賃料滞納での家屋明渡し強制執行

和解調書に被告が賃料の支払いを二ヶ月分以上怠ったときは、本件賃貸借契約は当然解除となり、被告は原告に対し本件家屋を明け渡す旨の条項があります。原告が被告の賃料不払いを理由に家屋明渡しの強制執行をするにはどのような手続によるべきでしょうか。また被告の救済手続どうでしょうか。原告は直ちに執行文の付与をうけ、強制執行に着手できます。被告は請求異議の訴えにより救済を求めるべきです。条項を含む和解調書は、明渡しの強制執行の債務名義となります。和解調書は確定判決と同一の効力を有し、これを債務名義とする強制執行については判決による強制執行に関する規定が準用されますが、準用される民訴法五一八条二項によると、執行力、条件に繋る場合には、債権者は証明書をもってその条件の履行を証明した場合にかぎり執行文の付与をうけられるものとされ、かつこの執行文の付与には裁判長の命令を要するものとされます。債権者が証明書による証明をなしえないときは、執行文付与の訴えを提起して勝訴判決を得なければなりません。これを債務者の側からみると、民訴法五一八条二項の適用があれば、執行文付与に対する異議により執行文付与手続の違法を争う際に証明手続の点を問題にしうるし、また条件成就を争って執行文付与に対する異議の訴えの方法で明渡義務の不存在を主張することになるのに対して、民訴法五一八条二項の適用がなければ、明渡義務の存在を争う方法は請求異議の訴えによるしかないことになります。このように、民訴法五一八条二項にいう条件に繁る場合にあたるかどうかによって、債権者のとるべき手続も異なり、これに対応して債務者の防御手段も異なってきます。問題に例示した和解条項は、一見、債務者の賃科不払いを明渡義務の条件とするようにみえます。民訴法五一八条二項にいう条件に繋る場合とはどういう場合をいうと解すべきかが問題になります。

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昭和四一年一二月一五日判決と、同四三年二月二○日判決の二つがそれで、前者は、債務者が賃料を支払わないときは、債権者は賃貸借契約を解除できる旨の条項がある場合につき、債務者の不払いによる解除の事実は民訴法五一八条二項にいう条件にあたらないとしたもので、その理由として、民訴法五一八条二項にいう条件とは債権者が立証の責任を負う事項をいい、債務者の立証責任を負う事項を含まないとの一般論を明らかにしたうえ、このような和解条項がある場合に債権者が不払いの事実を立証する責任を負うのではなく、債務者が支払いの事実を立証する責任を負うと解するのが公平に合致するとしています。そして、債務者が賃料の支払いを主張立証して明渡義務の存在を争うには、請求異議の訴えによるべきであって、執行文付与に対する異議の訴えによるべきものではないと判示しています。後者は、本問の例と同じく、債務者の賃料不払いにより賃貸借契約は当然解除となる旨の条項のある場合につき、前者の判決を引用して同旨の結論を導き、さらに、請求異議の訴えと執行文付与に対する異議の訴えとはそれぞれ別個の目的を有する訴えであって、一方の訴えの事由とすべきものを他方その訴えの事由とするのは不適法な訴えであると判示しています。
この判例に従うかぎり、本問の解答はすでに明らかです。しかし、この判例以前は下級審の判例は区々であったし、実務の取扱いも一定せず、学説も分かれていました。判例により実務の取扱いは統一の方向に向かうと思われますが、学説上は判例の結論に疑問を述べる見解も多く、なお重要な問題であることにかわりはありません。
民訴法五一八条二項にいう、条件に繁る場合とは、義務の発生が債権者が立証責任を負う事実にかかる場合をいうとの一般論は、学説上も通説といえます。最高裁の判例も賛成が多い。これに対して、立証責任の分配は両当事者が対等の立場で主張立証の機会を保障される訴訟の手続において妥当するものであり、債務者側に主張立証の機会の保障されない場合にこの原則を適用して問題を解決するのは誤りであるとの反対説があります。
次に、一般論として判例、通説の見解を承認したうえ、さらに本問のような条項のある場合について、不払いの事実は債権者の立証責任に属しないとして最高裁の結論を支持するものと、一般論は承認しつつ、本間のような条項のある場合は、不払いの事実が債権者の立証責任に属するとする見解が対立しています。
このように、論点は二段に分かれますが、結論として民訴法五一八条二項の通用を認めるか否かの判断にあたっては、その結論によって両当事者のおかれる立場を考慮し、それぞれに実質的正当性を主張していることを見落としてはなりません。消極説にたつ者は、債務者は執行をうけるおそれがあれば請求異議の訴えを提起して執行停止決定を得る途があり、突然の執行に際しても、賃料の領収書を民訴法五五○条四号の書面と解して執行の一時停止を得ることができるため債務者の保護にとくに欠けるところはないのに対して、積極説によると債権者は証明書によって不払いの事実を証明することは不可能に近いため、ほとんどの場合重ねて執行文付与の訴えを提起せざるをえなくなり、債権者の不利益が著しいといいます。これに対して、積極説の論者は、消極説では債務者はつねに執行の危検にさらされており、消極説のいう対抗手段も万全でないため債務者の不利益が著しいのに対して、積極説をとっても、証明書による証明を緩和するなら、債権者の不利益はさほどではなく、運用上の工夫によって対処できるとしています。

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