制執行をする場合には、前述のように、債権者は執行官に対し執行前、または執行と同時に債務者に送達すぺき旨を申立て、それによって執行官が送達します。この送達において民訴法一七一条による補充送達、差置送達ができないときは、同法一七二条により執行官自ら書留郵便に付して送達ができる債務者の住所、居所不明のため送達できないときは、債権者は裁判所に対し公示送達の申立てをし、裁判所の許可を得たうえで、執行官に公示送達の中立てをすれば、これによって執行官は民事訴訟法の規定にもとづき公示送達を実施します。
送達すべき公正証書は謄本でよく、債権者は公正証書謄本が送達された後、執行官からその送達証明書を得て執行の申立てをすることになります。
和解調、調停調書のごとき裁判所で作成される債務名義については、受訴裁判所の書記官が送達事務を行ないます。債務名義の送達は、執行行為ではないため、民訴法五四二条の適用はありません。したがって、債務者が所在不明等の場合は、公示送達の方法によるべきです。送達すべき和解調書等は正本でするべきか、謄本でよいかは問題のあるところです。民訴法一九三条二項には、判決の場合は正本を送達すべき旨規定されていますが、他の債務名義の場合は特に正本をもって送達すべき旨の規定がないからです。確定判決と同一の効力を有する和解調書等については、正本を送達すべきであるとも解されますが、送達は原則として謄本によるべきものとされており、先に述べたように、債務名義の送達の趣旨からすれば、謄本であっても債務者の保護に欠けるものとはいえません。実務上は正本によって送達されている例が多い。和解調書や調停調書を、執行開始の前提として債務者の訴訟代理人に送達することの可否については、議論がありますが、民訴法八一条一項からすると、委任の範囲内として訴訟代理人に送達することは認められます。しかし、和解等成立後に代理人が辞任していることも有り得、債務名義の送達は債務者の利益を保護するためになされることを考えると、債務者本人に送達するのが妥当です。送達がなされた場合には、債権者は当該裁判所の書記官から送達証明を得て執行申立てができます。
債務名義の送達がない間になされた執行行為は違法ですが、その効力に関しては見解が分かれています。当然無効説では、その執行行為は当然無効であって、後日債務名義が送達されても、なお無効です。
補正説では執行行為は無効ですが、取り消されない間に送達されれば、瑕疵が補正され有効になります。
取消説では、執行行為は、取り消されないかぎりは一応有効で、その間に債務名義が送達されれば瑕疵は治癒されされます。
民訴法五二八条は、たんに執行機関に対する訓示的規定ではなく、これに違反する差押は違法であることは疑問の余地はありません。そうだとすれぱ、債務名義の送達という手続を欠いた執行行為は無効であるといわざるをえません。しかし金銭債権の執行について、法は平等主義がとられ、債権差押、転付命令の場合を除いては、広く他の債権者の配当加入が許されているために、このような違法な執行であっても、一般債権者に不公平を生じるおそれはなく、法律は例外的にもせよ債務名義の事前送達を要しない場合を認めていることを考えあわせてみると、当然無効説を採ることには疑問です。債務名義の送達は、債務者の利益を保護することにあるので、この要件の不備については債務者の責問権の行使に委ね、債務者が執行方法の異議や抗告によって取消を求めないかぎり当該執行行為は有効であり、取り消されない間に債務名義が送達されれば暇疵は遡及的に治癒されるとする取消説に賛成するものです。ただ債権差押、転付命令の場合は、他の債権者はこれに対し配当要求ができない関係にあるので他の債権者の利害関係を考慮し、債務名義送達前になされた債権差押、転付命令は無効と解する判例の見解は相当です。

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