執行当事者の死亡と執行手続

AがBに対する金銭債権の強制執行を申し立てようとしている間にBが死亡したため、Bの相続人の一人であるCに対する執行文の付与を求めましたが、その時点ではCが相続放棄をするかもしれ場合に裁判所は、どのようにすべきでしょうか。これはCに対する承継執行文を付与することができます。強制執行の開始後に債務者が死亡した場合、強制執行は、相続人に対する承継執行文の付与をうけることなく、遺産に対して続行することができます。これに対して、強制執行を開始する前に債務者が死亡した場合には、債権者が債務者に対する執行文の付与をうけ、強制執行の準備を完了していたとしても、遺産に対する強制執行を開始することはできず、あらためて相続人に対する承継執行文の付与をうけなければなりません。

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相続人は、被相続人が死亡した時、被相続人の財産に属した一切の権利義務を当然に承継します。つまり相続人は、相続が開始したこと、自己が相続人であること、あるいは相続財産の範囲を知っているかどうかにかかわりなく、被相続人が死亡した時点で当然に遺産を承継するのです。しかし、相続人は、遺産に属する権利義務の承継を強制されるはずはなく、このような相続人の利益を保護するために、相続放棄の制度が設けられています。相続放棄は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から原則として三か月以内に、被相続人の住所地または相続開始地の家庭裁判所に相続放棄をする旨等を記載した申述書を差し出しておこないます。そして、この手続きを経て相続の放棄をしたとき、相続人は、相続開始時にさかのぼって相続人とならなかったこととなります。つまり、熟慮期間内における相続人は、相続の開始と同時に一応相続財産を承継するものの、その帰属は確定的なものではなく、相続を放棄するならば一度も承継しなかったこととなりうる地位にあるということができます。
このように熱慮期間内における相続人の地位が不確定なものであるため、このような相続人を強制執行法上の承継人として、同人のためにまたは対して執行文を付与することが許されるかどうかが問題となります。
学説は、積極、消極の両説に分れます。まず、積極説は、債務者が相続人であることとその相続人が現に相続を放棄していないこととが相まって民訴法五一九条の承継人ということができるため、この各事実が証明されるときは承継執行文を付与しうるとし、あるいは、承継執行文の付与をうけようとする者は、承継の事実を立証しなければなりませんが、挙証責任を負うぺき事項は、承継後の時点で承継を原因とする給付請求訴訟を提起した場合に立証すぺき事項以上でもなく以下でもないと考えるべぎであるため、相続の場合には、相手方が推定相続人であり、かつ被相続人が死亡したことを証明して執行文の付与をうけることができ、相手方は、熱慮期間内であること、または相手方が相続を放棄した旨主張して、執行文付与に対する異議の訴えによりこれを争うべきであるとしています。
これに対して、消極説は、熱慮期間内は相続財産はまだ確定的に相続人に帰属しない等不確定な状態にあるので、単純承認なきかぎり相続人に対する承継執行文を付与することは許されないとしています。
相続人は、熱慮期間内において相続放棄をなしうるがために前記のような不確定な地位にあると考えられるのですが、相続放棄をしないかぎり、被相続人の死亡と同時に当然に相続財産を承継し、自己の承継した相続財産を有効に処分しうる地位を有するために、これをもって民訴法五一九条の承継人に該当すると解することはできます。ただ、熱慮期間内において相続人に対する承継執行文を付与し、同人に対する強制執行を開始したとしても、その後相続人が相続放棄をしたときは、初めから被相続人の権利義務を承継しなかったこととなるため、その相続人に対する強制執行は違法となります。したがって、熟慮期間内において相続人に対する承継執行文を付与し強制執行をなすことを許すことは、強制執行手続の安定性を害するおそれがあるとの批判が予想されます。しかし、強制執行においては、手続きの安定性とともに迅速な権利の実現という要請を無視することはできません。つまり、熟慮期間は、前記のように起算点が不確定であり、かつ原則として三か月と定められてはいるものの伸長されることがあるため、債権者にとって明確な期間ということはできず、また相続人の権利関係が必ずしも短期間で確定するということもできません。したがって、相続人の地位が確定的となるまで相続人に対し承継執行文を付与しえず、強制執行を開始することができないと解することは、債権者の迅速な権利の実現を阻害するおそれがあるというべきです。特に債権者が相続財産に対して強制執行を行なう場合を考えれば明らかです。つまり債権者は、債務者死亡前においてはその財産に対し、即時、強制執行を開始しえたにもかかわらず、たまたま債務者が死亡したことによって、相続人の地位が確定するまでその権利の実現を遅延させられることとなるからです。この点を考慮するとき、熟慮期間内における相続人を民訴法五一九条の承継人として取り扱う積極説は妥当であり、債権者は、被相続人が死亡した事実と相手方が相続人であることを証明したとき、承継執行文の付与をうけることができ、相続人は、相続放棄をしたとき、それを理由に執行文付与に対する異議を申立てまたは異議の訴えによりこれを取り消すことを求めることができると解すべきです。
本件の場合、Cは共同相続人の一人であり、相続債務は金銭債務であって可分なものであるため、相続開始と同時に相続分に応じて各相続人に帰属します。したがって、Cに対する承継執行文を付与する際には、相続分に従ってCに対する執行可能の債権の割合を執行文上明記しなければなりません。
相続人は、熟慮期間内においても相続財産に対する管理権を有するところ、執行文の付与を申し立てる行為は管理行為に含まれると解することができ、仮にこの行為が処分行為にあたるとしても、申立てをすることによって単純承認したものとみなされ、相続財産に対する相続人の地位も確定するからです。
相続人に対する承継執行文付与に関する積極説によったとしても、後に相続放棄をしたとき、強制執行手続は違法となり、債権者は、再度、確定した相続人に対する強制執行手続をとらなければなりません。この結論は、現行法の解釈としては避けることのできないものであり、結局その解決は立法による以外はありません。従来、立法論として、遺産管理人あるいは特別代理人制度等が検討されましたが、強制執行法要綱案第九は、債権者は、債務者の遺産に対して強制執行をするには、債務名義に掲げられている債務者に対する執行文の付与をうけ、その執行文をあらかじめまたは同時に知れたる相続人全員に送達したときにかぎり強制執行を開始することができることとし、執行文付与後にわける相続人および相続分の変動によって、強制執行手続が影響をうけないこととしています。

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