執行力ある正本の数通

執行力ある正本の数通、または再度付与は、どのような場合に許されるのでしょうか。これは一個の請求権について、別個の地域、または執行手続を異にする各種の財産に対し執行する場合に数通の執行力ある正本の付与が許されます。そして、すでに付与した執行力ある正本を、紛失、または毀損、あるいは焼失した場合、執行力ある正本を債務者に交付した後で、執行債権の完全な満足をうけなかったことが判明した場合などに再度付与が許されます。
執行力ある正本は債権者に対しては執行申立ての権限を与え、執行機関には執行追行の職権と職責を与え、かくしてそこに表示された請求権の実現を目的として一切の手続が進められてゆくもので、強制執行の出発点をなすとともに、終始その中心をなすものです。したがって、執行力ある正本にもとづかないでした執行は無効であり、私人の合意により、執行力ある正本なくして執行しうるとすることは許されません。
一方これが存する以上、執行文を付与した裁判所の管轄区域内にとどまらず、日本の裁判権の及ぶ地域ならどこでも強制執行ができるのであるところで、執行力ある正本は債務者が義務を完全に尺くすまではこれを交付することはないため、債権者が強制執行をするについては原則として一通あればたりるのです。しかし法律は一個の地、または一個の執行方法で強制執行をするも、弁済をうけることができないときは、数通の執行力ある正本にもとづき、数個の地、または一個の執行方法をもって同時に強制執行をなすことを許しあるいは前に付与された正本を返還せずに、さらにこれを求めることができるとしています。

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債権者は、一個の請求権についての同一の債務名義にもとづき、別個の地域において、または数種の執行方法により執行をしなければ請求権の完全な実現ができないときは、同時に数通の執行力ある正本を求めることができます。この数通の執行力ある正本の付与ということは、主観的にも客観的にも同一の請求権を基準とするものです。
債権者が、債務者に対し数個の請求権を有することが一個の債務名義で確定している場合、例えば和解調書や調停調書などに多くみられるのですが、土地、または建物の明渡しと、金銭給付条項を内容としているときは、一個の和解調書等であっても明渡しと、金銭給付条項のそれぞれが債務名義となるために、債権者が明渡請求について執行力ある正本の交付をうけ、後日金銭給付の請求について執行力ある正本の交付を求めることは数通付与とはいえません。一の債務者に対するA不動産と、B不動産の引渡しを命じる判決につき、A不動産の引渡部分と、B不動産の引渡部分につき、それぞれ別個に執行文を付与する例も数通付与ではありません。
数人の債権者が同一債務者に対し各別の請求権を有することが一個の債務名義で確定している場合に、その債権者がそれぞれ自己の請求権について執行力ある正本を求めても数通付与ではありません。
数人の債権者が、一人の債務者に対し、一個の請求権を有する場合は、数人の債権者に各別に執行力ある正本を付与しても数通付与ではありません。この場合、一人の債権者が執行によって請求権の満足をうければその範囲において全債権者の債権は消滅します。
一債権者が数人の債務者に対し、それぞれ別個の請求権を有することが一個の債務名義で確定している場合に、債権者が各債務者ごとに執行力ある正本を求めることは、数通付与とはいえません。
連帯債務者数人に対し、連帯して、または各自金銭の支払いを命じる判決の場合は、各債務者ごとに一個の給付命令があり、これを基準に通数を数えればよく、したがって、数人に対する執行のためそれぞれに執行力ある正本を付与するのは、数通付与ではないし、時期を異にして各債務者に対する執行のため、順次執行力ある正本を付与するのは再度付与ではありません。
すでに執行力ある正本の付与をうけたのに、さらに執行力ある正本の交付をうける必要があるときとは、次のような場合が考えられます。
すで付与した執行力ある正本を紛失、または毀損、あるいは焼失した場合。
執行力ある正本を債務者に交付した後で、執行債権の完全な満足をうけなかったことが判明した場合に、さらに執行力ある正本の付与が許されます。
再度付与についても、前述のように同一の請求権を基準として考えるべきであって、債権者が同一債務者に対し数個の請求権を有することが一個の債務名義で確定している場合、一の請求について執行力ある正本の交付をうけ、他日他の請求につき同正本の交付を求めることは再度付与ではありません。

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